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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第三章。
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第83話 神国と砂漠と海辺の小国。其の12。あれは亀です。




(私は後ろの男を……)

(アチシは前のッス!)

(イヴァンさんの後ろからぁ追い詰めるぅ。イヴァンさんお願いよぉ?)

「(承知っ)あのー、お兄さん、お尋ねしたい事、あるんですがぁー宜しいですか?」

 イヴァンは男に近付きながら話し掛けた。

(フェー逝くっ!)

 刃渡り25センチの二本の小刀を左手は逆手に持ち、イヴァンの後ろから低い姿勢で目標の男に飛び掛かる。

 フェーの存在に、慌てた男は後ろに飛び退いたが、途端、羽交い締めにされ、自身の頸動脈に「ヒヤリ」とナイフの冷たさを感じた。


 一連の動きを見た後ろの男は踵を返した瞬間、足を掛けられ転倒。足を掛けた本人ジーンが、その男を俯せのまま腕を後ろ手にして言った。

「今から指の爪を剥がします。我慢出来なく成ったら言って下さい。その時初めて質問します」

「ひぃぃぃ」



◇◇◇

「恐ろしいのじゃ、怖いのじゃ。ジーンもじゃが、フェリシエンヌのが、もっと恐ろしいのじゃあぁぁぁー」


 午後3時、お茶の時間のラ・フォーレ号の甲板の主檣(メインマスト)に括り付けられた男女三人。

 その中の男二人は泣き張らした顔だった。

 左手の爪二枚目が剥がされ掛けて血が滲んでいる。

 もう一人の爪、では無く右手中指が第一関節から無く成っていた。


「だってぇ、『剥がす』とかぁメンド臭かったんだもん」

「先生は、フェリシエンヌさんの行為は酷い。と思うよ。彼に謝った?」

「エミールぅ。おまえ何か何だかズレてる」

「うん、何かおかしいエミール」

 アンドレとイヴァンはエミールを咎めたが、何処に非があるのか分かり兼ねている様な咎め方だ。


「三人、代わり番子に尾行、って玄人です。で、誰の指示ですか?質問に答え無いとこのフェーに手伝って貰います…」

「頭からだ。組織から…、リュンヌの町の暗市場(マーケット)の頭だ」

「オレ等、子受け孫受け仕事なんだよぅ」

「じゃあその組織は何処に在ってどうやれば接触出来るの?」



「おい、厚顔無恥」

「(おお、合言葉か証言通り)寡廉鮮恥だなぁ」

「よし、入れ」


 リュンヌの港に程近い市場(いちば)の一画。

 老兵ジェラルドが『合言葉』を言い、開けて貰った扉は、町の暗部『闇市場(マーケット)』のボス『頭』の隠れ家だ。

 隠れ家の一階は、一見普通の飲み屋だが、カウンターの奥に地下への階段がある。

 その地下室が頭の隠れ家なのだ。「合言葉で開けて貰える」男の自供で分かった事だ。

 ジェラルドとアンリエットは地下室に案内されていた。

 階段降りて直ぐの広い部屋で、ソファーに女性達を侍らせ『闇市場の頭』は、組織の幹部五人と寛いでいた。

 案内の男性は部屋の外で止まり、アンリエット達を中に促す。だが、ジェラルドは床に伏せた。アンリエットだけが部屋へと、……入らず、担いでいた麻袋に大きく裂目を切り作り、高々と部屋の天井迄投げた。

