2.
オリヴィエは元々、数百人程の規模を誇るそれなりに名が通っている旅芸人の一座のうちの一人……中でも特に目立つ踊り子の花形だった。
ある時、その一座はグレイスヴィッツ王国の王宮の夜会にて芸を披露することになる。
それなりに名が知れている旅芸人の一座と言っても、このように国の王宮で芸を披露することは初めてであり、一座最大の仕事であった。
当初はオリヴィエも王宮で踊りを披露できると聞き、皆と共に喜んだ……それが自身の運命を変えるとも知らずに。
結局オリヴィエはその夜会でグレイスヴィッツ王国の第一王子・テオフィルスによって、姫巫女としての資質を見出されることになる。
最初は”先読みの力を持っている”と言われても実感がなかったオリヴィエだったが、実際に先読みの儀式の場に連れてこられると瞬時に理解した。
身体が勝手に動く……まるで元から知っているかのように。そうしてそこで初めての先読みをした。
これが5年前。オリヴィエが16歳の時の話だ。
そこからオリヴィエはいくつもの未来を言い当て、時には問題に巻き込まれ、命を狙われながらもテオフィルスと共に乗り越えながら国を支えてきた。そうして過ごす中でいつの間にかオリヴィエはテオフィルスに信頼以上の感情……恋情を抱き始める。その後オリヴィエが18歳の時に彼との婚約話が持ち上がり、そのまま婚約を結ぶ運びになったのだ。
当初は嬉しかった。だって好きな人と結婚することが出来るのだ。
けれど時が経つにつれ、オリヴィエは不安になってくる。テオフィルスは何故自分との婚約話を受けてくれたのだろう。それが分からないのだ。果たしてオリヴィエと同じ気持ちで、好意で婚約をしてくれたのだろうか……そう不安になってくる。
だって自分には踊り子をしていただけに普通より多少は見目の良い容姿と、この先読みの力しかない。
確かに出会った当初からテオフィルスは変わらずオリヴィエに優しい。けれどオリヴィエとは#そういう__・__#雰囲気になったことがないのと、何よりも明確な好意の言葉は聞いたことがない。オリヴィエがたまに好意を伝えてみても、少し悲しそうな笑顔で流されてしまうのだ。
でもオリヴィエはいつでも自分に優しい彼に、何故婚約を受けてくれたのか等と直接聞くことは出来なかった。
怖かったのだ。彼自身の口から”他に好きな人がいる”や”オリヴィエと婚約などしたくなかった ”、”先読みの力があったから仕方なく婚約したのだ ”そう、本当の言葉を聞くことが――――。
そして今、オリヴィエは唯一の長所とも言って良い先読みの力がなくなってしまった。
オリヴィエは考える。これは天罰なのかもしれない。産まれという現実から目を背け、大きすぎることを望み、叶えようとしてしまった自分への天罰。
お前は調子に乗り過ぎたんだよ。誰かがそう言っているがした。
でも何よりも一番悲しかったことは、もうテオフィルスの役に立つことが出来ない事。彼に能力者としての貢献すら出来ない事だった。もう、彼に顔向けできない。
そうしてオリヴィエは神殿で泣き崩れた。
解説:
姫巫女……巫女の最上の位。基本的に先読みができる人間が就く職。国が出来た当初に存在した巫女がこの国の姫だったことと、その後も何故か先読みの力を持つのは女性しかいないため、姫巫女という名称がつけられたとされている。
・好きになった人、テオフィルスが王族の中でも第一王子という立場のため、オリヴィエは自身の庶民という産まれ+αに強いコンプレックスを抱いています。