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アメリコ、最終決戦!

 巨大円盤の内側から爆発が連鎖する。

 臨界まで凝縮されていたエネルギーが行き場を失い、内側を破壊してゆく。

「まさか、円盤結界の()を、発射の瞬間を狙ったのか……!」

 隷属魔導師(スレイヴス)アイギスは理解した。

 金髪のイレギュラーは主砲を撃つ瞬間を狙った(・・・)のだ、と。


「ヒメノが教えてくれたの。強力なビームを放つ敵は、発射する瞬間を狙えって」

 アメリコがピースサインを円盤に向ける。ヒメノは「鉄板の作戦じゃ」と言っていたが、まさにそのとおりだった。


「……な、何なのだ……貴様たちは一体――」

 キノコ頭が爆炎に包まれた。

 巨大円盤がぐらりと傾き、黒煙をあげながら地表へ向けて落下。見えない支えを失った巨大円盤は地面に激突し、ぐしゃりと潰れ大爆発を起こした。


「ヒメノ、脱出して!」

 規模の大きな爆発に、アメリコは焦りを覚えた。


「おぉおおおッ! やった!」

「あのデカブツをやりやがったぁ!」

「すげぇ! 魔導師の軍勢も、空の怪物さえも倒すとは!」

 見守っていた兵士たちが気勢をあげる。


 円盤が地上で爆発四散し完全に崩壊する寸前、白い鳥が空中に躍り出た。

「見ろあれを……!」

「鳥……? いや、あれは」


「ヒメノ!」

 爆炎を避けるように飛び、空中を蹴りつけて建物の屋根にふわりと着地する。ヒメノは左腕の簡易型結界シールドを最大に展開し、爆発の衝撃を利用し脱出したらしかった。


「げほっ……! 死ぬかと思ったぞい」


 アメリコのいる位置から二百メートル離れた建物の屋根に、ヒメノは降り立った。

 距離は離れているが、簡易シールドに内蔵された魔法の音声通話機能により会話はできる。少々顔は煤で汚れているが、ヒメノ無事だった。

「よかった! ナイスファイト、ヒメノ」

「アメリ子、さっきのはミサイルじゃろ! まったく。銃器召喚の垣根を越えおって」

「えへへ、ごめんねヒメノ。咄嗟に銃じゃ届かないって思って……。もっと遠くへ届く強力な火器が、パワーがほしい! って真剣に願ったらミサイルが出せたわ」

「対空ミサイルとは、まったくムチャを――」


 不意に、会話が途切れた。


「……ヒメノ?」


 アメリコは信じられないものを見た。

 黒いキノコのような怪人が、触手でヒメノの胸を貫いていた。

「……ぐ、はっ……アメリ……子」

 ヒメノはアメリコの名を呼び、真っ赤な血を吐いた。

 刀が手から滑り落ち、屋根に突き刺さった。


「マ、マイガッ……!」


「あ、あああっ!?」

「ヒメノ殿が!」

「そんなッ!? やつは何処から……!?」

「あれが円盤の本体、隷属魔導師(スレイヴス)なのか!?」


 黒い粒子が集約し姿を成した。頭部はキノコ状で、半身はクラゲの触腕を思わせる無数の触手で構成されていた。

 ヒメノの背後に出現し、刃のように変形させた腕で背後から刺し貫いたのだ。


「ヒメノオオオオオオッ!」

 アメリコは絶叫し、バレットM82――対物(アンチマテリアル)ライフルを瞬時に召喚。

 弾丸を叩き込み、黒いキノコ頭の怪人を撃ち抜いた。

 キノコの傘が半分砕け、青紫の体液が散る。

「放せ! ヒメノをオオオオッ!」

 着弾の衝撃で、ヒメノを刺し貫いた腕が抜けた。頭を半分吹き飛ばされた怪人は、しかしヒメノを無数の触手じみた脚部でからめとった。


 ――どうして倒せないの!?

 ザクロのように裂けたキノコ状の頭部から零れ落ちるのは脳器官の一部だ。ダラリと力なく開いた口元は一言も発さない。

 あれは……すでに死んでいるのに動いている!