 袋が白っぽい粉を撒き散らしながら室内を滑空、忽ち頭の部屋は粉の煙に満たされた。

どおおおおおおおおおーーーーんんん。。。


「なんだなんだ?」「どう成ってる」「頭ぁぁぁー!」「何の音だ?」「おい、ここ開けろっ」「火だ!」「押すなぁー、落ちる」「水だ!火を消せ」

 屋内の二階は大騒ぎだ。

 一階は、と言うと既にジーン達に無力化され、制圧済みだった。


 まあ、お約束、小麦粉を使った『粉塵爆発』な訳で……。

 二階から降りて来た組織の構成員達は、一階で待ち構えるジーン達に結局は、無力化されるのだった。

 隠れ家家屋の外。周りの要所要所をラ・フォーレ号水夫24人と他の船員17人が見張っていた。

 案の定、隠し通路(これも捕まえた三人から聞き出した)から逃げ出て来た幹部達は、ラ・フォーレ号乗組員に「ボッコボコ」にされ拘束されて行くのであった。


 拘束した『闇市場(マーケット)』の幹部含む50余名の内、幹部三人と構成員の二人が身に付けていたあの証、明月を形取ったペンダントヘッドを持っていた。

 その五人を連行し、ラ・フォーレ号は出港の準備に入った。

 因みに、縄で拘束した組織構成員達は、その場に放置した。


 破損部分の修理も終わり、船の厨房は夕食を作っている。何気にヴィクトリアが手伝っているのだが、邪魔に成っている様な気がしているベルナールさんだった。

 そんな中、アンリエットは跳んだ。



◇◇◇

「お(ぬし)に言付かった事は伝えた。が、のうワッチは主の伝言板じゃあ無いぞえ。まあ、詮無き事よ…。これっ、呼んでたもれ!」

「やあ、アンリ。私も無事に『転移』出来たよ。十日ぶりかな?女皇陛下に言われた通り、シズガミの里へは戻らないで待ってたよ」

主等(ぬしら)、二人で話したいのも山々じゃが、アンリエットよ、ワッチは先ず、報告が聞きたいのぅ」

 ナデージュは、アンリエットに伝える為なのか、女皇陛下にも言った『神器』が『シズガミの里』にもあり、自分が借り受けている事、『里』の族長が、『明月(あけつき)』の狙いがアンリエットであり、彼女が単独で『瞬間移動』出来る様に成った時の事を懸念していた。と言う事を言った。

 アンリエットは、『明月教会』の拠点が半日南端の町に在る事、そして教会関係者が都市国家群の闇社会に入り込んで居る事、等の他に発見した文書について女皇イズモに尋ねた。


「リュンヌの犯罪組織の幹部の持ち物に『ベヒモス』と言う魔獣についての記述で、『異能者の確保の為、南のベヒモスを起こす』と言うのがありました。多分ですが『異能者』ってあたしの事ですよね?」

「……。あれじゃ。おい、宰相、宰相?これっジャン=ルーよっ!」

「も、申し訳御座いません。少々考え事をしておりました。ご用命下さいお上」

「ベヒモスの絵姿のある本があったじゃろ?あれを持て」

「はい。」

「宰相が持つ迄、少し話しておくかのっ」

 女皇イズモの話しはアンリエットに取って、予想の範疇だった。

 自分が、と言うかファテノーク王家が『異能者』の家系で女系王家で在るのもその異能を受け継ぐのが女子であるから。

 それは人種(ひとしゅ)を未来に繋ぐ技術の一つの形であり、使い方に拠っては『諸刃の剣』。悪意の下で使われるのなら尚更なのだ。と女皇が話した頃、宰相が本を持って謁見の間に戻って来た。

「えー、我がエルディー家で受け継がれた伝承です。

 千と二百数十年前。起きた『ベヒモス』は七日間暴れ、この大陸の形が変わったと言う。『ベヒモス』は、山の様な体躯に河馬の大きな口を持ち、(サイ)の固さの皮膚を持つ怪物であった。そう伝わっております。

 では、お上」

「うむ。と言うかワッチの台詞、もう残って無いではないかやっ?宰相め」

「イズモ陛下。その『かば』とか『さい』って何でしょう?」

「ん?そーじゃの。んんー河馬(カバ)とは豚が近いかの?形的に。豚に大きな口を付けた様な感じじゃ。サイは、まあ、サイじゃの。表現が分からんのじゃ、許せ。百聞は一見さん御断りじゃ。見よっ!」

