10.
門番にアドールが何かを話しながら、通行証のようなものを見せるとすぐに城内に入ることが出来た。
アドールは迷いなくズンズンと城の奥へ奥へと進んでいく。
そうして庭を経由して、到着したのは神殿――それもオリヴィエにとって見覚えのあり過ぎる場所。神殿に併設された姫巫女の側近の部屋……キアナの部屋だった。
ここに来て初めて感じた緊張にオリヴィエは息を呑む。しかしそんなもの気にすることなくアドールは雑に扉をノックした。
「依頼のモノを持ってきた。さっさと開けてくれ」
「……開いているわ。さっさと入ってきなさい」
扉越しに聞こえて来たその声は既に嫌という程耳に馴染んだモノ。そしてオリヴィエの目的の一つ。
「遅かったじゃない」
部屋の奥、ベッドに腰かけるキアナがいた。オリヴィエは思わず自分の服の裾を強く握る。
「ほら、アンタの希望した品だ」
そう言い、雑にキアナの方に袋を投げるアドール。キアナはそれを受け止めると直ぐに中を開いて確認する。
中から出て来たのは瓶に入った金の虹彩を持つ瞳だった。さっきは見ることを断ったオリヴィエだったが、彼女の目から見ても、これは良く出来ているように見えた。なにせ自分がいつも鏡でみる瞳と寸分違わなかったのだ。
偽物だと知らなかったら確実に信じてしまうであろう代物。
そしてそれを部屋にいる全員が視認したと同時にキアナは俯いた。
何故だか震えている様だ。その様子を見て、一瞬”後悔しているのか ”などと勘違いしてしまったオリヴィエは愚かだった。
「ふふふ……あははははははは!ついに死んだわ!あの女――――」
俯いていると思ったキアナは数秒ですぐに顔を上げ、狂った人形のように笑った。震えていたのはオリヴィエがいなくなった後悔ではなく、喜び。
そしてキアナは笑い続けながら瓶を床に叩きつけ、割れて出て来た目玉を足で踏みつぶした。プツリと嫌な音が耳にこびり付く。けれどキアナはそれをやめない。キアナは何度も何度も目玉だったものを踏みつぶし続けた。
「っ――――」
「俯くな。ちゃんと向き合え」
覚悟はしていたが、いざ目の前でこんな態度をとられると、流石のオリヴィエも動揺した。しかしそれを予測していたかのようなアドールが小声で鼓舞する。
「……はあ、スッキリした。あら?貴方達まだいたの?」
散々に踏みつぶし、もはや原型がない目玉をうっとりと恍惚な表情で血の一滴も残さないくらいに拾い集めながら言った。床から集めた血を口に含みながらこちらを視認した瞳の中には狂気が滲み、見つめられるだけで背中から汗が流れる。
けれどオリヴィエには聞きたいことがあった。それらの行為にも動揺しながらも聞かなければならないことが。
「その瞳を踏みつぶして、そんなにもスッキリしたのですか?」
「ええ。とっても」
きっと機嫌が良いのだろう。キアナは清々しいまでの笑顔で答えた。
「何故その人をそんなに恨んでいたのですか?」
「恨んでいた……そう、ね。だって彼女の場所は本来私がいるべき場所だったのだから……私の場所を奪ったあの女を恨まないわけがないでしょう?」
「……彼女が偽物だったのなら、それを公表すれば良かったのでは?」
オリヴィエは素直に思った事を言葉に出し、質問を重ねていく。まだどこか心の底の方でキアナの信じられる部分を見つけようとしている自分がいることが不思議だった。
「そっか。そういう事にしておいたんだった……貴方達が殺したあの子は本物の巫女よ。私が少し細工しただけでね」
「細、工」
「ええ。私を信じきっている馬鹿なあの子にその薬を飲ませるのは簡単だったわ。毎日の食事に混ぜ込んだの。彼女は信じ切っているであろう私に裏切られて、死んだ。ふふふ……貴方達はね、本物の巫女を殺したのよ」
「っお前――」
「キャアアアアアァァァァ!暗殺者よ!誰か――――」
アドールが何かを言おうと口を開いた瞬間、キアナが叫ぶ。まるで用意していたかのように……”暗殺者”と――。するとそれが聞こえたのか城内はざわめきだし、扉の外にいくつかの人間の気配が現れた。
「おい、逃げるぞ!」
しかしその判断は遅かった。アドールがオリヴィエに声を掛けた時には既に扉は開かれ、何人もの兵が彼女らを取り囲む。そしてその兵の内の一人を見た時、オリヴィエに衝撃が走る。テオフィルスがいたのだ。
「……捕縛しろ」
テオフィルスは冷たく、冷静に言い放った。その言葉にアドールとオリヴィエが身構えた。




