表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3. ベテラン俳優たちと私。

「にゃっぽりぃぃとぉぉっ!」


 撮影所に監督の声が響き渡った。


 すなわち 「ナイス」 ってことだな、と了解する全スタッフたち。


 今日の不死元(ふじもと)監督はかなりヘンだが、その理由はわかっているし、彼らとて同じような気持ちである。

 ――― そう。miniたちの改変した台本によって、これまで以上に心がひとつになった彼らは、素晴らしいピッチで撮影を進めていた。




「シーン32! 本テス!」


 撮影は、いよいよ、ヒーロー・滋流(しげる)が床に扮した家政婦に気づかぬまま、金満老害デブと揉み合いになるシーンへ入った。



「元恋人だとぉっ!? 朱鷺子(ときこ)(わし)のものだ! 儂のものなんだぁっ!」


朱鷺子(ときこ)はモノなんかじゃない! 彼女の意思を尊重してくれ!」


「んなもん尊重しとったら、当然、イケメンな若者に行くに決まっとろうがぁぁぁっ!」


「それを認めるのが本当の愛だ!」


「同じ台詞、テメーがハゲデブオヤジになってから、言ってみやがれぇぇぇっ!」



 この台詞を言う金満老害デブ役は、『燻銀(いぶしぎん)』 とも評されるベテラン俳優 穴太鼓 饅 (けつだいこ まん)


 穴太鼓(けつだいこ)もまた、改変された台本により、役の血が通っているように感じ、ノリノリで演技をしていたのだが…… 

 ふと、目線を下にやって、気づいたことがある。


(しまった……!)


 揉み合っているうち、いつの間にか、立ち位置がずれ込んでいたのだ。

 このままでは、床に扮した家政婦役・江都子(えつこ)の上に乗ってしまう……! 


(どうする!?)


 ヒーロー役と、小手先の殴り合いをしながら、ちらり、とスタッフの持つカンペを確認して…… 穴太鼓(けつだいこ)は、ふたたび止まりそうになる。


 なぜなら、カンペには……


『フンデ!』


 と書いてあったからだ。


 この文字、実は、©*@«(ピンハネ)º*≅¿(ポンチコ)の指令を受けたminiたちがマスゲーム的にカンペの上に並んで作ったモノであったが…… もちろん、穴太鼓が知る由もない。


 しかし彼のベテランの勘は、そのカンペが正当であり、その通りにした方が素晴らしい演技となる、と告げていた。

 こうなれば、選択はもう、1つである。


「せいやっ!」 とヒーロー役を押し倒し、彼らは、miniたちの思惑通り、家政婦役・江都子の上で激しく揉み合いをはじめた。


 その背後で、密かに拍手を贈る不死元監督。


(エクストリームへヴンフラァァァッシュ!) と、内心で快哉をあげている。


 彼は、カンペに気づいておらず、穴太鼓とイケメンヒーロー役の演技を、アドリブだと信じこんでいたのである。




 一方で、床役……もとい、家政婦役の江都子(えつこ)は。


「くっ……」


 呻き声を押し殺し、女優のプライドで何食わぬ表情を保っていた。


 上では、男たちが激しい動きを繰り広げている。……正直いって、重い。キツい。


(いい加減、早く終わってほしいんですけど!?)


 とは思うものの、このシーンが素晴らしく良い出来になろうことは、魂レベルで理解していた。


 ここで、台無しにするわけにはいかない。

 忍耐あるのみ、である。


(まだかしら……!?)


 彼女がチラ見するカンペの文字は、疲労のせいか、ピョコピョコと動いているようだった。


(え……!?)


 目を凝らしてもう一度見直し、彼女は了解する。そこには、なんと……


『ヨロコンデ!』


 と書いてあったのだ。


 江都子(えつこ)の心は、燃えた。


 この困難な状況で、さらに正反対の演技をさせる…… これぞ、監督が江都子(えつこ)の女優としての力量を買っているのでなくて、なんであろう。


 ……実はカンペは、©*@«(ピンハネ)º*≅¿(ポンチコ)たちによるmini文字だったのだが、もちろん江都子(えつこ)は、それを知らない。


(完璧な演技をしてみせるわ!)


 彼女の上では、今まさに、穴太鼓(けつだいこ)がイケメンヒーロー役に組みしかれ、最後の喘ぎを漏らしていた。


 それに合わせるように、江都子(えつこ)は喜びの表情をし、「オォォン……!」 と飢えた獣の声を徐々に高めていく。


 ――― 穴太鼓(けつだいこ)事切(ことき)れる演技をする瞬間が、絶頂だ。


(………………)


『喜び』 の演技を続けつつ、江都子(えつこ)は無心に、意識を穴太鼓(けつだいこ)に集中させた。


 周囲の色も音も消え、ただ、穴太鼓の息遣いだけが、鮮明になっていく。


 …… 彼の心さえ手に取るように分かると信じられるほどの、透徹した瞬間を、永遠のように感じながら、彼女はひたすら呼吸を合わせて演技をした。


(……3、2、1、いま!)



「おぁぁぁぁぁぁああああんっっ!」



 ――― 床から感激に満ちた声が上がる中、金満老害デブはガックリと力を失い、その命を終え……。



 そして。


「はらしょっぽりぃぃぃとっ! 本番オーケストラっ!」


 不死元(ふじもと)監督の絶叫もまた、撮影所中に響き渡ったのだった。

 ……もちろん撮影所スタッフは分かっている。『本番オーケストラ = 本番OK』 だということを……。



 そしてもちろん、監督はカンペに気づいておらず、江都子の演技をアドリブだと信じこんで、いたのである……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i454710
(Picrewの「もちもちめーかー」でつくったよ! )

i459019
~ベイビーセレナーデ~

i459019
~あやさずにはいられない~
 
i473646 
~simple is best !?~

Picrewの「たまごむしメーカー」でつくったよ!

画像製作はいずれも、秋の桜子さまです。 桜子さま、どうもありがとうございます!
― 新着の感想 ―
[良い点] >穴太鼓 饅 《けつだいこ まん》 ひどい名前w あ、張り付けて気づきましたけど、ここルビになっていませんね。 それにしても、この内容でオンエアしても良いのでしょうか…… 一緒に見ている…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