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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第三章。
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第87話 誕生パーティーの朝。




 アンリエットがアンリエット領領都『アデリーヌ』に戻った7月20日から10日後の30日、フォーレ商会の商船『ラ・フォーレ号』は、南ミュロ領領都バルサザーに帰港した。


 フォーレ商会のバルサザー支店の二階会議室では、フォーレ商会の御曹子アンドレが抱きすくめられていた。


「よく無事に帰ったな!アンちゃんっ」

 感涙に咽ぶのはフォーレ商会の商会主、『マキシム・フォーレ』会頭。アンドレの父親である。


「アンちゃん…」

「アンちゃん…」

「「「「アンちゃん(笑)」」」」


「わ、笑うなっエミール!姫様達までえぇー。もう父さん、『アンちゃん』は止めて、ね?」

 帝国の財務官アンドレ(22歳)は、どうしても『坊っちゃん』であった。


「本日で、アンリエット様との契約は終了です。尚、復路に於いて知り得た情報についての料金は、いりません。これは、私共からのサービスです」

 道中一緒だった商人シリルは、「破格のサービスです」と言ったのだが、アンドレの「シリルさん、俺等が飯食う序に見たり聞いたりした事、まとめただけじゃねーか」と言う発言を聞き、アンリエットは思った。

(ただ同然の物事をさも、商品の様に言い、「サービス」と言って、恩を売る。この厚顔さが、『商人』なんだ。こう言う『付加価値』をも儲けにする商人とは侮れ無い人達だなぁ)

 社会勉強に成ったアンリエットであった。


 ところで、復路での情報とは、『ワロキエ』の現状である。

 明月(あけつき)教会が放ったとみられる魔物『蜂』の襲撃を受け、王の居城は崩壊し、城の周辺にある貴族街、官庁街も岩城の崩壊に巻き込まれ全滅した。王都ワロキエの町自体もがかなりの被害であったのだ。

 都の物価は、食品を中心に5~10倍に上がり、散発的に暴動や略奪が横行していて、かなりの数の住民が王都を捨て、周辺の町や集落に逃げ出していると、シリルは語った。


「ワロキエの状況は以上です。まあ、近い内に帝国、ファテノークに救援の打診が在る。とは思いますが、国王不在で覇権争いは避けられ無いでしょう。難民も大挙して押し寄せて来るのではないかと、考えます。

 もう既に、このバルサザーにも船で難民が来てます。この港も先週から入港制限を始めています」

「実を言いますと…その情報自体、知ってまして……。かえってスイマセン。

 その事と含めて今後、ワロキエの国内の争いで発生する難民の受け入れの為、南ミュロ領にワロキエの難民野営地(キャンプ)の設営と食料物質の確保を皇帝陛下より厳命(たまわ)っています。これから南ミュロ領の代官と設営規模、物資の搬入等々の詳細を詰める予定です。

 それと治安維持の為、2~3日中に国軍がバルサザーとその周辺の漁村に到着予定に成ってます。暫く混乱が続くと思いますが…」

「アンリエット様は、皇帝陛下への報告とかで、ある程度の情報が、あったんですね」

「そうですケド、ワロキエの物価とかの情報が聞けて助かります。何れ、ファテノークにも難民の受け入れが必要に成るでしょうから、食品とか物質の持ち出しの参考に成ります。ハハ…」

(物資の持ち出しなら、物価関係無いですアンリエット様。変な気を使わなくても…)

 (など)と思う商人シリルであった。



◇◇◇

 旧ミュロ王国北部。その後、色々あって今は『ヴァレリー大公領、アンリエット領』である。


 代官アンリエット=シルヴァーヌ・ド・ファテノーク伯爵の治める領地で、主な産業は農業。

ルイ皇太子の治める『ヴァレリー公爵領』とは違い今迄誰も見向きもしなかった『トウモロコシ』『米』『大豆』等と言った穀物の他に『じゃがいも』等の芋類を生産している。

 では、東のサトウ山脈で、産出される代表的な物は……


 と言う内容の試験問題を入れたのは、エミール先生だった様だ。

 ヴィクトリアのときの入学選考試験問題の一つだ。


 さて、今年の入試の問題は、どんな問題が出るのか、不安なのは、試験を受ける子ども達だ。

 その入学希望者は、500名弱。定員120名の凡そ四倍。

 昨年の奇策、帝都ブレの旧アデリーヌ学園、現ヴァレリー学園に押し込む。と言うのを今年は出来ないのだ。

 だが、そこは抜かり無く『二次募集』と言う制度を作った。ヴァレリー学園が……。


 アンリエット達生徒会は、入試の試験官としての役割があったのだが、あまりにも有名人過ぎて試験どころでは無くなってしまう。

 やらせられないのである。

 毎年、生徒会メンバーだけでは賄いきれないので試験官の募集を上級生(三年と四年生)にかけている。

 勿論、お小遣い程度の賃金は出るので応募者が多数いたのだ。

 だが、応募者の中に入っては成らない人物がいた。


 平常運転ジュリエットである。

 その日の内にサラサ先生に拳骨を喰らっていた。


 合格者発表の8月6日を前に合格者の人数の絞り混みにアデリーヌ学園の教職員は、苦慮していた。


 今年度最下位である135位合格者の点数を合否線の基準にすると、来年度入学者数は127名前後と成る。

 ここで少々、問題が起こる。

 「あくまでも定員は守るべき派」と「優秀なら入学させるべき派」の教員の対立だ。

 結論の出ないまま翌日持ち越しと成るところで、学園長は言った。

「教員数と予算上の兼ね合いもそうですが、何よりここは『帝立』アデリーヌ学園なのです。国の意向を伺う必要があります。ですが、学園長権限と言う物もあります。

 そこで、私の考えで、合格者の線引きを行います。合否線上の五人、入れます。従って合格者は128名。決定です。そして来年度…、再来年度ですか、の定員を現在の120名5組を145名、6組にします」

