花火大会。
焼きそば。りんご飴。射的。金魚すくい。その他沢山の出店が2列に真っ直ぐと並んでいた。大勢、来場者は3日間で1万人強と予想され広めに作られた参道はそれでも窮屈と感じる程に人が集まっていた。
浴衣を着ている人が多ければ夏祭りとして風情があるものだがあいにくとそんな高価で動きにくいモノを所有している者は少なかった。その代わり後ろに団扇の中に“祭”と書かれたTシャツが事前に配布され殆どがそれを着て夏祭りと言うイベントに心を弾ませていた。
「おがあざああん!!」
出店の横で泣いている子供がいた。
それを見て誰か、見る限り男性の人が子供に歩み寄りどうなさいました? と子供の目線に合わせて腰を下げ声をかける。
子供は聞く耳を持たず酷く、声を潰しそうな勢いで泣き続ける。
近づいた男性以外は注目もせず泣き声にも反応を示さない。それを無視して男性は子供の顔と髪の毛に赤い液体が付いているのを見て足元にある落ちたカキ氷に注目する。氷が地面に触れてかかっている赤い液体もろとも土に染みていてとても食べれそうにない。
「カキ氷をあげましょう! イチゴ味です!」
男性はトーンを高くしてテンションを高めにそう言う。
『これから、花火を打ち上げます。危険ですので参道で見るときは他の方の通行の邪魔に成りませんようにご注意ください』
アナウンスが入ると同時に夜空にはライトアップされた小型空走幾かどこに打ち上げられるかの目安を教えてくれる。風情返して。
夏祭り最大の行事な事だけあって皆楽しみにしていた。
花火は技術が発展する中、昔ながらの技術職の数が少なくなっていく中火薬などの扱いも厳しくなった事が追い打ちをかけ後継者がいなくなった事で尺玉を作る技術は失われていた。
しかし、近年になってAIでの製法が可能になったのを期に夏祭りのイベントが計画された。
AIによる制御下で事故が起きても誰一人として怪我をしないほどに安全策が施された打ち上げ設備。誰もが楽しみにしていた。
特に、尺玉を作るAIを作り上げた張本人である彼、【ノア】は誰よりもこの時を楽しみにしていた。
『それでは、空に咲く光の花、お楽しみください』
花火がヒュ〜〜〜と鳴きながら一粒の光が空に上がっていく。
爆発音と共に飛び散る血。それを見た人達は悲鳴をあげその場から散乱して逃げ出す。
「危険です! 走らないでください! 危険です! 走らないでください! きけ」
「邪魔だよ!」
注意を促していた女性は必死な表情で走る男性に突き飛ばされ出店の裏にあるバッテリーに頭を打ち付けその衝撃は強くバッテリーが故障し女性に高圧の電流が流れる
「キケンデス ハシラナイデクダサイ ハシラナイデクダサイ ハシラナイデクダサイ」
女性は黒いけむりを出しながら同じ言葉を機械音で繰り返す。
『迷子のお知らせです。赤い服に青いズボンの男の子が焼きそばの屋台で迷子になっていました。心当たりのある方は迷子センターまでお越しください』
「ああ! 緊急衝撃避難警告プログラムが発動してない! よりによってこんなときに! 」
ノアはこの状況を唯一把握していた。混乱する人達を横目に逆に落ち着きすぎて周りに注意を促している人を見つけるや否やポケットから端末とコードを取り出すと乱暴に頭を掴んで静止させてコードを彼の項にある穴に刺す。
「コード081513! 権限ノア! インパクトブレイク発れ!」
その直後、その人は、正確に言えばアンドロイドは不自然に軋む音を建てず歪み始める。正確に言えば空間がネジ曲がりアンドロイドはそれに巻き込まれて行く。
それを見たノアは咄嗟に一歩下がるも爆発音と共に衝撃波が走り大きく後方へ飛ばされ迷子センターの窓ガラスに当たりそのまま中へ割って入る。
ビチャバシャっと数回回転して水溜りの上に着地したのかと痛みに耐え苦痛の表情で目に刺さった破片を引き抜いて体を起こす。
床は浸水したのかと疑うほどに血が溜まっていた。
室内は比較的安全と言う心理が働いたのか、沢山の人達の体が削れたり、一部がなかったり、何かの破片が刺さったり、現時点で意識があるのはノア一人だけだった。
『緊急衝撃避難警告です。早急に神社から避難してください』
いま頃の放送には意味がない。大混乱の中避難した人は助かったが避難してない人はノアを除いて誰一人助かる見込みが無かった。
割れた窓から救助隊の隊服を着たアンドロイド達が入ってくる。全身血まみれのノアを見て彼は真っ先に救助された。
彼の目は絶望を灯していた。力が入らない。救助隊により運び出された彼は夜空に打ち上げられる花火の光はノアの両目に焼き付いていた。
じかい異世界へごー!