合法ショタエルフ、チャイとの出会い
「つまり、ユーは故郷を救おうと旅をしていたの?」
「うん。そうだよ」
「どこから来たのじゃ?」
「ここからずっと東。森の反対側。エルフの里」
アメリコとヒメノの問いかけに、花嫁姿の少女……もとい。少年は素直に答えた。
名前は、チャイ。
日焼けしたような肌が健康的な、美少女のような男の子。
背はヒメノよりも少し小さい。表情は柔和だが言動は元気な少年そのものだ。そのギャップがまた可愛らしい。ヒメノは自分の趣味にドストライクすぎていちいち目眩がした。
瞳の色はアクアマリンのような淡いブルーで、その美さに思わず見入ってしまう。
あごのあたりで適当に切りそろえた水色の髪の隙間から、エルフ族の特徴、すこし尖った耳が見え隠れしている。
「使命を負って一人旅とは、偉いのう」
「子供扱いすんなよ、これでも大人だぜ」
「大人……?」
フルーツを頬張りながら会話を交わす。三人とも飢えを満たし、渇きを癒すのに忙しかった。南国フルーツのような味の果物は、程よく熟れていて果汁も滴る美味しさ。水分と糖分の補給のみならず、美容と健康にも良さそうだ。
「ハウアーユー、チャイはいくつなの?」
「16歳」
「フアッツ!?」
「っ……なんじゃと?」
「村じゃ成人の儀式も終えてるし」
胸を張るチャイ。その表情はやっぱり子供っぽい。どうみても10歳にしかみえない。
「Oh、ヤングアダルト、大人なのね」
アメリコは目を丸くした。見た目は子供、中身は大人。エルフ族は長寿だという話も多いし、人間とは年のとり方が違うのだろう。
「合法ショタエルフとは……フフフ。なかなかの逸材じゃ」
「ヒメノは嬉しそうね」
黒髪の乙女は、チャイを見てニンマリと邪悪な笑みを浮かべている。チャイはそれに気づいたのか、ささっとアメリコの横に腰をうごかした。
「いやその……。やっと人間に出会えて嬉しくて、ついの」
「それはそうね! 魔物らだけの世界じゃなくてよかったわ」
「こ、こっちこそ助けてもらって、ありがと」
アメリコがチャイの手をにぎると、すこし顔を赤らめた。少年エルフがちらっとアメリコの大きな胸に視線を向けたのを、ヒメノは見逃さなかった。
「お……お姉さんたちは、魔女なんだよね!?」
チャイは食べ終えたフルーツの芯を投げ捨てて、二人に向き直った。
「Oh、魔女……?」
「まぁ銃をぶっ放して魔物を倒したんだから、そう見えても仕方ないのぅ」
「でもミーは魔女じゃないわ」
「ここは話を合わせるのも手じゃ。説明が面倒じゃからの。魔女だということにしておくのはどうじゃ?」
「確かに別の世界から来て……なんて、説明するのは大変そう」
アメリコとヒメノは「そういうこと」に口裏を合わせることにした。
最初に名乗ってはいたが、あらためて自己紹介をする。
「私がアメリコ。銃をガンガン撃つ魔女ね!」
「ワシはヒメノじゃ。刀剣を操る」
二人に真剣な眼差しを向け、チャイは意を決したように切り出した。
「お願いだ! 助けてもらったことは感謝する! ついでといっちゃなんだけど、オイラの故郷も救ってほしいんだ」
「どゆこと?」
「詳しい話を聞かせてもらえるかの?」
チャイの話をまとめると、故郷を救ってくれる勇者を探して旅をしていたらしい。
この世界をチャイは『コミュンフォルム』と呼んだ。大きなひとつの大陸の王国だが、実際は各地に点在する村や町が、それぞれ独立した国家のように自治を営んでいるらしい。
そんな世界に災いが起きている。
「いつのころからか『魔導師』っていう恐ろしい魔法使いが現れて、各地の村や集落を支配しつつあるんだ」
魔導師による暴力、力による恐怖支配だ。
恐ろしい力を見せつけて食料や物資、女や子供をさらってゆく。村や町を支配し、勢力圏を拡大しているという。
「ちょっとまって、えーと。魔法使いや魔女と『魔導師』は違うの?」
「違うよ。魔法使いや魔女っていうのは、占いをして、捜し物をしたり、悩みを解決したり。病気を治療するために薬草を練って薬に変えたり。そういうものなんだ」
アメリコとヒメノは顔を見合わせた。
魔法がある。けれどそれは生活のためのもの。
ゲームなどでイメージするド派手な魔法とは少々概念が違う。
「つまり、君たちにとっての魔法は良いもので、生活の一部なのね」
「そうだよ。オイラだって傷を癒やす魔法ぐらいは使えるよ。でも……あいつら『魔導師』は違う! 魔法を悪いことに使う。人を傷つけて、簡単に殺すんだ……」
チャイはうつむいた。身体が小さく震えている。
「ひどいやつらね!」
「強い戦士たちが戦いを挑んだけど、誰も勝てなくて、みんな殺された」
チャイは悔しそうに唇を噛んだ。
世界を『魔導師』という連中が支配しようとしている。そしてチャイは世界を救う勇者を探している。
アメリコとヒメノは顔を見合わせて頷いた。
「よーし、お姉さんたちに任せなさい!」
「ほんと!?」
「乗りかかった船じゃ、いろいろこの世界を知りたいしの」
そして、あわよくばチャイの故郷にお世話になりたい。上手く立ち回れば、美味いご飯と寝床にありつける。アメリコとヒメノは同じことを考えていた。
「そのまえに……じゃ。チャイをこんな目にあわせた連中はどこじゃ?」
生け贄にするような連中に一言いってやりたい。
「このすぐ近くの木こりの村だよ。オークの群れに襲われて困っているとか言ってたけど、旅をしていたオイラに親切するフリをして……こんな風に」
「酷いことする連中ね!」
「なるほどのぅ。オークに生贄を差し出して、自分たちは見逃してもらおうという魂胆か。身勝手な理屈じゃが……」
「あんな恐ろしいオークに襲われたら、生贄を差し出したくもなるでしょうねぇ」
気持ちはわからないでもない。
「なんだよ! 姉ぇちゃんたちどっちの味方!?」
「じゃが、いたいけな子供を生贄にするなど、言語道断じゃ」
「同感ね」
「子供じゃないけどな!」
チャイの故郷、エルフの里までは歩いて一週間もかかる。けれど木こりの村はすぐ近く。ならば、次の目的地はそこしかない。
「木こりの村にいって、一言文句を言ってやりましょう!」
「そうじゃの。チャイを酷い目にあわせた代償として、食料と日用品……移動手段なんかも貸してもらえたら嬉しいのぅ」
計算高いヒメノの皮算用。
「ヒメノ、山賊みたいね!」
「それを言うでない」
背に腹は代えられない。旅をするにはいろいろなものが必要なのだから。