9 準備
巨木から飛び降りてアナが川を見かけた方へ歩いていた。リアは心労でげんなりとしてアナの後につづきトボトボと歩いていた。アナが颯爽と降下した後、リアが樹上で立ちつくしたのはいうまでもない。何とかして降りたのだが、恐怖で覚えていないし思い出したくもなかった。川へ向かっているが、周りのどこかしこも木がそびえ立っているので、方向感覚をすぐに見失いそうになり、目的地に真っ直ぐ進んでいくのは難しい。歩いてきた道の方向がずれていないか気を張らねばならず、速度を上げることは難しかった。もう太陽は南中高度から30度ほど傾き、森の中は薄暗くなってきた。
アナは歩くのをやめて付近の木々の周囲を確認する。動物の糞や爪痕が木の近くにないかを見て回る。
「暗くなる前に寝床をつくらないと、ここにしよう」
アナは2本の木々が並んで立っている間の前に立った。先ほど登った巨木よりはまだ樹齢が若く、細いがそれぞれの木はアナが手を広げたくらいの大きさがあり、頑丈そうだった。森林ですごす事になれているといってもここは未知の場所で心細い。どんな時も油断は出来ないが、この丈夫な木の間で挟まれて寝れば安心できそうだと考えた。リアもそう思ったらしく、頷いた。
「木の間にひもをはってハンモックをつくれたら安全だよね」
地面に接したまま寝ると、知らない間に小動物におそわれる危険がある。リアは何かひものかわりに使えるものがないかとあたりを見回した。
「うん、できたら地面から離れて寝たいな。じゃあリア、寝床づくりは任せたね、私は火起こしするから」
アナも火を起こす材料になる木々や葉っぱを探しに行く。地面に落ちている大小さまざまな長さと太さの木をしゃがんでひろっては寝床にすると決めた2本の木の前へ運んでいく。火をつけやすい、なるべく乾いた木を探したが、湿気が多いこの気候ではなかなか見つからず苦労した。アナが木々を探しに離れているとき、リアは2本の木の状態を確認しようと木の周りをまわった。太い木なのでひもを巻きつけた時に安定感はでそうだが、幹を一周囲む長さのひもをつくるのは難しそうだと思った。リアは周囲にある材料となりそうなものに見当をつける。くつ代わりにした大きなうちわのような葉やつる、繋がった葉っぱなど、辺りには道中で散々目にした植物と変わりなかった。それらを見て、つるは長くてひも代わりになりそうだとリアは考えを改める。始めは無理かと思ったが、木にまきつけてハンモックの寝床がつくれそうだ。リアは完成図を思い描きながらカバンの中からナイフを出し、つるを切りに向かった。つるはそこら中にあり、手に入れるのがとても容易だったが長いつるをあつかうのには多少苦戦した。リアは汗をかきながら何重もつるを巻いて木の間に交差させ、網目状の土台をつくった。そしてその上に大小さまざまなかき集めてきた葉っぱをたくさんのせる。緑のベッドが完成した。