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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第三章。
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第75話 神国と砂漠と海辺の小国。其の4。それぞれの思惑。





 毎月決まって最初の週に訪れる『シズガミの砂漠』の商隊(キャラバン)は未だ来ず。

 400年前に数十年掛けて、『ノブユキ様』の解読した狐人(ルナール)の古文書を元に修理して使える様に成ったと言う『火力発電所』の見学会と成った7月6日の午前である。


 案内役は宰相の『ジャン=ルー・エルディー』で在るのだが、主催者側の代表(ホスト)なのはエカルラトゥ10歳。彼女は緊張している様子だった。

 そんなエカルラトゥをジャンヌは気遣う事の出来る。正に『出来る子』なのだ。


 『侍女見習い』として、ジャンヌは二年前から帝国第二皇女ルシールお側付きの侍女である。

 皇家に仕えるのにもそれなりの教養と立ち振舞いや礼儀作法、そしてそれ相応の身分が必要だ。

 そう言う言う点で、ジャンヌに問題は無い。何故なら、彼女の家名を知れば良いのだ。


 『ジャンヌ=ルイーズ・ド・トマッ=ヴァレリー』。

 彼女はヴァレリー皇家の分家の一つ、『トマッ=ヴァレリー侯爵家』のご息女なのである。

 と、言う訳でジャンヌは話し相手に成る事にした。


「エカルラトゥ殿下、お加減はいかがですか?」

「大丈夫ですジャンヌ様。お心遣い、有り難う御座います。

 そのう、(わたくし)、自分の長い名前、あまり好きではありません。私の事は『エカーズ』、と呼んで下さいませんか?」

「私の事は、只の『ジャンヌ』、とお呼び下さい。でも、それでも私はエカーズ様のお名前が大好きです。だって『エカルラトゥ=フレーズ』と言うのは『緋色の苺』って意味ですわよね?」

「良くご存知ですのね。たくさんお勉強されてらっしゃるのですね。ジャンヌ…さん。流石はヴァレリー皇家に連なる方ですね」

「家柄とか身分等(など)、そんな物は私に取ってどうでも良い事なのです。只、私の主人で在る姫様やそのご学友様達を見て、勉強が好きに成ったのです。

 ご存知かどうか分かりませんが、私の母国の隣国の姫様とその従妹様は『双子の真珠姫』と呼ばれ、帝国臣民に慕われております。

 一般的には、尊敬と畏怖を込めて『理不尽姫』とその『懐刀』と……」

「実は(わたくし)、母上から聞き及んでおります!

 ファテノーク王国の亡き女王陛下の王妹であるノォーミク公爵夫人エレオノール様と母上は15年来の友達で、お手紙のやり取りをしておりますの。ですから、知っていました!

 ファテノーク王国王太女、黒銀の姫アンリエット殿下、それと白雪の姫フェリシエンヌ様ですね。お二人で『二粒の白黒真珠』と呼ばれて居るとか……。

 そして昨年の暮れの帝国武闘会『槍術部門』優勝者で、流行の発信者とお噂のジュリエット様。

 昨日いらしたナデージュ様は有史上初の成人前の12歳でヨルドの族長ですもの。それにルシール殿下を含め五人は生徒の中で、最も優秀なのでしょう?学業でも優秀だと……。私憧れます。

 ああ忘れておりました。生徒会の金庫番。会計の『ロイク・モンダー』様。『姫様のお財布』と呼ばれて居る方なのでしょう?平民なのに凄いですわよね」


「(んん?そんな情報知りません。ここでロイクとは、とんだダークホースですわね?ゆっくり聞き出しましょう)……本当に英雄譚の様です。私の姫様が良くお話しされるので、すっかり覚えて仕舞いました。商隊(キャラバン)の到着迄、お話し出来る機会もありましょうし、ゆっくり語れると思います。」

「それは願っても無い事です。是非是非、お聞かせ下さい!」

「それとお話しは変わりますが、明日の朝、私にお付き合いして下さいませんか?毎朝、『武術』と『亜法』の鍛練をしております。私の姫様の日課なのです。ナデージュ様もジュリエット様も行っておりますの。如何(いかが)ですか……」

