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Race11. Loves only you

 私の知らないもう一人の私がいた。颯馬の話を聞いた私はそう解釈する。右目が赤くなり、未来を見ることができるようになった私はその力を振るうことを厭わなかったという。それはその全てを颯馬に捧げるため。実際に颯馬はその力を目の前で目撃している。


 ……もしも未来を見ることができたら。誰もが一度は考えるような妄想の一つだと思う。私だったら何をするのだろうか? 未来を見て予言者まがいのことをする? らしくない。そうやって自己顕示欲を満たすようなことに興味はないから。


 やっぱりお金に関することが第一に挙げられるだろう。株、ギャンブル、宝くじ。未来が確定することで莫大な利益を生み出せるものはいくらでも存在する。問題はそのお金を()()使()()()だと思う。


「(……うん、颯馬の言っていることは本当なんだね)」


 私は颯馬が好きだ。昔から幼馴染としてその生涯を共にしているから自然とそうなっていたのかもしれない。幼馴染から恋人へ。そう意識し始めたのは高校時代の頃だった。


 ちょうど高校二年の文化祭、クラスの企画で喫茶店をやったときのことだ。颯馬のメイド姿が学内でかなり話題になっており、女子のメイドの話題を喰ってしまうような勢いだったと記憶している。その人気は男子だけでなく、女子からの人気も相当なもので、ひっきりなしに撮影を依頼されていた。


 それは私が初めて颯馬に対して『嫉妬』という感情を抱いた瞬間だった。心の中のなんとも言えないモヤモヤ。それは日に日に露わになっていく。颯馬が他の女の子と仲良さそうに話しているとき。颯馬がラブレターを貰ったんだと言って私に見せびらかしてきたとき。そうやって私の心をブラッシュアップしていくと、結局一つの結論に辿り着く。


「(私、颯馬のことが好きなんだ)」


 それはきっと越えてはいけない一線。それは叶わない夢。颯馬ならば簡単に女の子と付き合えるし、すぐに結婚だってできると思う。それでも颯馬は決して恋人を作ろうとしなかった。きっとその頃から私は愛されていたのかもしれない。ただお互いが一線を飛び越えようとしないから、そんな平行線を今まで歩んで来たのだと思う。


 しかし、だ。もしもその一線を容易く飛び越えるような力があったら? それさえあれば何とかなってしまいそうだという力が、理論的に説明できない超常的な力が存在するとしたら?


 私は使う。それを使って境界線を飛び越えてみせる。そしてもう一人の私は飛び越えて見せた。だから今がある。私からプロポーズをしたのも分かる。恋人というラインを飛び越えて颯馬を捕まえたいと考えていたから。きっと颯馬は困惑したと思う。私たちは幼馴染であって、決して恋人ではない。突然大きく縮まった関係に混乱しても無理はない。


 それでも颯馬は私の好きに応えてくれた。今日の颯馬を見ていればそれはよく分かる。そんな颯馬を私はずっと愛し続けるんだ。


「来望、今日はありがとな」

「颯馬こそ。今日はいろんな話ができて楽しかった」


 颯馬が連れてきてくれたのは高級そうな雰囲気のあるレストランだった。しかしメニューをぱらぱらと見ると必ずしも高級という訳ではなく、比較的安価に楽しめるメニューもあったりと庶民派な部分も垣間見える。もう一人の私がお金をいっぱい稼いできたはずなのだが、それでもこういうお店を選ぶというのは颯馬の癖なのかな。


 コースの料理が運ばれてくると、私たちは談笑しながらそれらを口に運んでいく。こういうマナーはよく分からないけど、颯馬が食べる前に教えてくれた。致命的なミスはしていないと思う、多分。味もとても美味しくて、颯馬の店選びのセンスに、私は内心舌を巻いていた。颯馬の話ではここよりもすごいお店に行ったことがあるというが、私としては店の高級さで人の器量を測りたいと考えたくない。私のためにどこへ行こうかと考えて実行してくれた、それだけで十分だ。


「来望、渡したいものがあるんだ」


 颯馬はカバンから高級そうなケースを取り出していた。手のひらサイズに収まりそうなケースの中身を私は理解している。颯馬はそのケースを開けると、そこには一つの指輪。マリンブルーの輝きは、レストランの照明と相まって美しさをより引き立たせていた。


「ふふっ」

「なんだよ」

「颯馬ってそういうのこだわるんだ」

「……悪いかよ」


 颯馬の機嫌が少し悪くなったのか、ちょっとばつの悪そうな顔でこちらを見てくる。男らしくと無理に頑張らなくてもいいのにと思いつつも、そうやって背伸びをして私を導こうとしてくれる颯馬のことに愛しさを感じざるを得なかった。


「つけていい?」

「ああ、いいぞ……ってつけさせるくらいはオレにさせてくれ」

「うん」


 颯馬は慎重な手つきで指輪を取ると、それを私の左手の薬指へとつけてくれた。颯馬の指は華奢なところがあって、男の人特有のゴツさをあまり感じさせない。颯馬自身は気付いていないと思うけど、颯馬は体つきが中性的だ。だから女装をさせると驚異的なマッチ力を見せるんだろうな。


 私は左手をかざしながら指輪を眺めていた。その様子を嬉しそうな目で颯馬が見ている。この指輪もきっと私の力で生み出されたものと言ってもいいのだと思う。颯馬も同じように私の為にしかお金を使う気がなかったのかな?


「うん、とても綺麗」

「よかった。来望にならきっと似合うと思ってたからさ」

「……それだけ?」


 それだけな訳がない。わざわざこんなレストランに背伸びしてまで来て。こんな高級そうな指輪までプレゼントしてくれて。颯馬が伝えたいのは一般人が言う美辞麗句なんかじゃないでしょ?


「……そうだな。来望、オレと結婚してほしい」

「お互いの両親に挨拶してるのに?」

「そうだけど……ちゃんとプロポーズしないでうやむやってのはダメだろ」


 ああ。これは颯馬にとっての区切りなんだ。これはもう一人の私が踏み越えてしまったラインを引き直すための儀式。幼馴染だった私たちが恋人になって、夫婦になるための祝祭。それが颯馬にとっての新しいスタートなんだ。だから私が導く答えは一つだけ。


「うん。二人で幸せになろうね、颯馬」

「当たり前だろ、来望」

「颯馬だけを愛し続けるから、颯馬もね?」

「あぁ、来望がナンバーワンでオンリーワンだ」


 今日、私たちは幼馴染を卒業した。左手に光る群青の煌めきがその証明。そして過去の私との決別。私たちは未来に向けて歩みを進める他ない。その先に何が待っているかを私たちに知る術はない。未来を見ることができるのは神様か超能力者ぐらいしかいないから。


 それでも私は未来を怖いと思わない。だって私の隣には颯馬がいるから。颯馬への愛がある限り、颯馬が私の手を取ってくれている限り、私たちに怖いものなどない。


 だから今の私に未来視なんて必要ないんだ。

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