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集いし力、自由主義同盟軍

 ★●


「なんで御者席に三人で並ぶわけ!?」

「だって、チャイくんが寂しいかと」

「狭いのぅ、アメリコは後ろでよかろうに」

 馬車の御者席に、三人で仲良く並んで腰掛ける。

 スヴァルタールヴァヘイ村を出発したアメリコたちは一路、ベレルヘレムの街を目指していた。


 危険な旅になる。チャイママや姉たちはそういって引き留めたが、チャイは「オイラの始めた冒険だから」と言って聞かなかった。

 アメリコとヒメノの案内役を、最後まで務めると誓っているらしい。


「可愛い奴じゃ、姉たちの気持ちもわかるぞな」

「そうねぇ、シスターズに愛されてたものね」

「とんでもない! あいつら酷いんだよ。オイラのお菓子は勝手に食うし、人の部屋を漁るしさ」

「それを愛でられているというのじゃ」

「はぁ!? なわけ」

「オーケー! 私たちも愛でましょう」

「や、やめろって……」


 楽しい旅路は続き、途中で立ち寄った村々では歓迎と手厚い支援を受けた。行く先々で魔導師討伐を目指す女勇者(・・・)ふたりの噂は広まっているらしかった。


「我らカイドゥ村傭兵団も是非ともお共に」

「私は魔女のアーミリア。仲間の仇討ちを」

「城塞都市ギュドウス騎兵隊、我らもご同行を!」


 協力と共闘の申し出も相次いだ。

 三つの村と二つの町を通り過ぎる頃には、二十人をこえる大行列となっていた。


「共に戦ってくれる仲間が増えるのは嬉しいわ。けど、こういうの何て呼ぶんだっけ?」

「大名行列、じゃの」

「Ohダイミョウ! 私たちサムライマスターね」

「ははは、まぁそうかものぅ」

 アメリコとヒメノは後ろを振り返り苦笑する。


 馬に乗った騎兵隊が十人、馬車に分乗した傭兵が十人。そして乗用竜を駆る魔法使いが二人もついてくる。かなりの大所帯だ。

 その誰もが魔導師の眷属の襲撃により、愛する恋人や家族、仲間や友人を殺された者ばかりだ。


「味方は多いほうが頼もしいよ!」

 チャイは嬉しそうだった。姉たちから託された水晶玉で情報の交換も続けている。

 村から送られてくる情報によれば、多数の村や町で反抗勢力が蜂起。魔導師一味の要求をはね除け、反旗を翻しているらしい。

 彼らは犠牲を払いつつ、思い通りにはならないという断固とした意思を示し始めている。そしてアメリコとヒメノの「討伐軍」に合流すべく、反抗勢力が集結しつつあるらしい。

 それぞれが目指すは魔導師が巣食う旧王都、エスノセントゥリア。


「自由主義同盟軍……! 素敵な響きね」

「同盟はよいが、指揮系統はどうするのじゃ? 物資も確保せねばならぬ。行く先々で援助は受けてはおるが、食料に水、各種補給品……。補給線をどう確保するつもりなのじゃ……? 兵站(へいたん)は何よりも重要じゃ。あぁ……いかん、考えることが多すぎる」

