12 サメの出すレーザビーム 略してサメーザービーム
ずばばばば、と水上バイクが海面を裂いて走る。ものすごい速度で、ものすごい蛇行をしながらジグザグに。なんでそんな危険運転をしているのかと言えば、当然レーザービームが何度も連射されてくるから。
「気を付けろ! 一発でも当たったらオダブツだぞ!!」
ゼットが叫ぶ先は、僕らの他のもう一つのバイク。運転手はピークさん。向こうも向こうでものすごくアクロバティックな操縦をしていて、後ろにいるパリピ三世が振り落とされそうになっている。
あんな筋肉ムキムキの人が叩き落とされそうになってるんだから、当然僕みたいなヒョロガリはもっとひどいことになっているに決まっていた。
「ほべべべべべべっべ」
「レリア! なんか作戦ねーのか! このままだと俺らは蒸発して死んじまうぞ!!」
そんなことまで思いつけるほど思考リソースがありませぇん!!
どぎゅぅん、ばちゅぅん、ととんでもない音を立ててサメからレーザービームが飛んでくる。光線の持つあまりの熱量に周辺の雨がたちまち気化して水蒸気に変わっていく。周辺温度は急上昇。さらに言うならレーザーが通った道で空気がぶわっと膨張して、僕らの身体にとんでもない熱風を叩きつけてくる。
し、死ぬ!
命の危機だ!!
でも、と僕は叫んだ。
「あ、雨の中だからレーザーの威力は弱くなってるはずです!」
「弱くなっててこれかあ!?」
「エネルギー効率が悪くなってる! だから射程が短くなってるはずです!」
「つまりはもっと飛ばせってことだな!?」
しっかり掴まってな、とさらにフルスロットル。もう僕は目も開けていられない。雨が痛い。思いっきりゼットの背中に顔をくっつける。すまん! 風よけになってくれ!
「おい、シャークハート! どうするつもりだ!」
「飛ばせ! 逃げろ!!」
横付けしてきたパリピ三世がゼットに聞く。そして言われたとおりにピークさんがさらにアクセルを強めたのが聞こえてくる。この人の運転技術も相当すごいな、とよくわからないところで僕は感動している。案外僕もやろうと思えばあれくらいできたりするんだろうか。まあそんな機会、ないと思うけど。
「――――よし! 流石だぜ、レリア! お前の言ったとおりだ!!」
そのうち、ゼットがそんなことを叫んだ。
何のことだよ、と頑張って後ろを振り向いてみたら、確かに僕の言ったとおりになっていた。つまり、サメとの距離が開いた結果、もうレーザービームの射程が僕たちまで及ばなくなっていた。光の熱線はサメのところからものすごい勢いで飛んできて、雨や霧に遮られて力をなくして、もう僕の背中にすら届かなくなってる。
そしてそうなれば運転手たちももう変なジグザグ走行をする必要がなくなる。ただハンドルをまっすぐにしてアクセルを振り絞るだけ。そうすればさらにどんどん距離が開いていって、もうサメが搭載する光学兵器の魔の手からすっかり逃れることができた形になる。
よっしゃ、と僕も小さく言った。
「それで!?」
パリピ三世が叫ぶ。
「これからどうするつもりなのだ!?」
「チャンスを窺って城まで戻るぞ!」
「正気か貴様ら!?」
ゼットの回答に、本当に憤ったような声でパリピ三世は言う。
「城に戻るということはあのサメとの距離を縮めるということだぞ!? ようやくヤツを撒いたところで何を考えている!?」
「しかし、王」
それに口を挟んだのは、意外にもピークさん。
「この雨の中では私たちの体力も持ちません。私と王は服もほとんど着ていませんし、ゼットさんとレリアさんの二人だって、かえって濡れた服を着ていたら体温の低下も早いかもしれません。このまま逃げていても、救助が来る前に身体が動かなくなってしまう可能性も……」
「黙れ! 余に口答えをするな!!」
そう言われたら、それで口を噤んでしまう。
うーん。なんだかあんまり見ていて気分のよくない光景だ。ちゃんと話を聞いてくれる分、僕はパリピ三世よりゼットの方が好みだなあ。まあちょっと、もうちょっとなんかこう、油断させてほしい感じはあるけど。あと僕がレリアじゃないってわかったらどんな目に遭わされるのかわからなくて怖いけど。
