1.
新連載です。因みに、以前書いた作品、『今日、大好きな婚約者の心を奪われます』に繋がりのあるお話です。よろしくお願い致します。
ソレは突然だった。
「――視えない……やっぱり何も視る事が出来ない」
グレイスヴィッツ神属王国の神殿――朝の先読みの儀式にて。オリヴィエは絶望した。
いつもは目を閉じ、水盆に手をかざすだけで水が光り輝きそのまま未来が視える……未来に何か危険なことがあろうとなかろうと何かしらの映像が視えるのだ。しかし今日のオリヴィエには何も視えなかった。それ以前に、巫女の力に反応する筈の水盆も光の片鱗すら宿さない。
この状態は既に7日目。儀式で未来をこうして視るようになってからはこんなことは一度もなかった。最初は国の未来に今まで視えなかった程に強大な厄災が降りかかろうとしてるのか、見る程の価値すらない程平和なのか、それともただ単に調子が悪かったのか……本当に考えつく限りの様々なことを疑った。
しかし昨日起こった出来事で分かってしまったのだ。
グレイスヴィッツの南部、フォーリンガの炭鉱にて起こった大事故……それはいつもなら”視ること ”ができていた筈の事故だった。しかしオリヴィエにはそれが”視えなかった ”。
オリヴィエの婚約者であるテオフィルスは、予知を出来なかったことを責めてくるどころか周囲の冷ややかな目から庇ってくれていたが、オリヴィエにとってその状況は地獄だった。今まで信じていたものが……信用されていたであろう自分自身が足元から崩れていくような――。
そして今日、改めて先読みの儀式を独りでしてみて分かった。
「私は先読みの能力を失った……」
水盆に金の瞳から涙が落ちる。この力を失った自分には価値はないとしか思えなかった。オリヴィエの思い人――第一王子であり、姫巫女であるオリヴィエの婚約者・テオフィルス……彼と婚約できたのも彼女自身が姫巫女の力を持っていたからだ。
元々の産まれが庶民である彼女が本来の立場で生きていたら、直接話をすることすら叶わなかったはずの人物。
この先読みの力があった故に今までは隣に立ち、共に未来を切り開いてきた。けれど自分はもう、彼の役に立てない……それどころか近くにいるだけで庇わせ、先日の様に余計な恥をかかせてしまうだろう。
そんな自分には一欠けらも彼の隣に立つ資格など残っていないのだ。