第80話 神国と砂漠と海辺の小国。其の9。美味しい食事。
結局、『ケア』の町で大した情報も無く夜に成った。
『明月教会』の教会が出来たらしい。と言う情報のみであった。情報のみで、教会の場所も分からない。なので、次の都市『ゾンマー』へと進むラ・フォーレ号であった。
そして、『ゾンマー』の町でも、情報は無く、続く『エラ』『テロス』でも、大した収穫は無いのであった。
『テロス』の町に寄港した7月12日の早朝、
アンリエットは『ケア』に『転移』した。『ハンターギルド』に出した依頼の期限だったのだ。
ケアのギルドの窓口に尋ねると、「目ぼしい情報はありません」との事だった。そのまま13日に一番南の小国『リュンヌ』の港に入ったのである。
◇◇◇
13日から遡る事四日。7月10日の朝、ルシール隊長率いる五人の衛士隊は、『シズガミの砂漠の民』の商隊に同行して『シズガミの砂漠』へと出発した。
最初八人だったルシール達は、コレット隊を加えて13人に成った。
ところで、ルシール皇女の侍女、『ジャンヌ=ルイーズ・ド・トマッ=ヴァレリー』が怪しんだ、『石炭』の使い道だが、第二皇女の『エカルラトゥ=フレーズ・アマガミ』が、あっさり答えた。
「馬の必要の無い馬車を作っている」
と言う。「実際に見ますかジャンヌさん?」と案内された場所は神国ルナールの都の郊外だった。
煉瓦と漆喰で舗装された道の上を黒い煙を出しながら走る『車』だった。
「あの『車』。動力は石炭ですか?」
「はい、その通りですルシール殿下。燃料の石炭で蒸気を作って走る『車』です。まだまだ実用には程遠い、と母上も仰ってました」
「実用化されたら、厩番達の仕事が無くなりますの」
何となく何時ものジュリエットであった。
「ジュリさんの寄親、『フォンテーヌ侯爵』様は領内に炭鉱在りますよね?あー、でも帝国の西部でしたね。少し遠いですか?」
「ルシーさん、侯爵様のお隣の領には海がありますわ。……。大きな半島がありましたわね。凄い大回りの船便に成ってしまいますわ」
「まあ、その辺は課題として。フォンテーヌ侯爵は儲け話に乗っかると思います。ジュリさんも儲かると思いますよ?」
ジュリエットは「よっしゃーっ!」と握った片手を空に向けるのであった。
本当にこの娘は何処へ向かって居るのだろう。と皆思った。
『シズガミの砂漠の民』の殆んどが『長命種』と言う事だ。普通の人種も居るのだが、商隊には参加していない。と言う。
「砂漠を行くのに馬ではダメなんです。『駱駝』で砂漠を渡ります」
商隊の隊長『イアサント』はそう言って、「これが『駱駝』ですよ」と背中に大きなコブの在る馬よりちょっと大きな動物を連れて来た。
26人の長命種の男性ばかりの商隊であった。皆、頭の上からスッポリと白い布を被り、目の所だけ見えている。そんな格好だった。
「日射しが強いので、我々の様な格好をして下さい。と言っても分からないですね?一緒に買い物に行きましょう」
こうして、白装束の13人が出来たのだった。決して、『パ○ウェーブ』では無い。
イアサント隊長は、「6~8日の行程です」と言った。
「砂漠に慣れていないと、結構しんどいです。小さなお子さんは大丈夫でしょうか?」
エカルラトゥとジャンヌの事だ。
「「頑張ります!」」
二人同時に言うので、イアサントは、「クスッ」っと笑って仕舞うのだった。
そんな訳で、『シズガミの砂漠』に出た。
砂だけの景色を見ながら進むルシール達であった。一度『砂漠蟲』と呼ばれる全長6~8メートルの大ミミズの魔物の集団に遭遇したが、イアサント達は難無く退けていた。
砂漠を行く事四日目。オアシスと呼ばれる緑地に着いた。
「今日はここで野営しますよ」
商隊の皆が野営の為の天幕等を用意し始めた。コレット達衛士隊の面々も手伝い天幕を張って行く。ジュリエットもナデージュも手伝って居る。
ルシールとジャンヌ、エカルラトゥは見ているだけだった。
手伝おうとはしたが、返って足手まといに成った。邪魔に成るだけだった。生粋のお姫様と貴族の子女なのだ。
