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02:パリピ三世 エレクトロニックダンスミュージックの城



 パリピ三世。

 それがこの国の今の王様の名前です。ふざけてんのか?


 恐ろしいのはもちろん『三世』の部分。つまりパリピ一世もパリピ二世もいたということなのだ。この国は歴史的にちょっとおかしい。ちなみに前にレリアに「この国ってちょっと狂ってると思わない?」って訊いたときの答えは「別に国とか自分の生活に関係ないしどうでもいい」というあまりにも政治的アパシー丸出しの答えだった。みんなはちゃんと選挙に行こう。この国は民主主義じゃないから選挙とかないんだけど。


 国なんてどうせどこかしらちょっとずつ狂ってるものだとは思うんだけど、『開催場所:謁見の間』っていう文字を頼りに普通にノー警備で王様のいる場所に辿り着けた挙句、そこが屋内プールになってて明かりはミラーボールと水中ライトしかなくてヤバイ虹みたいな色にあたり一面が染まってて、ほとんど真っ裸みたいな水着のお姉さんたちがEDMに合わせて踊り狂ってるのを目にした場合、さすがに僕みたいな真面目な国民には言う権利が発生すると思う。


 頭おかしいんか。


「新しい女が来たか!」


 一番奥、めちゃくちゃ悪趣味な金キラキンの椅子にふんぞり返ってる男がそう言った。一応周りをくるっと見回してみたけど、たったいま入ってきたのは僕しかいないから、その『新しい女』とやらは僕のことを指しているんだろう。ちょっと髪をいじって、服を借りて、眼帯をすればこんなものだ。誰にもバレやしない。なんなら今日の出がけにレリア自身すら鏡に映った自分だと勘違いして僕を見つめながら前髪を整えてたくらいだ。


 にこっと笑って僕は頭を下げた。


「どうも」

「こっちに来てケツを出せ、ケツを!」


 早く武力革命が成らないかな。


 とりあえず近付かないことには話が始まらないので僕はてくてく王のところまで歩いていった。金色の短髪。全1680万色に発光するゲーミングサングラス。無駄に鍛え上げられてかつ日焼けした肉体。角度を変えたらどう見たって履いてないように見える際どいブーメランパンツ。


 二十代前半くらいのこの男は、ちょっと前の王様がぎっくり腰で引退してから王様をしてる。らしい。来る前にさすがに多少は下調べしておこうと思ってググったときにそう書いてあった。


 手の動きが明らかにケツを揉もうとしていてキモかったから、僕はちょっと距離を開けて立った。なんならレリアの代わりにこの場に僕が来てよかったな、と思った。シスコンだから妹にこういうタイプの不愉快な思いをさせたくないし、たぶんこの城から出てくる頃にはレリアのキルマークが一個増えてる。普段は優しいけどいざとなると結構容赦がない子なのだ。


 あの、と僕は言った。


「レリアです。今日は『魔物十万匹ボコ殴ったで賞』の授与ということで……」

「いいツラをしているな! 女、余のものになれ!」


 生殖のことしか頭にない生殖のために生まれてきた生殖モンスターか?


 なりません、と笑顔で答えたら、「うっふ~ん」とお姉さんがタコみたいにねっとり僕の身体に巻きついてきた。ほとんど「君は、まっぱだかじゃないか」と言いたくなるような薄着のお姉さんが。いつもだったらうっひょーとか言って鼻の下を伸ばすところなんだけど、目の前にパリピ三世みたいな人がいるとなんだか鏡で自分の醜さを見せられてるみたいで背筋がしゃんとしてしまう。帰ったら去勢手術に行こうかな。


 お姉さんは胸の谷間から銀色の盾を取り出した。盾って言ってもシールドとか不遇職のことじゃなくて飾り板のことね。『For killing 100,000 monsters』と書いてある。もしかしてこれがそうなんですか?という視線で見つめたら投げキッスされた。


 結構ずっとピーピー王様は何かを言ってたけど、特に労いの言葉ではなかったみたいなので僕はもう一度「どうも~」と頭を下げてその場を後にすることにした。生まれてから今までで一番不毛な時間だったかもしれない。


 扉を閉めて、はぁ、と溜息を吐くと、「よっ」と声をかけられた。


「よかったぜ。銀盾英雄がああいう頭の軽い男と同調するようなタイプじゃなくてよ」


 そこにいたのは、いかにもかっこいい感じの男の人だった。身長は190cmくらいある。僕より年はちょっと上くらいかな? 品のいい恰好をしてるけど、その下の鍛え上げられた身体が隠しきれてない。これは間違いなくプロテインをやってる。一瞬レリアと同業の人かなと思って焦ったけど、僕を見る目線が初対面のそれっぽかったので、とりあえずは普通のとおりにいくことにした。


「どちらさまですか?」

「ま、俺を知らねーってのは無理はねえ。なにせもうすっかり没落しちまってるからな。が、今日ばかりは覚えてもらうぜ。俺はシャークハート公爵家の一人息子……一人になっちまった息子のゼット=シャークハートだ。以後ヨロシク、ってな」


 にっ、と挑戦的な笑みを見せてくるのに、はあ、と僕は頷いた。全然偉い人の名前とか覚えられない家系なのだ。公爵。さぞかしお偉いこってございましょうな。前にレリアから借りた少女漫画でそういうポジションの人がめちゃくちゃキラキラした花を背負って出てきた気がする。


 どうもどうも、と僕は頭を下げて「レリアです」と嘘を吐いた。特に淀みはない。僕と社会の接点はレリアの仮面を被った状態でしか成立しなくなってきている。それじゃあ私はこれで、とそそくさ立ち去ろうとしたら、その男の人……ゼットさんはこう言った。


「腹、減ってねえか?」


 人生においては二者択一、という状況が時に現れる。

 僕は結構わかりやすい人間だから、そういう場面に出くわすと頭の中に大きな天秤が現れて状況を視覚化してくれる。今、その天秤にはこんなものが乗っていた。


 右、さっさと家に帰って外界のストレスから解放されたい気持ち。

 左、王城で出されるご飯ってさぞかし美味かろうなという気持ち。


 天使と悪魔が戦って、右が落ちた。左が上がった。勝利したボクサーのごとく。僕は毎回この天秤が傾いた結果の解釈に困り果てています。


 ぐー、とお腹が鳴った。


 のを見て、にひっ、とゼットさんは笑った。


「英雄、食を好むってな。お色気ねーちゃんで目を保養ってタイプでもねえだろ、あんた。せっかくだからここでいい思い出作っていけよ」


 ごめんな、と心の中で僕はレリアに謝った。

 にーちゃん、お前が映画館でポップコーン食ってる間にいいもの食べてくるわ。




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