 と、女皇陛下に見せられた本の挿し絵の『ベヒモス』。その姿は…………。

「『百聞は一見に如かず』です。

 ねえナディー、これってブタじゃ無いね」

「やっぱりアンリもそう思うよね?」

「「思ったのと違ぁーうっ」」



◇◇◇

 凪いだ海の上、皆での夕食は楽しいし美味しく感じる。

 痛々しいヴィクトリアの指を見なければ。

「私だって頑張って練習すれば、いつかお料理上手に成ります!」

「大貴族じゃろう主。食事なぞそれこそ使用人の領分じゃ、仕事を奪うのは『良い貴族』とは言わぬぞえ」

「…もうそんな使用人は、実家に居ませんの」

「ヴィクトリアさんの公爵家も色々あったんですよ。察して下さい皇女殿下」

「そうですよ。エミール殿下の言う通り。人各々ですし、食料持っててもひもじい思いはもお………」

(ベルナールってぇー文官も苦労してんだなー。

 っつかここ、何気に王族皇族率高くねえーかぁー?オレぁー、そのウチ、無礼打ちされっかもしんねーなー。ヤッベェー)

 等とギュスターグ船長が一人ビビって居るとも知らず、王位継承第三位の白雪の髪の少女にお酌をされ、鼻の下を伸ばす副長が居るのであった。


「本来、陸上(おか)での戦闘行為は契約に入っておりません。確かに『停泊中も契約として発生する』と明記しましたが…」

「では、こうしましょう乗員一律銀貨一枚手渡しします。『休憩中の小遣い稼ぎ』だったのです」

 「ジーンさんには敵いません」ヤレヤレと両手を横に振る商人シリルであった。



 翌朝、夜明け前、主檣(メインマスト)の上の見張り台の水夫が伝声管に向かって叫んでいた。


 強い執念とも情欲とも憤怒とも付かない何かが、アンリエットの心に無理矢理入り込んで来た。


――――寄越せえええええぇぇぇ―――――俺達に身体をくれぇぇアンリエットぉぉぉぉ―――ワシ等が―――アタシ等に寄越せえええ――ぇぇぇ――――アンリエットの身体ああああぁぁぁ―――――残らず貰う@♭∨ΠΞアンΔエ♯ト%ΣμΒイズモの意S―。――――


「うわああああああああぁぁぁ痛い痛い痛い、頭が頭が痛いいいぃぃぃ」

「アンリちゃんアンリちゃん」「アンリエット様大丈夫ですかアンリエット様」「どうしたのじゃアンリエットよ、アンリエットよ気をしっかり持つのじゃ」

 飛び起きたアンリエットは、嘔気を抑え切れず、その場で吐いて仕舞う。


「(だが、今回も助かった。あの光に包まれなかったら……)ゴメン。お部屋も皆も汚しちゃった。でも、ありがとう。多分助かったの皆のお陰」

 いつの間にかジーンもマリエもアンリエット達の船室に来ていた。大声のアンリエットに気付かぬ侍女では無い。

 二人はアンリエットの吐物を片付けながら、「大丈夫ッスか?」「姫様、後加減は如何ですか?」と心配してくれていた。

 だが、いきなりアンリエットが船室を飛び出し前甲板に走って行った。

 女子全員が後ろを追った。


『船長おおおぉ!10時の方向、小山です!小山が動いてますっ!!!船長、小山が…』

 アンリエット達が見たそれは、見張り台の水夫の見た『小山』だった。

 しかし、『それ』を知る神国の皇女アニエスは呟いた。

「ああ、あれは『ベヒモス』じゃっ」

 と………。


「どう見ても、あれは…」

「あれは……」

「あれは『亀』じゃん」

「うん、『亀』だ」

「「「「亀じゃん!」」」」


 そう、亀だった。



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