(ジュリさんは何時も全力ですね)
そんな感想を帝国第二皇女は思うのだった。
オアシスに小さな小屋があった。
薪小屋だとイアサント隊長は教えてくれたモンで、ジュリエットは皆の食事を作るのだった。嬉々として。
ジュリエットは、背負って居た大鍋を下ろし、『亜法』で、「ボンッ」っと薪に火を点けた。
「ほう」っと感心する商隊の皆さん。ジュリエットの『亜法』の威力に驚いた様子。
最近益々、『亜法』の使い方が上手く成っているジュリエットである。長命種ばりの『亜法』であった。
「人種でも、こんな使い手が居るんだね?」
イアサント隊長がジュリエットに話し掛けた。
「わたくし等まだまだですの。アンリさんは、もっともっと凄いですのよ」
イアサントは目を細め、ジュリエット達に尋ねた。
「そのアンリさんと言うのは、女皇の言うファテノークの姫か?」
「そうですの。アンリエットさんはそのファテノーク王国のお姫様ですの。わたくしの友達で、尊敬する方ですわ」
「……。今何処に居るんだい?そのアンリエット姫は」
「南の半島の都市国家群へ行ってますわ」
「…不味いな」
「何が『不味い』のですの?」
「ファテノークの姫は、おそらく今、『教会』に狙われて居るんだ。教会の西方諸国の玄関口が、半島の南に在る。アンリエット殿に連絡……、出来る訳無いか。もっと早くにその事を聞くんだった」
「だから、『明月教会』の事を調べにアンリさん達が行ったのですが、そんなに『不味い』のですか?」
「ヴァレリーの姫、ルシールと言ったな。不味いのは、本当だ」
「でも、アンリエットさん達は強いですよ?」
「そう言う事じゃ無いんだ。『明月教会』と言うより、『明月』がヤバい。持って行かれるかもしれんその姫。理由は……」
「イアサントさん。それはまだ皆に伝えて良い事じゃ無いですよ」
「ノブユキさん、この際、はっきり言ってしまった方が良いのでは?」
「それはダメです」
「ならば、『ヨルドの森』族長、貴女が……」
「やっぱり今はダメです。混乱に拍車が掛かります。そこを踏まえて私が皆さんに説明します」
『明月』の力には精神に働き掛ける攻撃が在るのだ。とナデージュは言った。『明月』とは、『青月』14年近く前に落ちたあの『明月』の事だと言うのだ。
「どうやって、お空の上から攻撃出来るの?」と言うルシール達の疑問に答えないナデージュであった。
兎に角、『不味い』事なのは皆、分かったが、こう成ってはどう仕様も無いのであった。
◇◇◇
『リュンヌ』と言う都市は綺麗な町だ。
火山である『ラピドリュンヌ山』は休眠中の火山で、数百年噴火していないらしい。
因みに、標高は、3、800メートルある。
山頂の雪解け水で出来た湖なのだろうか?『ラピドリュンヌ山』の麓には大小様々な湖が在り、その湖と海に挟まれた都市が『リュンヌ』であった。
ここでもアンリエット達は、ハンターギルドへ『明月教会』の情報求む。と言う依頼を出した。
ここ毎日の様にアンリエット達は二手に別れ、町を散策していた。
今迄『ケア』『ゾンマー』『エラ』『テロス』と人口5~6万人の都市国家を通って来たが、この『リュンヌ』は13万人を越える大都市だった。
そこで、『リュンヌ』の滞在を二日と言う事にした。
早速、「宿を取る」と言うアンリエットを止めるジーンであった。
「姫様、宿は午後に成らないと宿泊させて貰え無いものなのですよ。こんな早朝に行ったら、迷惑も良いところです」
と教えられたのである。アンリエットは今の今迄、知らなかったのである。
「姫さぁーのポンコツっぷり、拍車掛かってるッスねぇ」
マリエの言葉に、皆が皆、首肯するのだった。
「そんじゃあ、メシ食ってから散策しようぜー。俺、腹減ってダメだわ」
「そうですね。アンドレさんの意見に僕は賛成です」
「私もお兄様が仰るなら、賛成ですわ」
「ちょっと疑問ですが、何故ヴィクトリアさんはベルナールさんを『お兄様』と呼ぶんです?」
「エミール先生ぃ、敢えて、聞かないってぇ言う選択も在るのよぉ?」
