元男爵令嬢からの手紙
親愛なるお父様へ
お父様、助けて!
今、貴族牢の中からこれを書いています。
王太子妃の私が、何でこんなところに閉じこめられなきゃならないの!
私、ちゃんとお父様の言うとおりにしたのよ。
アレクシス様に近づいて、彼に気に入られるように。彼の願いは何でも聞いたわ。愚痴も聞いてあげて、身体だって捧げた。その甲斐あってようやく王太子妃になれたのに。
結婚してから、アレクシス様は変わってしまった。
いっつも不機嫌な顔をして、相手をしてくれないの。それに、私に毎日十時間も講義を受けろっていうのよ?
そんな長い時間椅子に座っていたら、腰が痛くなっちゃうわ。それに先生たちはとっても厳しくて、すぐに私を叱るの。
あの人たちの話は難しくて全然分からないんだもの。自分たちが教えるのが下手なだけじゃない?だからクビにしてやったら、陛下から怒られちゃった。アレクシス様も庇ってくれないし……。
それもこれも、あの女のせいよ。
先生たちはみんな、クリスティーネ様ならこのくらい余裕で出来ましたよなんて言うの。ムカつく!
しかもあいつ、女のくせに執務を手伝っていたんですって。
アレクシス様が、執務が溜まって困るとグチっていたから、あの女を呼び戻したらと提案してみたのよ。田舎領主に嫁がされて後悔してるだろうから、今ならホイホイ戻って来るんじゃないかって。
なのに。戻ってきた手紙を読んだアレクシス殿下は怒り出して、「騙された!」と叫んで私を殴ったの。ひどくない?
訳が分からなくて泣いてるのに慰めるどころか、私を引っ張って貴族牢に押し込めたの。
きっとあの女が、何か告げ口をしたに違いないわ。
こんなことなら、ディンケル侯爵の令息か、アルトナー伯爵令息へ嫁いだ方が良かった。
ううん、今からでも遅くないわ。あの人たち、私を熱心に口説いていたもの!
だからお父様、助けに来て。
お父様はいつも私だけが可愛い、愛してるって言ってくれたわよね。お義母様は不細工、お姉様もお義母様にそっくりで可愛くないって。
ここはとても寒いし、侍女もいなくて寂しいの。
なるべく早くしてね!私、待ってるから。
貴方の可愛い娘、グレーテより