 頭を抱えるヒメノ。


「ヒメノは難しく考えすぎよ」

「いやいや!? アメリ子はもう少し考えんか!」

「考えてるわよ。皆で力をあわせるの」

「大事なのは具体的な戦略じゃ! 第一、アメリ子の祖国……かつての米国はその道のプロじゃろ。軍の派遣、遠方への戦力投射についてはのぅ」

 かつて超大国アメリカは強大な軍事力を有し、十近い空母打撃軍・機動艦隊を世界の各地に展開していた。あらゆる場所に兵力と打撃戦力を投射することができた。

「んー? わからない、覚えていないわ」

 肩をすくめて可愛く笑う。

「……まぁよい。そのへんはワシが考えるか」

 ため息混じりにメモを取り出す。


「でもね、ヒメノ。思い出したことがあるの」

「……何をじゃ?」

「いろいろな武器のこと。私……本当はもっと強いのかもしれないって」

 自信に満ちた瞳でヒメノを見つめると、アメリコは空に手を伸ばした。


「召喚には過去の記憶、技術的な知識とのリンクが必要なのかもしれぬの」

「うん、おそらくそう。今ならすごい武器も呼び出せる気がする」

「頼もしいかぎりじゃ」

「次の戦いは誰も死なせない」

「そうじゃの。ワシらは作戦(・・)通りにの」


 対・隷属魔導師(スレイヴス)攻略戦術。


 前回の対戦を経て、ヒメノは敵との戦いを分析。もっとも確実に、安全に戦える作戦を立案した。

 それは大所帯となった討伐軍にも口頭で伝令、戦術として共有している。


 第一の目的地、ベレルヘレムの街が見えてきた。

 高い塔が林立する、発展した街。

「あれが、ベレルヘレム……」

 近づくにつれ、塔のいくつかは崩れ、黒い煙がくすぶっているのがわかった。街全体が黒いガスのような瘴気に包まれている。


「――伝令! 前方、上空に異常な魔力反応!」

 上空を旋回しながら魔女が叫んだ。再び飛んでゆくのは、魔法のホウキに跨った飛空魔女エラルダ。


「イエス! サンキュー!」


 みるみるうちに上空に異様な暗雲がたちこめ、不気味な雲が覆ってゆく。尋常ならざる妖気、黒い気配が近づいてくる。


「あの時と同じ!」

「みなの者! 戦闘配置じゃ! 作戦通りに頼むぞな!」

 ヒメノが後ろの隊列に向けて拳を振り上げて叫んだ。

「「「おおおぅ!」」」

 一斉に全員がバラバラに走り、散開する。

 周囲には破壊され放棄された廃屋、小屋などが点在している。街へと向かう街道だったのだろう。

 今は人の気配もない。戦士や騎兵隊が素早く建物の陰などの遮蔽物に身を隠す。

 敵と距離を取り、決して不用意に接近しない。それがヒメノの出した指示、基本戦術だ。


「きゃあっ!?」

 飛空魔女エラルダが竜巻に巻き込まれ、弾きとばされた。ぐらりと姿勢を崩し落下してくる。

「いかんッ!」


「風の加護よ……!」

 アメリコが叫ぶや馬車から飛び出した。大股でステップを踏み、風にのって加速。

 そして魔女を受け止めた。

「……っきゃ!?」


「ナイスキャッチ!」

 アメリコのナイスフォローにチャイが拍手する。


「オーケー? 平気?」

「は、はい! ありがとう……!」

「どういたしまして。ソバカスがチャーミングね」

 魔女は立ち上がり頭を下げると、ホウキを抱えて後方へと下がった。今回は魔法による支援も期待できる。


 そうする間にも、黒い竜巻が行く手を阻むように、次々に地面に降り接触。黒い雲が渦を巻きながら凝縮し、人の形となる。


「出たわね、隷属魔導師(スレイヴス)!」

「アメリコ、戦闘準備じゃ」

 同時に、刀剣と銃器の召喚に入る。


 空から地面に触手を伸ばした竜巻は、一つではなかった。二本、いや……三本。


「おいおい、なんだァ!? 小娘が二人だけとはどういうこった!」

 緑っぽい皮膚に痩せこけた顔。カマキリのような男が甲高い声で叫んだ。着地と同時に周囲に陥没したような穴が無数に穿たれた。


「……隠れているようね。反抗勢力とやらを一網打尽。一気に殺せると思ったのだけれど」

 気だるそうな女の声。モザイクアートのように周囲の光を歪ませながら、妖艶な女が出現した。

 禍々しいピンク色の髪が蛇のようにうごめく。

 地面に足をつけるや、周囲の地面が(なた)で斬りつけたよう裂け、亀裂が走った。


 今度はズズン……と重い地響きがした。


「グゴゴ……大軍と聞いて来たが……。ゴゴゴ話が違うぞ、ラダマンディス」

