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6.

「……復讐をしようとは思わないのか?お前をはめた女に」


男が見定めるように問いかける。復讐という言葉に思うところがないわけではないが、全てを他人に打ち明けることによってスッキリしたという事も手伝い、先程までの怒りと絶望の感情は薄くなっていた。そして今はそれらとは違う感情が新たに湧き上がっている。

それ故、オリヴィエの答えは決まっていた。


「思わないわ」

「やけに即答したな。そいつのせいでお前は今日から国に追われる立場になったんだぞ?お前はめでたく犯罪者の仲間入りだ」


男は質問に即答したオリヴィエに興味を持ったようで、更に質問を積み重ねてきた。


「そんなこと……しても疲れるだけじゃない。それに裏切られるまで彼女に嫌われているって気づけなかった私の自業自得だもの――――というか貴方は私の話信じてくれているのね。少し意外」

「お前は損な性格だな。まあ信じている……というよりもお前の話を聞いてずっと感じていた違和感が消えたからだな」

「……そう」


オリヴィエ自身も周囲から見たら、自分のこの反応はおかしいと分かっていた。けれど、どうしても怒ったり、復讐心に囚われたりなどというこが出来なかった。

元々オリヴィエ自身があの場に相応しいとは思っていなかったこともあるかもしれない。

けれど、心残りがあったのだ。この男と話していて自分自身を冷静に見つめなおせたから見えてきたのもあるかもしれない。


「でもね、何故キアナが私を殺そうとまでしたのかが聞きたい。それとテオフィルス……姫巫女を辞めるにしても一応婚約者である彼に本当の事を打ち明けてから辞めて、後の事を決めたいわ……仮令(たとえ)、主張が無視されたとしても」


怒りでも復讐でも悲しみでもない。オリヴィエは前を向くことを決めたのだ。そして前を向くためにも最低限のけじめはつけておきたかった。

だから、これはある意味の誓いだ。自身が決めたことをやり遂げるために、その言葉を誰かに聞いて欲しかった。


しかし男はオリヴィエの言葉に少し考える様な素振りを見せた直後、急に快活に声をあげた。


「……よし!交渉しよう」

「え?」


オリヴィエは一瞬何を言われたのか分からずに硬直する。なにせ、いきなり”交渉”だ。話が飛躍し過ぎてついて行けない。けれど彼女のそんな様子を見ながら、男は続けた。


「俺とそこで縛られて伸びている男を殺さないでくれるなら、お前が王宮に行くのを手伝ってやるよ。ただで俺達をこき使えるんだ。悪い話ではないだろう?」


オリヴィエには元々別に彼らを殺す気などなかったのだが、なんだかいい感じに勘違いをしてくれているようだった。もしこの言葉が本気ならば願ったり叶ったりだ。

けれど怪しくもある。なにせ元々はオリヴィエを殺そうとしていた相手だ。安心させたところで、王宮に到着する前に寝首を掻かれるかもしれない。キアナの裏切りはオリヴィエの心を蝕んでいた。


だからオリヴィエは逡巡してしまう。


「それともなんだ?やっぱり自分を殺そうとした男の話なんて信用できないか?まあ、それならそれで仕方がない。アンタを殺して、その証拠を隠滅する依頼なんかを受けた俺たちが悪いんだ……一思いに殺してく――」

「殺さないわ。私はこの森を出る技術も王宮に行く手段も持ち合わせていないのだから」


元々殺すつもりなどなかった。オリヴィエはいくら先読みの力を手に入れ、貴族や重役の裏やその社会を見てしまったからと言って、所詮は”表の世界で生きてきた人間”である。男を殺すほどの勇気や覚悟もなければ、この状況を独りで脱するほどの実力もない。だからこの道しか残されていない。彼女はここで覚悟を決めた。


「じゃあ決まりだな!えっと、お前――名前は?」

「オリヴィエ。オリヴィエ=クレンティア」

「俺はアドール=インシェだ」

「よ、よろしくお願いします。アドール、さん?」

「呼び捨てでいい。あと敬語もいらん」

「……アドール」


そう呼ぶと、男は被っていたマスクを取る。声では分からなかったが、顔の感じからしてオリヴィエと年の頃は同じくらいだろうか。端正な顔立ちに赤い髪、貫かれる様な印象を抱くほどに真っ直ぐな翠と金のオッドアイの眼差しが印象的だった。

そんな男の容姿に目を奪われていると、いつの間にか左手を握られていた。


「この俺アドール=インシェはお前オリヴィエ=クレンティアを王宮まで無事に連れていき、お前が目的を果たすまで守りきることを誓う」


男の心臓の辺りが赤く光り、輝く。それに呼応するようにオリヴィエの腕からも同じ光が輝いた。


「そ、れは――」

「不破の誓いだ」

「!?なん、で……?」


不破の誓い……それは主に従者などが王族などの主に対して行う誓いの一種である。

これらの誓いを破った者はどのような理由があろうとも、誓った時に身体に浮き出た印に宿った魔力によって心臓を貫かれて死ぬ。

言葉からして、”オリヴィエの目的が果たされるまで”という一時的なものだが、オリヴィエはそんな誓いを何故自分なんかにこの男……アドールがしたのか理解が出来なかった。

だから問いかけてしまう。何故ここまでするのか、と。するとアドールは頭の後ろで腕を組み、背を伸ばしながら軽く答えた。


「俺は今まで沢山の人間を殺して、跡形なく隠滅してきた。そいつらは殆どがクソみたいな人間どもで、最終的には泣いて、金をちらつかせながら小便もらして命乞いしてきたよ」


本当に醜い。付け加えるように言われたその言葉は嫌悪感を露にするように顔を歪めながら。


当然の様に人間を始末してきたと言われるとオリヴィエは何も言えなくなる。彼もオリヴィエの本来の立場であれば、テオフィルスとは別の意味で()()()()()()()立場の人間なのだ。

何も言わないオリヴィエを気にすることなくアドールは続ける。


「でもな、お前は違った。俺らが先にお前に一泡吹かせられたのもあるが、なによりもオリヴィエ……お前の瞳、そして心は他の奴らの様にくすんでいなかった。だから信じて見たくなった。それだけだ」


アドールの言葉は真っ直ぐだった。だからこそオリヴィエの心の中心を射抜いた。先程までは戸惑い、それと不安や疑念、猜疑の心が占めていた彼女の心の迷いを完全に晴らした。


「私もアドール……貴方を信じるわ。だから私を王宮まで連れて行って」

補足:

アドールが何故ここまですぐにオリヴィエに協力する決意に至ったのかはそのうち番外編又は本編中に軽くにおわせる程度で書きたいと思っています。

取り敢えずは理由があるんだよ~くらいな感じで理解していただければと。因みに折り返し地点って感じです。お話としては。


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