と言う悪魔の囁きに似たジャンヌの歴史が始まるのだった。


「……、熱いので気を付けて下さい。ここは燃焼させる材料置き場に成ります。燃料は『石炭』です。

 石炭は炭鉱で採掘しておりますが、我が『神国ルナール』で、採掘が厳しい状態に成っております。ヴァレリー帝国の西、『フォンテーヌ公爵領』、ファテノーク王国『ナカミュラー侯爵領』には鉱山の他に炭鉱も在るとか。是非とも交易を行いたく………」

「ジャン=ルー宰相。それは貴殿の権限を越えておる。その口を閉じるが良い。国と国との信頼……、そこまでは言わぬが兎も角、口を閉じよ宰相」

「申し訳在りません。出過ぎた真似を致しました」

 エカルラトゥは宰相ジャン=ルーにそう言ったのだが実際、神国ルナールでの石炭の採掘量は相次ぐ炭鉱の閉山で減っていたのだ。

 エカルラトゥが敢えて宰相に苦言したのは……、(あんまり自国の弱味を見せたく無いんだわ)と言うジャンヌの考えた通りだと言う事だった。

(只、宰相閣下の説明ですと、そんなに石炭が必要なのでしょうか?今少し、何か引っ掛かります。後で、姫様とご相談をしなければなりませんね)

 ジャンヌは『出来る子』であり、『勘の良い子』であるのだ。



◇◇◇

 昼も過ぎた『都市国家群』を調査中であるアンリエット達は、予定通り『ハンターギルド』『派遣ギルド』に依頼を出した。

 ついでに『商人ギルド』の掲示板にも……と思ったのだが、「商売に関わりの無い物はダメ」と言われてしまった。


「取り敢えず、『明月教会の情報求む』と言う依頼は出した。連絡先は、この宿『白い恋人亭』にした訳だが、、、ここの宿、一応高級な部類なんですよね?」

「ベルナール、それを言うな。だが確かにアレですなあセンスの無い宿名です。にしても、これからどの様に動きますか?当初の予定では、この場に残る者と『ゲタエ』へ跳ぶ者を分ける予定で…」

「将軍、それは言わない約束ですよ」

「……スイマセン」

「ああ、ジェラルドの言う通りであった。とこれで、どうでしょうアンリエット様。ここの国主にお会いすると言うのは」

「だがどうじゃろう。妾達が『偶然』この地に来ておった。としても疑われはしないかのう」

 暫く沈黙が続いたのだが。


「姫様」

「「はい(なんじゃ)?」」

「あ、申し訳在りません。アンリエット様、どうせ派手に煽るのですからここは堂々と行きませんか?『魔物は明月教会の者が関わって居る』と、我々の情報を持って乗り込むのです」

「ジーンさんの言う通り、かな。じゃ、先触れを…、ベルナールさん頼めますか?」

「アンリエット様、この場合、『命令』して下さい。その方が俄然、やる気が出るってものです!」

「流石お兄様、素敵ですわ」


「あのぉ、ちょっとぉ気になるんだけどぉ、『お兄様』って何?」

「…ベルナール様は………、『心の兄』なんですっ!」

 訳の分からない事を言うヴィクトリアは無視して、アンリエット達九人は二手に別れる事にした。


 揉めた。

 フェリシエンヌは「警護役だからアンリエットと一緒」と言えば、「私は姫様のお付き」とジーンが言い、「嬢タンの侍女ッス」とマリエが言う。ついでに「妾は元々調査の為アンリエットに着いておる」そんな感じに成ってしまって収拾がつかないのだ。

 そんな中、「行ってきま~す」とベルナールは町の中心にある城に行ったのであった。


 先触れを出したベルナールが宿に戻ってみると、珍しく不機嫌に成ったフェリシエンヌが居た。

(と言うか、機嫌の悪いフェーちゃんとか見た事無いんですけど……、珍しい)

