3.
「私、先読みの力を失ってしまったみたいなの……だから、テオに――テオフィルス様に全てを正直に話して、姫巫女の職を辞してこようと思う」
決意を込めてその言葉を口から出した。とうに涙は枯れ、決意は固まっている。
オリヴィエが決意を表明した相手――――それは、オリヴィエが姫巫女になった少し後から彼女を補助するために”側近”としてついてくれている古株の巫女。オリヴィエより二つ年上のキアナという女性だった。
キアナは巫女という集団の中で、基本的な規則すら知らずに悩んでいたオリヴィエに手を差し伸べてくれた。そこから色んなことを教えてくれた頼りになる女性だ。
そんなキアナを血のつながった姉弟というものがいないオリヴィエは、いつからかまるで姉の様に信頼し、慕っていた。今までテオフィルスを好きになってしまった時やその後、彼との婚約が決まって嬉しかった時……色んなことを相談して、喜びを分かち合ってきた。
だから今回も一番最初にソレを打ち明けたのはキアナだった。
「そう――だったのね、オリヴィエ。きっと一人で悩んで辛かったことでしょう。でも大丈夫よ。私は貴女の事を誰よりも理解しているわ。だからもう休んで……目が充血している」
「キアナ……!」
安心させるように頬を撫で、微笑むキアナにオリヴィエは安心感を覚える。表面上出さないようにはしていたが、内心不安で感情が爆発しそうだったオリヴィエにとって、彼女の言葉は救い……絶望の中に差した一筋の希望の光のようにも思えた。
「姫巫女の退職については私が書類をまとめて提出しておく。だから安心して――――」
「待って。書類を書いて、提出しに行くのも私がちゃんと行くわ……今日はキアナに私の決意を聞いておいて欲しかっただけなの」
「そう……分かったわ。貴女が休んで全快したら、書類をテオフィルス様に提出しに行きましょう。不安だったら私も付き添う」
「ええ。ありがとう、キアナ。ねえ……私が姫巫女じゃなくなっても、キアナは私の友達でいてくれる?」
純粋な疑問だった。オリヴィエは先読みの力が無くなったら、ただの一人の女性に戻る。その中で、せめて姉の様に慕うキアナだけは、今まで通りの関係でいてくれるという肯定が欲しかった。オリヴィエは不安だったのだ。
「勿論よ。だから安心して眠って。私の愛おしいオリヴィエ」
その言葉に安心して、オリヴィエはキアナの自室で眠りにつく。彼女の極限まで擦り減った精神は眠りに落ちるまでほんの一瞬も必要としなかった。
だからソレに気づくことが出来なかったのだ。
「馬鹿なオリヴィエ」
オリヴィエを励ましていた口と同じモノでそう嘲笑い、何かを彼女の首に打ち込むキアナの姿に――――。