第79話 神国と砂漠と海辺の小国。其の8。秋刀魚定食。
7月8日の夜、廃墟のゲタエの港を出港、最初の都市『ケア』へ向かう。
北から南へ向かって順に、『ケア』『ゾンマー』『エラ』『テロス』『リュンヌ』と続く。
各々の町が独立国なのだ。
半島の山脈側、半島内陸に他3つ都市があるのだが、行けたら行く。と言う方針だ。
『リュンヌ』の先にも半島は続いているのだが、南は大型の『竜種』生息地であり危険なのだそうだ。
只、半島の最南端にも町があると言う話しなので、今回予定に無かった『船』と言う移動手段を手に入れたのだ。最終目標は『半島最南端』と言う事に成った。
「副長殿、私達は大部屋か甲板の上で問題ありません」
「いいや、問題だよ?例えば、甲板で寝てた貴女方に襲いかかった水夫がいたら?」
「即、殺ります」
「ぶっ殺すッス」
「ですよねえー。では、大部屋で複数人から襲われたら?」
「簡単です。全て殺ります」
「ぶっ殺すッス」
「ですよねえー。ウチの船員が居なく成ります。なので、個室か二人部屋に入って頂きます!決定事項です」
船の客室は狭いと言うのは、常識だ。大部屋は勿論、アンリエット達の四人部屋は、個々のスペースが狭い。ジーンとマリエの二人部屋よりも。なんせ四人部屋は一般客室。二人部屋は既婚者や恋人同士の為の客室と言う扱いなのである。
侍女が主人よりも広い部屋を使う。
身分社会であるこの世界、侍女のジーンが二人部屋を見て思うところが無い訳は無い。
(フェリシエンヌ様はマリエを『姉』と慕っている。姫様は何時も『ジーンさん』『マリエさん』と他人行儀だ。私の意見や忠告を否定せずいる姫様。でも、ご自身は私の事をどう思っているのだろう?)
マリエは既にベッドの上で転がっている。マイペースだ。
「マリエは、何時ものマリエですね。私が姫様のお部屋より広いこの船室に躊躇していると言うのに…。」
「ジーン。姫さぁーが良いって言うんッスよ?あんまり悩む必要無ぇッス。それに楽しそうッス。姫さぁーもだけど、ウチの嬢タンもご機嫌ッスよ。ダキアじゃあ機嫌悪かったッスケドね」
そうなのだ。当初、都市国家群への調査はアンリエット。ダキアでの情報収集はフェリシエンヌと、別ける予定だったのだ。
ところが、アンリエットが単独で、『瞬間移動』を取得してしまったのである。
お陰でゲタエに全員で転移出来た。更に、陸路で調査する予定が、航路での移動が出来るのだ。
全く。御都合主義にも困ったものである。
「で、嬢タンと姫さぁーは?」
「甲板での作業とかを見学されていますが…。忘れてました。航海の日程を詰めると、副長殿と話しをする予定だったんでした。マリエ、姫様達を船長室に呼んで下さい。私は直接、船長室に行ってます」
航海士のウスターシュは航海の日程をサクッと説明した。
「夜、港を出る。翌朝には、次の目的地。それの繰り返しで、一番南の都市『リュンヌ』迄五日。最南端の町迄、更に二日。一週間の航海です」
「マジ、サクッとした説明ッスねぇ」
「聞きたいんですが、その最南端の町って、どんな所なんですか?」
「『南町』と言う名前の町です。この大陸の更に東にある国の末裔、と言うか、唯一貿易をしている町、です。アンリエット様」
「先生。東の国って、どんな所?」
「それについての文献は少ないので只、技術力はこちら側、西方諸国より上だと言う事位しか僕には分かりません」
「前々から気に成っていた事があるの。馬車や船、馬を使ったり、帆に風を受けて移動する。そんな世界なのに、どうして『時計』なんて物があるのかしら?あんなに細かい部品が沢山で技術的に何か不釣り合いな気がするの。ひょっとしたら、東の国の機械なのかな『時計』って」
「半分当たりじゃアンリエットよ。『時計』は神国ルナールでも生産しておる。じゃが、東から流れて来おる『時計』の方が精巧な作りじゃ」
「その東の国。僕も行ってみたいな」
エミール皇子は少年の様な顔に成るのだった。
それを見惚れるアンリエットである。
