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俺は異世界に転生するらしい。
そして能力を決めることになった。
「異世界は過酷じゃ。もし仮に、まぁないとは思うがお主が適当な能力を選ぼうものならお主は死亡してしまう。車に敷かれた子猫のようにあっけなくな」
「それは絶対に嫌だ。道路に転がる動物を見るたびに、肉塊の気持ち悪さが全身を駆け巡ってくるんだ。あんなのと一緒になるなんてまっぴらごめんだ」
「動物愛護精神のかけらもない発言じゃな。お主を見直したぞい。そんなお主にはそうじゃな、一応希望を聞いておこうか」
「俺はとにかく最強の能力を享受したいです。最強を持って、最強へと成り上がりたいんだ」
「まぁ当然魔王を倒して貰いたいわけじゃから、相応の能力はくれてやろう。じゃがその言い分じゃとそこまで能力の形には固執しておらんようじゃの。よしわかった、この儂がこれだと思う最強の能力を選んでやろう」
「本当ですか? 助かります」
「よし、それではお主の能力は、創造魔法に決定じゃ!」
創造魔法……? なんだろうか。
「ハテナなお主に答えると、創造魔法はその名の通り自分で魔法を生み出せる力じゃ。己で己が望むママの魔法を顕現させることができる。まさに神の力の模倣じゃの」
「なんだよそれ! すっげええええな! もうウキウキが止まれねぇよ。貧乏ゆすりがくせになってるんだが、それを上書きしてくる身震いを感じるよ」
「それは凄いの。天才じゃの。それじゃあ早速転生させるが、くれぐれも遊び呆けるなんてことはないようにな。このまま魔王をほうっておくと確実に人間は滅んでしまう。それじゃと世界が成り立たなくなるゆえそうなる前にお主の手で魔王を叩くのじゃ」
「任せてくださいよ。俺だって異世界を楽しみたいんだ。魔王によって滅ぼされた暗黒世界で過ごすつもりはない。否が応でも魔王とやらとぶつかるタイミングは訪れるさ」
「それもそうか。それじゃあ頼んじゃぞ。遊ぶんでないぞー」
そうして俺の体は光に包まれ始めた。
おお、これから転生するのか俺。
いや転生なのか? ただ移動するだけのような。まぁ別の世界で新たな人生を構築するわけだから生まれ変わるてことでいいよな。
心機一転。
俺は本気で世界を取ってやる。
俺がナンバーワンになって、とことん異世界を楽しんでやる!
もうあんなみみっちい人生なんて嫌だからな。
やりすぎってくらいまで楽しむぞーおおお!!
シュううううン……
まばゆい視界が晴れてくる。
俺の眼の前に広がる景色は……草原だった。
「おお、まじで転生してるじゃんか。ここが異世界ってことでオーケーなのか?」
俺は自分の身なりを確認してみる。
なんとも言えない異国風の服……まぁ旅人と評するのが近いような地味な服装に身を包んでいた。
「なるほど、異世界って感じがするな。でもこれだけじゃ本当に異世界に転生したのか分からない。魔法を放ってみよう」
俺は早速魔法を撃ってみることにした。
ここが仮に異世界だとしても、魔法を撃てないことには話にならない、死ぬだけだ。
それにとにかく魔法を早く撃ってみたいという気持ちもある! もう収まらねぇ!!
「最初はやっぱり炎魔法とかかな。よーしファイヤーボール!」
俺は手を突き出し、炎を飛ばそうとしてみた。
巨大な炎が手の平から放たれ、どこかへとすっ飛んでいった。
遠くで大爆発が起こった。
「が、がひょおおおおおお! こりゃ凄い! もう最強だな、やっぱり最強だな。もう俺に怖いものなんてまるでないな。ファイヤボ! ファイヤボ! ファイヤボ! ボボボボボボ!!」
俺は調子に乗ってファイヤーボールを連発してしまった。
もう遠くのそこかしこで大爆発が起こる。
世界の破滅かなと思うくらいの景観だ。
「ふぅ、魔法って気持ちいいね! こりゃまじで最高だ。こんな魔法そうそうのことじゃ撃てないだろうし、俺はもういきなりこの世界最強核なんじゃないか? これでもし気に食わないやつが出てきたとしても、この魔法で瞬殺できるな。ぶっ殺してみてぇなぁ。早くぶっ殺してぇよ。相手の恐怖ににじむ顔を見た上で、にやっとして殺してええええ。ああだめだもう衝動を抑えきれなくなってきた。もう誰かをいたぶらないと俺の昂りは収まらない」
ということで俺は人を探すことにした。
「どこだー!!」
俺は叫んでみた。
しかしこんなもので草原において誰かに声が届くわけもない。
「魔法を使うか。探知魔法発動!」
俺は近くの人間を探す魔法を唱えてみた。
遥か遠くに反応が見られた。
五十人くらいがまとまっているようだ。
「そこまでいってみよう! まずは一人殺して、俺の恐怖を植え付ける。そのうえで逃げていくやつから順に殺して、完全に俺に逆らえなくする。そうして生き残りを一度に集めて、俺の恐怖を感じさせながら、なぶるように殺していくんだ。ほっほーーー!! まじで最高のさくせんだぜええええええ!!」
俺は空を飛ぶ魔法を使った。
足が地面から離れ、宙を浮く。
そのままジェット機のような速さで、空へと舞い、人間が集まっている場所へと向かった。