 話を聞くと、アンリエットと別けられた事が原因だった。


「あ、そうだ。報告があったんだ。

 実はですね。ここの国主は『公爵』だと思っていたんですが、『大公』だって言うんです。まあ、どうでも良いですが…」

「自称って言うのはどんどん大きく成るんですなぁ」

「まあ、夕方位迄まつと思いますから、ここは軽くお昼を……」

 「トントン」。ベルナールの提案途中でドアがノックされ、「お客様、言付けを頼まれましたので…」と言う言葉で、お昼はお預けと成ったアンリエット一同であった。



「大公様、ご出座ぁーーー」

 随分仰々しいな。と皆思った。

(また、随分成金趣味だなあ)

 ベルナールがそんな感想を持つ程に、床の凝った模様の真っ赤な絨毯、白い壁のあちこちに金や銀の装飾等々、目がチカチカして来そう。もうチカチカしちゃってる者も居た。


「面を上げよ」

 偉そうだ。

「ワタクシはファテノーク王国王太女アンリエットと申す。拝謁に預かり、恐悦する」

「妾は、神国ルナールの第一皇女。わざわざお会い頂き感謝する」

 少々この二人、「ムッ」っとしている様子。大人気ないが、まだ子どもなのだから、仕方が無い。


「私はアンリエット様の側近、フェリシエンヌです」

 フェリシエンヌに至っては、もう既に挨拶ですら無い。只、名乗っただけ。

「(フェーちゃん迄自称『側近』とか言っちゃってるよう)お初にお目にかかります。私はアンリエット様付きの事務次官、ベルナール」

「(自称が流行って居るのなら…)ナルシスである。武官としてアンリエット様に着いて居るが、本来は帝国元帥である。以後見知り置きあれ。ところで、名は知らぬが、大公?とやら、少しばかり失礼ではないか?」

「一体何がで御座いますか?」

 自称大公の側に立っている男が言った。

「分からぬのか?若輩とは言え、大国の次期国王と皇が来た。更に待たせ、一段下に置く。無礼な行為である認識は無いのか?ああ分かった。分かりましたぞ姫様。こやつ等が一連の騒動の黒幕です!やってしまいましょう!」