「ホントに姫さんはエミールの事、好きなのな」
と、エミールの友人アンドレに言われるアンリエットである。
見る見るうちに真っ赤な顔に成るアンリエットであった。
「それと、噂があります。もう百年以上も前に廃れた『明月教会』が、復興し始めていると」
ウスターシュは、噂の域を出ない話しですが。とその後に付け加えるのであった。
◇◇◇
翌日7月9日の早朝、ゲタエの南の都市『ケア』の港へ着いた。
副長は上陸の手続きを港湾事務所で行っている。町へ行くのは、『手続き』の後である。
一つ忘れていた事があった。ダキア大公国以外の都市国家は通貨同盟を結んでいて、『共通通貨』を使用している。
両替するのを失念していたアンリエット達であった。
「どうしようジーンさん。両替商って、こんな早い時間からお店開いて無いよね。副長さん、お金とか事務的な事って、船長さんより詳しそう。副長さんに聞いてみる」
そう言って、アンリエットは港湾事務所に居る副長のところに行こうとした。
手続きが終わってから下船して下さい。と港湾の職員に言われたのである。
アンリエットはダメ元で聞いてみた。
「港の職員さん、両替商のお店って、町のどの辺りに在るんですか?」
「ああー、そうゆうお客が、結構おるんやわあ。そやから、港湾事務所の中に両替商出店しとるんやわ。朝も早ようから店、開いてんで」
(あれ?この喋り方って、生徒会書記の『マリエル』先輩みたい。マリエル先輩、『ワロキエ王国』の出身って言ってたと思うケド、都市国家群の出身って事かな?)
少し、不安めいた心持ちに成るアンリエットであった。
そんな不安を隅に置いて、アンリエット達は『ケア』の町を歩くのだった。
◇◇◇
アンリエットは、昨夜の内にアンリエット領の南東、国境の町『ミュール』へ報告と新しい情報を求め『転移』した。
ルシール皇女の衛士隊の隊長『コレット・ド・コルネール』がアンリエットに懇願したのだ。
「私共はルシール殿下の衛士隊です。ここに留まって居ては、本来の『ルシール殿下の衛士隊』ではありません。アンリエット様、どうか私共を殿下の下へお連れ下さい」
あまりにも必死で頼み込むコレット達であった。アンリエットは、「事後承諾でいっか?」と呟くと、コレット隊五名と神国ルナールの都に転移するのであった。
7月10日に砂漠に出発をする二日前であった。
◇◇◇
早朝の町は静かだ。
アンリエット達は、二手に別れ、町を散策するのであった。
「二時間後に中央広場に集合」と言う事で、アンリエット、フェリシエンヌ、ジーン、マリエ、ナルシス、ジェラルドの六人と、アニエス、ヴィクトリア、ベルナール、エミール、アンドレ、イヴァンの六人に別れて行動するのだ。
アンリエット達は町の南側、アニエス達は北側を調査する。
この町にも『ハンターギルド』が在る。ハンターギルドは何処の町でも日中夜窓口は開いている。だから、早朝であっても依頼の受け付けが行えるのだ。
本日夕方迄限定だが、『明月教会の情報』の依頼を出した。
情報一件に付き『銀貨五枚』と破格の依頼だ。受け付けの男性職員が、 「高過ぎませんか?」と言っていたが、それで通した。
「今日一日じゃ、大した情報が集まるかどうか」
「じゃあ、12日の朝迄」
アンリエットは、『転移』が使える。その時戻って来れば良いだけなのだ。
そして、町の南へ向かうのだった。
二時間が経ち、アンリエット達とアニエス達は、中央の広場に来ていた。
朝御飯がまだだった一同は、食堂に入った。
『煙草とパイプ亭』と書かれた看板の食堂だ。
「12名だが、席はあるか?」
と、店主らしき男にナルシスが話し掛けた。
「大丈夫ですわ。おおー、偉い美少女さん達でんなぁ。サービスしまっせえー。内地の方々でんなぁお客さん、言葉が綺麗ですわぁ」
「内地?」
「『内地』よう言わんですか?ヴァレリー帝国やあっちの方、わし等はそう呼んでますさかい」
「そう、その通り帝国から来たの。おじさま、お薦めのお料理あったら、あたしそれでお願い」
