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嘘だと言って


 -私が、星の王国の···姫?


 カシアスの口から出た言葉に、ステラアーチェは頭を鈍器で殴られたような衝動に駆られた。口の中が、妙にカラカラになって行くのを感じた。


 「な、何かのご冗談では···?」


 いやいや何を言っているんだ。王太子様は、と信じ難い視線を送るが、カシアスの表情は嘘をついているようには見えなかった。が、私は一介のメイドであり、ましてや教会で保護された孤児であり···。そこまで考えて、ステラアーチェの中に疑問が生まれた。


 何故、教会出身の私が、こうして王宮で働かせて頂いているのだろうと。

考えて見れば、次から次へとおかしな疑問や問題が浮かんで来た。そもそも、メイドや侍女は伯爵や公爵などその資格を持った貴族達がなる物であり、平民であるステラアーチェが王宮に入れるなど、一生ないのだ。ありえない事なのだ。


 それに躾とは言え、シスター達のステラアーチェに対する躾に関しては、他の子立ち寄りも厳しかったように思える。


 まず、言葉使いに立ち位置振る舞いから、食事に関しての躾、読書や読み書きお裁縫。ありとあらゆる物を子供ながらに叩き込まれて来た。


 -おかしい···。


 もしかして、国王陛下と教会に何かの繋がりが?いやいやと、それでもステラアーチェは己が姫だなどと思えない。それでも、何かの心当たりはないかと思い出そうとするけれど、頭の中にモヤっとした物があって、邪魔をされているみたいな感覚に腑に落ちない。更に腑に落ちないのは、この王太子であるカシアスが、確信を持ってステラアーチェを星の王国の姫君だと断言した事だ。


 「···1つ、お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


 「私が君を、星の王国の"姫"だと言った事について?」

 

 「···、はい」


 「確信したのは、今朝の事。君の瞳を見て、確信したよ。そしてその特徴的な髪灰色のようで白に近い。私は、君の髪色は星色だと思っているよ」


 「瞳と、髪···?」


 「星の王国。その王族の血筋には、瞳の中の虹彩の筋に金色の筋が現れる。と言われている。髪の理由は先程述べた通り」


 「ッッ!!···そんなに、見ないでください」


 カシアスはステラアーチェの前に片足を跪き、頬を撫で彼女の瞳を見つめる。堪らずにカシアスから視線を逸らした。頬が熱いのは、気の所為だ。


 「本来であれば、君には正式に婚約を申し込むはずだった。けれど、君とはこんなにも···」


 -今、何て?

 

 驚きすぎて、カシアスの声がやけに遠く感じる。ステラアーチェは目を丸くして、驚いていた。耳を疑いたくなるような言葉が聞こえて、心臓がドキドキと音を奏でている。これは緊張?それとも焦燥感?身分の差、だと言いたいのだろうが、内容が内容過ぎて脳内処理しきれない。


 「な、にを。仰っているんです?」

 

 国の第一王子、王太子様と、結婚?

 私が?まさか、そんな。

 こんなの、ただの偶然が重なっただけであって、本当はどこかに違う誰かがお姫様なわけであって。


 「君は信じられないのだろうけれど、私は信じているよ」

 

 「王太子、さま」


 「それに、君の事は調べさせてもらってる。全く···父上にも驚かされたものだ。まさか、星の王国の王女を教会で保護していて、ある程度育ったらこの王宮に迎え入れているなんて」


 最初に考えている事の辻褄があって、パズルのピースがハマって行くような感覚。でも、どうして保護しようなどと思ったのかは、謎である。


 「父上には、感謝しなくてはならないな」


 「えっ?」


 「こうして、君。ステラアーチェに出会えた事に関して」


 ステラアーチェはカシアスの甘い言葉に、キュッと胸を締め付ける甘い疼きに、ネグリジェの胸元をギュッと握った。


 -違う···。この気持ちは、流されているだけ。ましてや、私は元々平凡な庶民で、たまたまここに転生しただけの、凡人だから。


 -おとぎ話の、童話のような王子様とは、釣り合わないんだ。だから、この淡い気持ちは。


 「申し訳、···、ありません」


 絞り出した声は、あまりにも頼りなくて、カラカラで。でも、王子様にはカシアスにはきっと、見合った婚約者がいるはずなんだと己に言い聞かせる。これでいいんだ。だって、おこがましい考えだけれど、私がこの国を背負って行けるかと言えば、答えはNOだ。


 -凡人の私には、無理な話なのだ。だから。


 「君が何を想うとも、私の···、ステラアーチェを想う気持ちは変わる事はない」


 「いけません。こんな···わたくしには」


 「なら、···」


 カシアスはソファの端に膝を立て、ステラアーチェの細い指に指を絡め、そして。


 「そこまでです。カシアス様」


 音もなく入って来たのは、何食わぬ顔をした(つまり無表情の)フェルゼンだった。


 「···。フェルゼン。少しは空気を読め!」


 「ふ、フェルゼン、様っ!!?」


 「さぁ、夜はもう遅いので、私が部屋まで送りましょう」


 「私を、無視をするな!」


 先程の真剣なカシアスは何処へやら、珍しく声を上げた。


 「カシアス様、ステラアーチェ様の事になると周りが見え無さすぎるのは、いかがな物かと。さ、カシアス様は残りの書類を···」


 云々。

 ステラアーチェと言えば、半ばぼんやりした思考の中で、部屋へと届けられた。


どうやって部屋に戻って来たのかもあやふやなままで、覚えいるのはフェルゼンがステラアーチェに付き添ってくれいた事だけだった。ベッドに横になっても、ふわふわした気持ちのままで、瞳を閉じても眠れそうに無い。


 



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