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Race4. 幼馴染の妥協線

 部屋の中にはオレ(女装中)と来望、そして悠里さん(男装中)。そして来望は何故かオレの膝の上に座って悠里さんをにらみ付けている。


「颯馬、撫でて」

「はいはい」

「うにゃ~」


 来望のサラサラした髪を撫でてやると、猫撫で声を上げながら気持ちよさそうな表情をしている。来望は昔からこうやって撫でられるのが好きだったのだが……この格好でやるというのはなんとも不思議な感覚だ。


「……貴女の話は颯馬から聞いてる」

「それは話が早い」

「……颯馬は私のもの」


 来望がこちらに抱きついてきた。クールミントのような香りがふわりと漂い、頭がスッと冴え渡る。そういうタイプの香水をつけているのだろうか。


「いやその関係に割って入るつもりは全くないんだけど?」

「でも誑かした、颯馬を可愛くするのは私の役目」


 ……ん?


「あー……ふんふん、なるほどなるほど。つまり今の颯馬ちゃんはめっちゃ可愛いと」

「その結論はおかしくない?」

「ふんす」


 オレが疑問を呈するが、それを防ぐかのように来望が肯定するように首を縦に振る。


「えっ、今何が起きてんの?」

「いやー君には申し訳ないことをしてしまったね。大事な『彼女』さんを奪う形になったのは不本意ながら謝罪させてもらうよ」

「……分かってくれたならいい」

「いや何も分かんねぇ!」


 このまま話を進められるとオレはもう戻れないところに持って行かれるような気がする!


「……颯馬言ってた、可愛くなりたいって」

「言ったことねぇよ! いつ! どこで! オレがそんなこと言った!?」

「……高校2年の文化祭が終わったとき、教室で言ってた。『こんな人気になるなら女の子っぽい服もアリだよな』って」

「言ってたねぇ確かにねぇ! でもそれ冗談めかして言ったはずなんだけど?」

「目はガチ」


 頭を抱える。こんなことになるなら調子乗ってメイド服着るんじゃなかった! 女っぽい声出して『おかえりなさいませ、ご主人様!』とか言うんじゃなかったよクソ!


「……やっぱり君たち結婚したほうがいいんじゃない?」

「ふふん」


 来望の機嫌がどんどん良くなっていく。モチベーターとしてはとても良い働きをしている。見た目が見た目だから段々とホストっぽく見えてきたぞ……?


「颯馬は結婚、嫌……?」

「うっ……」


 そんな目で見ないでくれラムちゃん。縋るような目で見られたらノーって言いにくい! でもオレにはオレとしての考えがある、意地がある。それはうるうるしている来望の目を見たとしても、変わることはないのだ。


「そもそも、オレ達は結婚とか早いと思うんですよ。まだ大学すら卒業してませんし」

「……それって最終的に結婚するってことでは?」

「……颯馬」


 惚気た表情でこちらを眺める来望。オレはあまりにも色っぽいその表情を直視することができず目を逸らす。


「童貞のカップルかよ」

「悪かったですね童貞で」

「……? 颯馬、童貞ってなに?」

「性教育くらいちゃんとしてくれラムちゃんのご両親!」


 ラムちゃんもう二十歳だぞ! 競馬場でチキン食べながらハイボールキメて馬券買っても問題ない年だぞ? 流石にそこら辺の知識は少しくらい持っててもいいと思うけど……


「いやー面白い面白い。これ遠目から見たら女の子同士のイチャつきにしか見えないもん、その格好で競馬場行ったら絶対面白いわ」

「そういう面白さを求める場所じゃ無いと思うんですが」

「行こう、颯馬」

「マジかよ」


 と思ったが、これはオレにとって絶好のチャンスなのではないか? というか悠里さんが策士過ぎるぞ。ここまで計算してやってるなら悠里さんの評価を変えなければならない。


「でもラムちゃんは競馬に興味ないんじゃ」

「ない」

「行っても楽しくないところに無理して行かなくてもいいよ、ラムちゃんに無理させたくない」

「ん……」


 来望が何か考えるような仕草を見せる。そして何かを思いついたのか、こう口を開いた。


「お金なら、いっぱい増やせるから。競馬なんか無くても私がいればいいって証明する」

「あはは……ならオレはそれを反証しないとな」


 どうやら来望は意地でもオレを競馬から引き剥がしたいようだ。オレは程よく競馬を楽しんでいると自負しているつもりなのだが……。おそらくそれを来望が理解するにはかなりの時間がかかるだろう。


「ってかさ」


 オレたちのムードを察してか、悠里さんが割って入るように口を開いた。


「設楽さんの言ってる未来視ってのが本当か確かめてみようじゃない」

「……? でも競馬今日やってない」

「ふっふっふ」


 来望の未来視、それが本当かを確かめる手段は平日の今日であっても存在する。それを知らない来望はただ首をかしげるばかりだった。……それはそれで可愛らしい。

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