「随分と丁寧なお嬢さんですなぁ。どっかの国の姫さんでっしゃろか?んな冗談は置いといて、お薦めは『秋刀魚定食』」
「皆、それでお願いして良いですか?」
と言うナルシスの提案で『秋刀魚定食』12人分を注文した。他に『玉子焼き付きサラダ』と『鶏の甘辛煮』を幾つか頼んだ。
アンドレとイヴァンは『黒エール』と言う酒精の少ない飲み物を頼んでいた。
「ところでお客さん、巷で噂のヴァレリー帝国の『双子の真珠姫』って知っとります?黒銀の髪と白い髪の少女だって話しで、実際そんな少女、ここにも居るし………。
お客さん、ヴァレリーから来はったって、嘘やろ?本物でっか?」
『秋刀魚定食』を運びながら、店主は気が付いたのだった。噂の少女が目の前に居る事に……。
「まあ、そう言う訳で、店主よ、尋ねたい事が在るのだ。我々は『明月教会』の情報を求めてこの都市国家群に来た。噂でも構わないので、『明月教会』……」
「その教会の名は、出さん方がエエで。どうも南の方から最近、こっちへ来とるって話しや。その教会を探ろうとした人が、翌日路地裏で死んどった。って言う噂もあんねんで。悪い事は言わん、関わるより、命大切にせないかん」
「おじさまぁ、有り難う。でもぉ私達、強いのよぉ?」
「こんな可憐な嬢ちゃんが強い、とか。ホンマでっか?」
「ああ、帝国内でも上から数えた方が早い位には強い。アンリエット達とフェリシエンヌ様だ。負かす方が骨が折れる」
「へええー。凄いでんなぁー。っと、定食、残り持って来ますさかい、少々お待ちを…」
店主と従業員であろう女の子が、次々と給仕する。
「皆、ウチと同い年位でっしゃろか?ウチ、10月で14に成るねん。…………。へええー、やっぱ同い年やった。遠い国から旅とか、ウチ憧れるわあぁ。狐人族の女の子とか、珍しいし、ウチもどっか行きたいわぁ。とーちゃん、ウチ旅立ちます!」
「冗談はエエから、ほよう黒エール、運びぃ」
「へーいっ」
『秋刀魚定食』は、焼いた秋刀魚と少し硬い黒パン、それと野菜スープの定食だ。
油の乗った秋刀魚は、今時分からの漁で取れるのだ。と言う話しだが、エミールは疑問に思った。
「秋刀魚って魚は、こんな南じゃ無く、北の海の魚だと思ってましたが……」
「勿論そうや。大陸の西から北の魚の漁場へ行っとるんやわ」
「よくそんな遠い場所の漁で、鮮度を保っていられますね?」
「北の北へ行って、氷を取って来とるんやて。結構、大変らしいけどな」
「しかしこの秋刀魚って魚、本当に美味しいなエミール」
「食べた事無いとか、アンドレ、おまえ本当に海運業のフォーレ商会の御曹子か?」
「商会は、親父がやってんのっ!俺は長男だけど、弟が跡継ぎだから、いいんだよ」
と言う感じに朝食を『煙草とパイプ亭』で済ませたアンリエット達は、 「昼前にもう一度中央広場に集まる」と約束して、調査を再開するのであった。
だが、只歩いても何の情報も集まらないのは明白である。
町の『貧民街』の近く、町の南西部の飲み屋に入って、情報を探る事にした。
男性二人に女性二人、少女二人と言うアンリエット達は、店の中で浮いた存在だった。
しかも四人の女性は、見目麗しいのだ。当然の様に砂糖に群がる蟻の様に、男共が群がった。
「ねーちゃん、酌してくんねーか?」
「俺等と遊ぼうぜ?気持ちエエでー」
「こっち来んかい。ワシの膝上空いてんでぇ?」
十数人の男共が話し掛けて来たのだが、四人に瞬殺され、床に這いつくばったのである。
「貴殿方に尋ねます。『明月教会』の事について、知っている事があったら言いなさい」
ジーンが男共に尋ねると、顔を見合わせた男共の一人が、知ってる。と言った。
「その教会、最近、この町に教会を建てた、らしいんや。けど、噂話で、何処に教会が在るのか分からん」
と言うのだった。そして『煙草とパイプ亭』の店主も言った様に、「関わらん方がエエで、関わると殺されるんや」と付け加えるのであった。