 話し合いが持ち越され無くて「ホッ」っとするエミール先生であった。


 アデリーヌ学園に併設されている領主館でアンリエット達は待っていた。

 そのまま帝都へエミールを『転移』する為だ。

「アンリさん待たせました。ルシールも待ったかい?皆さんもお待たせしました。では行きましょう」

 7月35日の午後8時の出来事であった。



◇◇◇

 翌朝早くに起きたアンリエット。

 去年迄使っていたベッドだが落ち着かない。

(やっぱり領主館の居室のが良いのかな?)

 と考えていると、庭先が少々賑やか。覗いて見ると、ヴィクトリアが、一人『亜法』の鍛練を行っている。

 「ぼおおーっ」っと炎が上がった。

(ええーっ、何?今燃えた?可燃物あった?何か凄い。って昨夜、ヴィクトリアとナデージュも泊ったんだった)



 アンリエット達は帝都ブレのファテノーク邸にいる。今年は7月中、『明月教会』関係の事件で、故国へ里帰りはしていない。

 お陰で今年はエミール先生の誕生パーティーに参加出来るのだ。しかし、事件が無くとも出席なのだ。

(婚約披露宴も兼ねていると…)


 パーティー事態は、夕方から始まるが、『主賓』と成ったアンリエットは朝から登城である。


「お早う御座います。姫様」

「おはようジーンさん」

「………あ、いえ。ではお召し替えを」


「ジーンさん?ジーンさんらしくもないです。言わなければ成らない事が在るなら、言いなさいっ!」

 少し『らしく無い』のは、アンリエットも、であったが……。

「はい。私はもう十年アンリエット姫様にお仕えしております。主人と従者の距離感が、まっこと恥ずかしながら掴めません。

 例えば、フェリシエンヌ様とマリエの関係、友人の様であり姉妹の様に振る舞っています。

 従属する者としてマリエ振る舞いには、問題があると思いますが、フェリシエンヌ様は楽しそうです。

 では。……と考えてしまうのです。ジーン・イヴェールは主人アンリエットと、どの様な主従関係を望むのか。と…」


「あたし自身、よく分からない。今の関係が主従のそれだと言うのなら、そう何だと思う。あたしは母を知ってるけど、お母様は女王で、ある意味母親としてはぞんざいな人だったと思う。

 だからじゃ無いケド、ジーンさんを母親だって思って接して居るのだと思う。だって、時にはあたしを立てて、間違えば叱って、知らなければ教えてくれる。寂しい時はいっしょに居てくれる。母親ってそうなんでしょ?」

(ああー、この娘は私に自分の思い描く母親を重ねていたのだ。何故かストンと収まるところに収まった気がするよ)


「……それに、ジーンさん、いろいろ便利だし」

「アンリエット様、お話し合いと言う名のお説教が必要ですね?お召し替えの後、少々お時間を頂きます」



 そんな訳で、帝都のファテノーク邸には、本来の主人が滞在中であった。


「おおー我が愛し子アンリエットよ!父はおはようの包容を所望する。

 さて、アッくん出番であるぞ」

「御意。サーチ!身長156。………75。旦那様、まっこと残念なお知らせです。75。停滞です」

「止めろおおおーーーっ」

 アンリエット渾身の飛び蹴り(ドロップキック)を軽々躱す国王代行の従者アレクセイ。

 アレクセイはアンリエットのドロップキックの勢いを殺さず、空中でアンリエットの胴部分を持ち、国王代行ライアンに向かって投げた。

 当然、父ライアンはアンリエットを抱き留め、「スリスリスリスリッ」っと頬擦りを敢行した。

 但し、彼の中では『敢行』では無く、『慣行』らしいのだが……。


「痛い痛い痛い。髭、髭痛い。止めてお父様、止め……。止めろおおおー、……お父様、お願い」

「ムッ。アンリエットの『お願い』頂いたっ」

 父ライアンの抱擁から解放され、「ゼイゼイ」と息の荒いアンリエットにライアンは、「残念な事に…」と話し始めた。

「非常に残念な事に、アンリエットのドレスを父は用意する事、叶わなんだ。だが、アッくん」

「はっ。今回のパーティー、姫様のドレスは皇帝陛下が用意するとの旨。従って、姫様の前回冬期休暇時の身体データを書簡にてブレ城皇宮に送ってあります。御安心召され」

「さっすが、アッくん」

「当然で、あります」

 父親と従者アレクセイのやり取りをアンリエットは、(こう言うのって、和むよね)と思ってしまうのである。


「バカな父共はほっといて、行きましょう姫様。午前中のうちに着付け等を済ませなければ成りませんので、これからブレ城へ向かいます。皆様は、昼過ぎからですから、お間違えの無い様。では、参ります姫様」


 こうして、ジーンと伴にブレ城へ向かうアンリエットであった。


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