星の導きⅣ
「···はぁ、」
口から出るのは、ため息だけだった。
夕食のスープを口に運ぼうとするけれど、今朝の事が頭から離れなくて、お腹がいっぱいだった。そんなステラアーチェに声をかけたのは、同僚のメイドのカナリアだ。
淡いブラウンの髪に、水色の瞳。
色白で優しげなふわりとした印象の彼女は、伯爵家の令嬢だ。ちなみに、王宮に使えるメイドや執事達は、それなりの爵位の立場にある者達の令嬢や子息だったりする。
「具合が悪いのなら、部屋に戻りましょう?ステラアーチェ」
「カナリア···」
「それとも、何か悩み事がおありでいらっしゃるのかしら?わたくしで宜しければ、お話をお聞きしますけれど」
カナリアは、それに、「お聞きしたい事がありますの」と続けた。
「ここでは何ですから、わたくしの部屋へ参りましょう?」
-私ったら、そんなにぼんやりしていたのかしら。
周りをチラリと伺えば、ステラアーチェに視線を向ける者が何名か···。申し訳ない気持ちに、眉尻を下げ謝罪を述べた。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしてしまったみたいで···」
「いいえ、困った時はお互い様ですもの。何か、温かい飲み物をご用い致しますわ」
カナリアの好意で部屋に通されると、ベッドの縁にどうぞ、の声に甘えて腰を降ろさせてもらった。カナリアはホットミルクに蜂蜜を加え、ステラアーチェに差し出した。
「さぁ、どうぞ。お腹に何か入れた方が、落ち着きますわ」
「··、ありがとう、カナリア。いただきます」
受け取ったホットミルクに口を付ける。甘いミルクと蜂蜜の優しい味に、ホッとし 息を吐いた。ステラアーチェの様子を伺い、肩の力が抜けるのがわかると、カナリアは笑みを浮かべた。まるで、その笑みは見守っているようで。
「時に、ステラアーチェ」
声をかけられたステラアーチェは、カナリアの聞きたい事がある、と言っていた事を思い出して、返事を返した。
「はい、何でしょうか?」
「わたくし、今朝方見てしまったのですが、その···王太子様とはどんな関係でいらっしゃいますの?」
単刀直入に爆弾を問いかけるカナリアに、一瞬にして取り乱すステラアーチェ。
「っ、!?···みっ、えっ、カナリア!?」
まさか見ていられたとは露知らず。
ステラアーチェは取り乱すが、何故かカナリアに関しては、うっとりとした表情をしている。それはまるで、小説のように恋する乙女の禁断の恋(危なくない方)の物語に想いを馳せる少女の顔をしている。
カナリアだって年頃の女の子だ。
もう結婚してもおかしくは無い年齢なのだ。そして、それは止まらない。
「えぇ、とっても素敵なシチュエーションでしたわ。薔薇の咲き誇る温室で、···噴水の前で見つ合う2人···そのお相手は王太子様と、一介のメイド。王太子様は強引にもメイドに迫り···」
「!!?···ちょっ、待って、待ってカナリアストップ!!」
-それは何でも美化し過ぎ!
カナリアの膨大に膨れ上がる妄想に、言葉が乱れるステラアーチェ。ストップをかけられたカナリアはと言えば、うっとりしたまま「何故ですの?」と半ば不満げに首を傾げたのだった。