「……癪だが、パリピの野郎の言うとおりでもあるぜ」
僕にだけ聞こえるような音量で、ゼットは言った。
「城に戻るっつーことは、あのサメに近付くっつーリスクを背負うってことだ。情けねえが、俺らの運転技量じゃ相当厳しい」
ピークのやつがあれだけ動けるのは予想しちゃいなかったが、と複雑そうな声でゼットは言う。うーん。なんかここもここで人間関係が……。ていうかなんで僕、ここにいるんだろう。すっごく場違いじゃない? 王とその……えーっと、なんだろう。パートナー?と、公爵子息。たぶんあのIQに自信アリの集団と一緒に公爵も死んじゃっただろうから(間違っても「たぶん公爵も死んじゃったよね」なんてゼットには言わないけどね。僕にとっては公爵なんて変なマスクを被った変なおじさんだけど、ゼットにとっては結構仲のいいお父さんかもしれないんだから)、実質ゼットは公爵みたいな感じだろうし。没落してるって分を差し引いても、ここにいるのって権力者、権力者、権力者、そして無職みたいな感じなんじゃないの? なんかもっと守られる立場でもいいんじゃないかな。権力者っていざというときに苦労するっていう約束をしてるから権力を握ってられるんじゃないの? 選択的無職はいざというとき自分自身の存在に自分で責任を取るって覚悟で自由を得てるんじゃないの、って言われたらぐうの音も出ないけどさ。
まあいいや、今はそんなこと。
「無理そうですか?」
「いや、だがそれ以外に手がねえっつーのもわかる。できれば何か、上手いことあいつを沖に置き去りにできる手段があればいいんだが」
「沖だけに置き去りって感じですか? うふふふ、上手いこと言いますね」
「…………」
ものすごく呆れた顔でゼットが振り返った。
しまった、と僕はキリッとした表情に切り替える。昔からこういうのによく反応しちゃうんだよな。一家全員小ボケみたいなのが好きだし、しょうもない揚げ足を取ってへらへら笑うのが好きだから。
真剣にやれ、ってぶん殴られるかもしれない。
とか思っていたのに、ふっ、とゼットは表情を崩した。
「この絶体絶命でその余裕か……。おもしれー女だぜ」
なんか上手く彼の中で処理されたみたいだったので、あんまりこれ以上触れんとこうと微笑んで話を終わりにした。そして色々誤魔化すために、作戦を練るふりをして後ろを振り向いてサメの様子を見た。
そうしたら、きゅぅううううん、とものすごい光の塊がサメの胸鰭に集まっているのが見えた。
そして、サメが僕たちに背を向けていることもわかった。
何をしているんだろう、と一瞬思って。
何をしているのかがわかって、ぶわっと鳥肌が立った。
「マズい、来ます!!」
「あ?」
話の呑み込めていないゼットが間抜けな声を上げる。
来るって何が――、と後ろを振り向いて、僕の見ているのと同じものを見ようとする。
そして、逆噴射と超加速を見た。
サメのレーザーが城に向かって火を噴いたのだ。レーザーの生み出す衝撃波がサメの身体に反作用を起こして、ものすごい勢いで吹っ飛んでくる。僕らが頑張って開いた距離を、一瞬で無に帰してしまうような高速で。
「曲がれぇええええ!!」
間に合わない、とわかっていたから、ゼットの上に覆いかぶさるようにして、無理矢理にハンドルを取った。急速な舵切り。ほとんどぶっ飛ぶみたいにして進行方向をひん曲げて、それでなんとかギリギリ、サメの直撃を避けられる。
でも、衝撃波で吹っ飛んだ。水上バイクに乗った僕たちは、くるくると回転しながら宙を舞う。ぐるんぐるん周る視界の中で、パリピ三世たちも同じ感じになっているのが見えた。このままじゃ月まで吹っ飛んじゃうぞ!
なんてことはなくて、普通に着水した。
たぶん僕が見てないところで上手くゼットが機転を利かせてくれたんだろう。なんとも綺麗に元通りバイクは海面を踏んで、もう一度アクセルを吹かし始めた。
けれど、上手くいったのは僕らだけだったのだ。