 なかなかの台詞なのだが、若干芝居じみているのは否めない。実際、芝居なのだから仕方ない。


「え?やっちゃう?それじゃあ殺っちゃいましょう!!!」

 フェリシエンヌは左に、アンリエットは右に各々別れた。

 アンリエットはレイピアを左手に持ち、数人の剣を落とした。動きに気が付いた兵には、右手で投げナイフを投擲して無力化。

 フェリシエンヌは何時もの二本の小太刀で無力化していく、玉座に座る大公を先に捕らえたのが『勝ち』的な遊びだ。

 荒事のあまり得意では無いアニエスは黙ってそれを見ていたが、「やはりあの二人は恐ろしいのじゃ恐ろしいのじゃ」とアワアワしていた。

 後ろに控えて居たジェラルドが、ナルシスに半分ロープを渡し、左右に別れて無力化された兵を縛り上げて行った。


「「あたし(私)の勝ちー!」」

 ふたり同時に大公の(もと)へ着いたのだった。

「えー、でも私ぃコレに着く直前、お付き?の人倒したよぉ、アンリちゃんより一人多いよぉ」

「兵士じゃ無いし、ソレ数に入れるのどうかと思うけど?」

「お二人共、どうでも良いでしょう。それより当初の目的を」

「「そうでした!」」


「あたしが、アンリエット=シルヴァーヌ・ド・ファテノークである。先程の無礼極まり無い貴殿の態度。このあたしが許すと思うか?」

「……。」

「答えなさいぃ?刺すよぉ」

「……。」

「答えないので、フェー殺って良いよ」

「了解。じゃ……」

「ああー待ってくれ答える答えるからっ!」

「答えるって言うだけで、答えて無い。殺れっ」

「ああースイマセン。『許さない』これが答えですぅぅぅぅ」

「そう。答えは、『許さない』。なので、殺りましょうフェー」

「はい、アンリエット様ぁ。ではっ」

うわああああっああああっ、「待って、許して!許して下さいっ何でもします何でもします何でもしますからあああああーーー!!!」


「では何故、このような振る舞いをしたのですか?あ、先に言いますが、正式な公文書に残しますので、なるべく、出来るだけ、正確かつ正直にお答え下さい。ね?」

 ベルナール顔は笑って居るが、目は笑っていない。整った顔でそう言う表情をされると、正直怖い物がある。


 大公(自称)が言うには、噂の『真珠姫』が来ると言うので、怖がらせて捕らえて仕舞おう。どうせ噂話等、噂でしかない。本当は部下とか周りの軍隊が行ったのに違い無い、簡単に捕まえられるだろう。その上で、有利な形で周辺国から、この国を国と認めて貰おう。そう思って、仰々しくしてみた。

 と言う事だった。


「で、本当にそれだけですか?……ああ、言わないですか?なら、私が言いましょう。

 見目に麗しいと言う噂の二人の姫を(めかけ)もしくは愛人に出来れば…、ってところじゃないですか?あー当たりだ。アンリエット様、やっぱ殺っちゃいましょう。後腐れ無い様に」

「そうね」

「そうしよぉ」

「そうですな」

「それが良い」

 自称大公は、泣いて泣いて泣いた。


「さて、これだけあたし達をバカにして下さいましたので、この自称国?を滅ぼそうと思います。意義の在る人は挙手。…。いない様です」

「はあああー、それだけはご勘弁を、それ以外なら何でもしますからあああああーーー!!!」

「はい、言質取りました。ベルナール記録に残す様に。それと、この自称国の資産価値はどのくらい?」

「はい、アンリエット様。このダキアの町だけでですが、思った程に安いです。まあ王金貨130枚ってところですね」

「成る程、では滅ぼそうと思いましたが、改めます。王金貨130で手打ちです。払って下さい」


「は?」


「『は?』じゃあ無いよぉ。払うか滅ぼされるか、の二択」

「…あ、あのぉ他に許される方法はありませんか?」

「二択。聞こえた?」

「え、とあのぉ、聞こえております。それで相談なのですが……」

「二択」

「ええ、で、では、払います」

「そうですか、では明日の朝8時にまた来ます。王金貨130枚用意していなさい。ベルナール記録」

「御意」

 そんな感じにアンリエット達は自称大公の居城を去ったのだった。


「アンリエット様の仰られた通りに成りましたなあ。笑いを堪えるのに苦慮しました」

「明日、予想通りなら、ナルシスさんに面白いものを見せられるかもっ」



 翌朝、7月7日の8時、ダキエ大公居城前。

「アンリエット=シルヴァーヌ・ド・ファテノークである。大勢での出迎えご苦労!」

――フェー、ジーン、マリエ伏兵は?

「城門の上弓二人」

――他は?なければジーン達に任せます。


「自称大公とやら、用意は出来ていますね?」

「はっはっは、勿論、貴様等全員を殺す用意がなあっ」

「…愚かですね?この兵の内、徴兵された者はいませんか?居るのなら手を上げていて下さい。……居ませんか?では地獄へご案内!」

 一瞬の暗転、次の瞬間兵士達は赤茶けた荒野に立って居た。勿論、自称大公もだ。


「な、な、何だここは?一体、一体、どうなっているんだっ」


「『異層』の少し奥よ。さて、降参する人は挙手して下さい」

 いつの間にか、兵士達の真正面にアンリエットは立っていた。

 驚く大公ではあったが、冷静な判断力は保っていた。但し、欲望に対する判断力であって、相手の力量が図れると言うものでは無いのだが……。

「殺れ!」

 大公が命令した。だが、アンリエットは『そこに』いない。

「降参される方がいません。では、さようなら」

 何時の間にそこにいたのだろうか。大公の真横にアンリエットは立っているのであった。


 そして、大公は城の前、民衆の前に素っ裸で表れたのである。

 黒銀に輝く髪の美しい少女と共に。


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