 地鳴りと共にすり鉢状に陥没。その中心から岩山のような体躯の男が立ち上がった。全身黒ずくめの鉄の塊のような、とんでもない大男だ。


「知らねぇよ!」

 カマキリ男が苛立たしげに大男に反論する。


「さ……三人!? 隷属魔導師(スレイヴス)が三人なんて、うそでしょ」

「戦力の小出しは愚策。一気に潰しに来たようじゃ」

 刀剣を召喚し終えたヒメノは不敵に笑う。

 アメリコは慌てながらも光の粒子を集めショットガンを形成する。

「まぁいいわ。風穴をあけてあげる」


「ほぅ……? 小娘にしちゃ肝が据わってやがるぜ。ミヒラクラを殺ったのは、こいつらで間違いねぇか」


「……黒髪の刀剣使い。それに金髪の女、黒光りする男根のような魔法武器を振り回すふしだらな女……」


「フアッ!? だれがふしだらよ!」


 カマキリ男とピンクモザイクアート女は、ヒメノとアメリコに十数メートルの間合いを取っている。


「ガテル・ナンディヌ、貴方は街を破壊なさいな」

「グゴゴ……そうする。更地にして……ゴゴゴ」


「そうはさせないわ!」

「アメリ子、開戦じゃ」

 ヒメノがパチンと指を打ち鳴らす。

 すると隠れていた戦士、騎士たちの何人かが一斉に矢を放った。隷属魔導師(スレイヴス)たちに射かけられた矢が四方から飛翔。


「あぁ……? んなもんが効くわけねぇだろ!」

「学習能力の無い下等生物。それが人間よ」

「ゴゴ……フゴゴ、無駄」

 隷属魔導師(スレイヴス)たちは何もしない。ミヒラクラ同様、結界に絶対の自信を持っているのだ。

 三人は矢など意にも介さず、アメリコとヒメノに狙いを定め、睨みつける。


 矢は結界に阻まれた。三人の隷属魔導師(スレイヴス)たちの周囲で矢が止まる。

「……そこじゃ」

 瞬間、矢の先端に取り付けられていた小さな筒が次々に破裂。煙を撒き散らした。

 それは各種の微粒子を詰めた筒だった。着弾と当時に破裂するよう、魔法使いが仕込んでくれた。

 竈の灰と小麦粉と特殊な花粉。絶妙な配合の煙幕は、まとわりつくように濃密な雲をつくった。


「くだらねぇ、こんなもの……!」

 カマキリ男が拳を振り、煙を吹き飛ばす。まるでイガ(ぐり)のような、トゲトゲの結界が煙幕のなかで浮かび上がった。

 拳の威力は十メートルも離れた廃屋の壁を穴だらけにする程だった。隠れていた兵士が吹き飛ばされ、退避する。

「……目眩ましのつもり? 意味ないわ」

 ピンクモザイク女が身体をくねらせる。すると周囲の結界が変形、煙幕を切り裂いた。それは玉ねぎの皮のように幾重にも重なった、動く花弁のような結界だった。何枚も折り重なることで光さえも屈折させる無敵の結界となっている。


「フゴ……ゴゴ!」

 黒い巨人には結界が無いように見えた。身体の表面にまで粉が付着する。しかし頭上に円盤状のハンマーのような結界を隠し持っていた。接近すれば圧殺する、見えざる兵器に違いない。


「……なるほどの」

「へぇ、そういうこと」


「すごいやヒメノ! これなら……!」

 チャイが建物の陰から顔を出した。

 再び矢が射かけられた。破裂し煙幕を散らす。

 隷属魔導師(スレイヴス)たちの結界の姿が、露になってゆく。動くのにあわせて移動するようすが、はっきりと目視できる。形が、影響範囲が、形状を変えてゆくのがわかる。


「だから……なんだってんだァアア!? 死ねや小娘ぇえええぁあ!」

 カマキリ男が怒り狂う。目を血走らせて吠え、地面を蹴った。感情にあわせてイガイガが鋭く変形、相手を刺し貫く槍の束と化す。


「ヒメノ!」

 アメリコがショットガンを撃った。結界表面で金属の弾丸が無数の火花を散らす。

「へぇぁあ!? 効かねぇぜ! こんな豆みてぇな礫じゃぁ!」

「シイット!」

 二発目。至近弾でも通じない。面で制圧するショットガンでは結界を貫けない。


「こやつはワシがやる! アメリ子はあの黒いデカブツと女を頼む!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 十万字……その呪縛のためか隷属魔導師が三人も登場しました。対するアメリコとヒメノはわらしべ長者のように仲間たちが増えている。しかしながら魔導師に敗れた敗残兵の集まりに過ぎない。 アメリコと…
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