「ああ、あそこの店入りましょう。朝っぱらからお酒も出して貰えそうな感じの店です」
とオスカーは率先して店に入った。
「いらっしゃいませ。ようこそ『中央市場亭』へ!」
フェリシエンヌ達は、既視感を味わった。
「あのうこのお店、ワロキエ王国に宿屋もやっていますか?」
老ジェラルドが聞くと、「遠い親戚なんですよ」と言う答えの店主であった。
「ケアからテロスの町迄寄りましたが、店主さん、訛り、無いんですね?」
「この町は、ヴァレリー帝国やワロキエ王国からの入植者が作った町でねケアとかとは毛色が違うんですよ」
あの似非関西弁の様な訛り言葉の人は少なかった。
「おじさま。お薦めの御飯は、ありますか?」
「おや、お嬢ちゃんどっかのお姫様みたいに綺麗なお顔だねえ。そっちの娘は、妹さんお姉さんかな?黒っぽい銀髪と白銀の髪…………。あのう、ひょっとして、なんですが、ヴァレリーの『双子の真珠姫』って知ってます?」
「ああ、それならこの娘達です」
「サラッ」と言ってのける『ナルシス・ド・メルシェ』将軍であった。
「噂の通りの美少女ですねぇ。何をしに『リュンヌ』へお越しで?」
「聞いて店主に害悪が及ぶと僕の目覚めも悪く成りますが…。『明月教会』を追って来ました」
「『教会』、ですか。噂、と言うより事実らしいんですが、半島南端の『南町』が拠点って事ですよ。とあたしの知ってる事はこれだけです。
お薦めでしたね。その様子だと、暫く『魚料理』ばっかりだったでしょう?『ラピドリュンヌ山』の麓で、牛を沢山飼育してるんですよ。お薦めは『牛肉カライ』です。直ぐ用意出来ますんで、お待ち下さい」
暫くして、店主とその妻であろう女性が、次々と少し深めの平皿を運んで来た。
その『牛肉カライ』と言う料理は、御飯の上に「ドロッ」っとしたスープの様な何かが掛けてあった。
はっきり言って、汚物の様な色合いなのだ。
恐る恐ると言った感じに老ジェラルドがスプーンですくって食べた。
「……!姫様方、この『カライ』って食事、大変美味しいです!」
エミールとアンドレ、イヴァンも口に入れ、口々に「美味い美味い」と言うのであった。
「これはぁ、ジュリちゃんにぃ食べさせたいよねぇ」
「ホントだね。ジュリってば泣いて喜びそう………。ぅわああー辛い」
アンリエットに遅れて辛さの攻撃が届いたのであった。
「ああ、食べ慣れて無いと、辛くてそう成るんでした。おい、かーさん、甘口の『カライ』三皿持って来て!」
なんとも優しい『中央市場亭』の主人であった。
早朝の店内に客はアンリエット達だけであった。7時半を過ぎる頃、沢山の客でごった返す店内。
「また来て下さい。真珠姫様方」と言う店主にお礼を言って店を出た。
改めて、町を散策する二組であったが、夕方迄に新しい情報は無かった。
ハンターギルドに寄ると一件だけ情報があったと言う。受け付けで、ジェラルドがその情報を聞いたのだが。
「『中央市場亭』の主人の言った『南町』が拠点。と言う情報でした。それだけです」
「じゃあ、今日は宿泊のつもりだったケド、船に戻ってウスターシュさんと日程を詰めよう?」
「そうですね姫様」
夕方から夜に成る頃、アンリエット達は武装商船ラ・フォーレ号に戻るのであった。
そのアンリエット達を付けている男がいた。
「何か用ッスか?」
マリエの小刀が男の背中にピッタリと付いていた。
「お、お願いだ。殺さないでくれ。只、俺は頼まれただけだ。『アンリエット姫の動向を探れ』って……」
「誰にッスか?」
「そいつ、名乗らねーから……、ひょっとしてあのペンダント、『明月教会』のヤツだったかもしれねー。あの『明月』の形のペンダントヘッドが付いてて………」
「それでは、殺ります。言い残す事は無いですね」
「あ、いや、殺さない、で?」
ジーンが男の鳩尾を殴りつけ、男はそのまま昏倒したのだった。
「やっと、向こうから出て来ましたねマリエ」
「ッスね。ジーン、今から臨戦態勢ッス」
二人の従者は、そう言い合うと、ラ・フォーレ号に乗り込むのであった。




