星の瞬き
カナリアに話を聞いてもらって、落ち着いたと思っていた心の音。しかし、いざ寝ようとしてベッドに横になったのはいいものの、目を瞑れば脳裏に浮かぶのは、王太子との今朝のやり取りだった。
-あぁ、もう!
己の瞳を覗き込む澄んだエメラルドの瞳。顎先に添えられた手の感覚。朝の日差しに、キラキラと輝く蜜色の髪。酷く整った顔立ちの···。初めて真正面から王太子様の顔。本来ならば、面と向かって視線を合わせてはいけない方なのに。
-だめだ···、眠れない。
頬が、熱い。
両手で頬を覆っても、熱が拭えるはずも無く、些か乱暴にバサりと布団を剥いだ。ステラアーチェはベッドから起き上がり、裸足のまま月明かりの照らす窓際に行き、窓を開けた。
夜のひんやりした風が心地よく頬を撫でて、髪をふわりと揺らした。窓枠に肘を着いて、夜空に広がる星の海を瞳に写した。
それはまるで、広大な海にばら撒いた宝石のように、キラキラと瞬いていてー···。見入っているうちに、先程の熱を冷まさせてくれるようだった。
-ちょっとくらいなら、いいかな?
ただ、ほんの少しの出来心と言うか、好奇心だった。外に出て、もっと近くで見てみたい。ステラアーチェは窓から身を乗り出し、出窓の上にある屋根の上に登り、腰を落とした。顔にかかる髪を退けるように耳にかけて上を見上げれば、視界のいっぱいに星の海。最上階のおかげで、よく見える。
「···、綺麗」
手を伸ばせば、届くんじゃないかとさえ錯覚してしまう。悪戯心で、人差し指を星空へと向けた。もしかしたら、今なら星が動かせるかもしれない、なんて馬鹿げた事を思いながら、右から左へとそのまま線を書くように動かした。
-なんてね。
と、思った瞬間。
「っ!、うわぁー···」
-うそっ··!
動かした指のように、ざぁぁぁっ、と、星が流れて行った。生まれて初めて見た流れ星に、思わず声が漏れた。偶然かもしれないけれど、胸の打ちに温かい何かを感じていた。もっとよく見たいと屋根の上に立ち上がって、無意識に指を振るう。
「!···」
星が、1つ、2つ、3つ。
さらさらと流れ、儚く消えていく。
不思議な感覚と、高揚感にもう一度指を振ろうとした瞬間。
「そこにいるのは誰だ!!」
「へっ?···きゃあッッ!?」
下から厳しい声が聞こえてハッ!としたはずみに、ステラアーチェはスルッと足を滑らせてしまった。傾く体はあっという間に宙に投げ出され、そのまま下へと落ちて行く。風を切る音がやけに大きく聞こえて、フワッとした無重力に恐怖に体を強ばらせ、目をギュッと瞑った。
-助けてッッ!!
(姫さまの仰せのままに)
-えっ?···。
柔らかく優しいげな、子供の声が聞こえた気がして、ふわりと体が浮かんだ。
「···、止まっ、た···?」
ギュッと瞑っていた瞳を、ゆっくりと開けば、驚くべき出来事が起こっていた。ステラアーチェの体を包み込むように、光の粒子が光っていた。