「ヒメノ殿をお助けしろ!」

「うぉおお!」

 近くに居た兵士たちが救出へ向かう。胸を貫かれたヒメノは動かない。おびただしい血が流れ白い着物を染めてゆく。

 だが黒い触手状の脚部がムチのように動き、兵士たちを薙ぎ払った。

「ぐはぁ!?」

「ち、近づけん……!」


「ヒメノを放せ! このクソビッチ!」

 怒りで沸騰しそうな感情を堪え、冷静に狙いを定める。

 ヒメノに当たらないように、引き金を引く。

 一瞬、六角形の無敵結界が空間を歪めたが、対物ライフルの弾丸が持つ運動エネルギーが勝った。無敵結界を打ち砕き、キノコ頭のど真ん中に着弾。衝撃で身体がよろけた。


「――()隷属魔導師(スレイヴス)をことごとく(ほふ)るとは。見込んだ通り、すばらしきパワー、エネルギーよ!」


 キノコ状の頭部を吹き飛ばされた女の口から、男の声が響いた。


「誰!? ヒメノを放せ!」


 キノコ頭女から発散された黒い粒子がゆらぎ、空に男の姿を映し出した。


「――余は世界の歪みより生まれし魔導師の真祖! リュー・キンフェイ」

 赤く燃える眼球、つり上がった憤怒の眉、嘲笑と余裕の笑みを混ぜた、ふてぶてしい男の顔が大写しになる。


「あれが……!」

「魔導師リュー・キンフェイ!」

隷属魔導師(スレイヴス)の親玉だ……!」


「あんたがラスボスってわけね。ヒメノをどうするつもり!?」


「――金髪のイレギュラー、アメリコとやら。この黒髪の娘は死んではおらぬ。大切な生贄、『天界の門』を開くための鍵だからな……!」


「フアッ!? なんですって!?」

「この娘を返してほしければ、我が居城へと来るがいい……!」

 キノコ頭女の身体が崩れ黒い粒子となり、再編成されてゆく。捕縛されたヒメノの身体を包み込むと、小さな円盤状の雲へと形を変えてゆく。


「ヒメノ殿を聖都エスノセントゥリアへ連れて行くつもりだ!」

 レブレフ副将が叫んだ。

 魔城と化したエスノセントゥリアへヒメノを拉致。そしてアメリコさえも罠に、毒牙にかけようというのは明らかだ。


「そうはさせないわ、リュー・キンフェイ!」

「――クハハ! 聞こえなかったのか? この娘を返してほしくば、聖都エスノセントゥリアへ来るがい。お前が一人で来るのだ、アメリコ……!」


「シャラアアップ! ヒメノを開放しろ! このイカレ野郎!」

 リュー・キンフェイの話を遮り、アメリコが叫んだ。


「――愚かなやつめ。カードは我が手のうちにある。わからんのか? これは交渉ではない、命令だ……。お前の命を差し出せといっておるのだ……!」


「黙れ! ヒメノから離れろ!」

 アメリコは鬼気迫る形相でにらみつけると、押し殺した声で警告した。

 もはや敵の戯言など耳には届いていなかった。

 ヒメノを救う。ただその一心だった。


「――喚いても無駄だ、アメリコとやら。もはやお前には何も出来ぬ……! 余は、三十キロメルテ離れた聖都にいるのだ……! クハハ! わかるか? 目の前の分身を倒したところでどうにもならぬ……! むしろ相棒のこの娘に引導を渡す結果になる! 脳に筋肉が詰まっているわけでないのなら、この覆せぬ状況を、絶望を、理解するがいい!」


 魔導師リュー・キンフェイは勝利を確信していた。

 黒いホログラムのような顔が悪魔じみた嘲笑し、ヒメノの身体を包み込んだ黒い雲がゆっくりと動き出した。


「アメリコ!」

 その時、チャイが飛び出してきた。

 地下水路の通路を通り、ヒメノと急襲作戦を実行した仲間たちも一緒だった。

「チャイ……!」


 チャイは二人の美少女エルフと、見知らぬ魔法使いのような少女と一緒だった。


「こっちはオイラのお兄ちゃんたち! この子は王国の賢者の弟子! 地下水路で偶然、再会できたんだ」

 地下水路をチャイの兄たちは逃げてきたようだ。


「Oh……! よかったわチャイ」

 アメリコはチャイのおかげで我に返った。怒りで頭に血が上っていたことに気がつく。ヒメノの身を案ずるあまり、冷静さを失っていた。


「あなたがアメリコ様ですね。お伝えしたいことが」

 手帳を開きながら、何かを訴えようと駆け寄ってきた少女に視線を向ける。

「あなたは……?」

「賢者の弟子、メティスと申します。魔導師リュー・キンフェイの本体は今、聖都エスノセントゥリアの王城です。城の最上階の『祈りの間』と同化し、動けません」

 静かな口調。それでいて的確。かなり研究し、分析してきたことなのだろう。


「――な……! 何故それを……!」

 魔導師の声が明らかに動揺した。


「魔導師は動けない……?」

「はい。祈りの間は地上57メルテ、直径20メルテの柱に囲まれた空間です。魔導師は魔城結界(・・・・)によって城と一体化しています。ゆえに何者であっても中にはいってしまえば殺されます。でも、それは奴にとって諸刃の剣」

 魔導師は身動きが取れない。城自体と一体化し、魔導師そのものになっている。

 だから部下の隷属魔導師(スレイヴス)を差し向けた。


「オーケー! サンキュー! 城ごと、ブッとばせばいいのね」

 アメリコは黒いホログラムのような魔導師、リュー・キンフェイの顔を睨み返した。


「――知ったところでどうする! 貴様らにそこから何が出来るッ! 無駄だ! お前らは滅びる……!」


「お黙りなさい。お前を許さない。それだけよ」

 アメリコの怒りはとうに沸点を超えていた。

 力が満ちてくる。巨大円盤を叩き落としたときとは比べ物にならない内なるパワーが満ちていた。頭上に白い輝きが集まり渦を巻きはじめる。


 ……U S A

 U S A!

 USA!

 アメリコは気がついた。

 湧き上がる力の源。それは胸のペンダントの輝きだということに。

「みんな……!」

 結晶と化しても尚、人々の心は生きていた。国民の熱い気持ちが、想いが集まり、エネルギーとなって伝わってくる。

 正義の叫びが、悪を撃てと言っている。

 悪を倒せと拳を突き上げている。


 アメリコが右手を天に掲げあげた。

 昼間の空に3つの星が輝く。

 それは、GPS――グローバルポジショニングシステムを構成する衛星の輝きだった。

 同時に、頭上で渦を巻く光から噴煙がほとばしる。


「距離なんて問題じゃないわ。千キロ先に隠れていようとも、お前を……討つ!」


 白鯨のような飛翔体が放たれた。

 ロケットブースターにより垂直に上昇、轟音を響かせながら水平飛行へと移行する。

 アメリコは気合とともに二発、三発と、同様の飛翔体を放った。


「――そんなもの……通じぬ! 我が結界を貫けるものかあッ!」


「懺悔の時間も与えない」

 音速まで加速した飛翔体は安定翼を展開すると一直線に、魔王城を目指す。

 目標までの距離は僅か(・・)30キロメルテ。

 十数秒で着弾する。


「お、おぉおおお!?」

「飛んだ、火を噴く槍か……!?」

「いまのうちにヒメノを助けましょ!」


「アメリコ、あれは何!?」

 耳をふさいで腰を抜かしたチャイを、アメリコは立たせた。


「トマホーク巡航ミサイル……ってやつ。必殺必中なの」


 発射されたのは巡航ミサイル・トマホーク。

 GPS誘導とシーカーにより目標物を精密に打撃可能。

 通常弾頭の中でも強力な弾頭を搭載したタイプ。防護された高硬度目標を貫通、爆破可能な強化型徹甲弾頭を搭載するタクティカル・トマホークだ。


「あれが魔導師を倒せる武器だってのは、わかる」

「そゆこと!」

 アメリコはチャイとともにヒメノのもとへと急いだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] トマホーク、キターー!!! 激アツ展開ですね! ワクワクします!
[良い点] いくら強固な結界であっても、攻撃するときには孔が必要であるというのは、確かに鉄板ですね♪ これで隷属魔導師は全滅となり意気揚々と凱旋できるかと思えば、魔導師リュー・キンフェイが遠隔魔法によ…
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