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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第三章。
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第73話 神国と砂漠と海辺の小国。其の2。女皇の友。

 



「アニエスよ。報告は終わりかや?」

「はい、皇よ」

 狐人(ルナール)族の国での魔物騒動と近隣諸国の惨状を報告した皇女アニエスは、立ち上がるとアンリエット達を見据えた。

 その後ろで、女皇が呟いている。

「黒銀髪のアンリエット殿は分かったが、あの『白』は誰じゃ?アンリエット殿にそっくりよのっ、双子とは聞いて居らぬし、、、ヤツの手紙に自分の娘の容姿を書かぬ女狐様じゃからの。気に成るのっ気に成るのっ」

(……母上、しっかり聞こえておるぞおー、娘として妾は恥ずかしいぞぇ)

 皇女は、恥ずかしさに少し顔を赤らめながら、平伏しているアンリエット達14名を立つ様に促す。

 アニエスが小声で、「皇に挨拶を…」と挨拶を促す。

 その挨拶をするのにも順番があるのだが、この場合アンリエットからかルシールからか?

 この事案の(おそらく)当事者はアンリエット。

 だが、ヴァレリー帝国の事件である。のだが、アンリエット領内での事件なのだ。

 そして女伯爵と、爵位は無いが帝国第二皇女。同い年。さて……。

「ここは、アンリさんにお任せねっ」

 ルシールは思考する事を放棄したのである。


「此度は拝謁に預り、恐悦至極に存じます。ワタクシ、ファテノーク王国王女アンリエット=シルヴァーヌ・ファテノークに御座いま…」

「おおぉやはり其方がエステルの子であったか!会えて嬉しいのう、ワッチはずうっと会いたかったのじゃ。おおそうじゃ…」

「母上。取り乱し為さるなっ!」

 娘アニエスに(たしな)められ、「はっ」っとして沈黙する女皇であった。


(わたくし)、名を『ルシール=エリアーヌ・ド・ヴァレリー』と申します。ヴァレリー帝国第二皇女です。お見知り置きを」

「ほおぅ、あやつの娘かや。何とも商人の様に計算高いクソオヤジじゃったのう…」

「母上っ!!」

 再び窘められる女皇陛下。


「私はアンリエット姫様の補佐で幼馴染みの従妹です。ファテノーク王国のノォーミク公爵家の…」

「ぬおおおうっ!あの女狐の娘なのかやあああああっっっ!!!そう言えばあの姉妹も良う似て居ったのう。成る程のう。

 其方、長剣(ロングソード)使いかや?」

「いいえぇ、あんまり長剣はぁ得意じゃぁ無いわぁ」

 そう、フェリシエンヌが答えた切な。

「ガチャガチャン」と言う激しい音が響いたのである。

 皇の玉座を守るべき六人の近衛の腰から剣が床に落ちたのだ。全ての近衛の下緒(さげお)が切れていた。


「……ほう、投擲が得意かの?」

「母上、彼女フェリシエンヌ殿は近接戦もかなりのものじゃが…そのっ妾の怖い方の一人じゃ……」

「情けない娘じゃあの。実を言うとの、15年前の『西方諸国会議』で其方達の母君姉妹に会っての。ほれ、アンリエット殿の母君は『イズモ三世』で、元の名のミドルネームも『イズモ』であろう?ワッチの名も『イズモ』じゃから意気投合しての。

 それから程無くして互いに交流しておった訳じゃ。今でも文通しておる妹君のエレオノールめっ!ヤツは長剣使いでワッチと事在るごとに突っ掛かって来るのじゃ。それでも何時も負けるのはワッチなのじゃが……。と言う訳じゃでワッチの友達なのじゃ。

 因みに、ワッチの娘アニエスにの、『エステル』の名を貰っておる。友情の証じゃ。

 と言う事で、其方()の中に長剣持ちが居ったの?」


「はっ、こちらの『オスカー』が長剣使いです」

「其方は?」

「我が(あるじ)アンリエット領の領軍の将を拝しております『ナルシス・ド・メルシェ』に御座います。以後お見知り置きをっ」

「メルシェ殿、そのオスカー殿と手合わせさせては貰えぬか?」

「失礼とは存じますが、今回オスカーはフェリシエンヌ様の側付き故、フェリシエンヌ様のご許可が…」

「フェリシエンヌ殿、良いかや?」

「はいぃ、問題無いっすぅ」

「マ、マジっすか?なんか俺、ヤバいって思ってますが……」

「オスカーちゃんもぉ相手の力量解る様にぃ成ったのねぇ」

「はっ?」


 こうして、オスカーは女皇陛下に成す術も無く、速攻負けた。

「確かの、長い得物使い……、槍使いも居ったの?」

「わたくしが、その槍使いですの。その様な模擬剣では実力が出せませんわ」

「言うではないか、では実戦形式での手合わせじゃ」



 ◇◇◇

 長剣の女皇と槍のジュリエットの手合わせは、皇宮の近衛の練習場で行われている。

 一進一退の攻防が既に20分。

 と、そんな模擬試合もあっさりと終わる物で、女皇イズモの剣筋を見極めたジュリエットは、剣を往なし絡め落とした。


「見事であるの。師匠は相当な御仁であろう?」

「はい。師匠はここに居る四人ですの。わたくし、未だ敵いませんわ」

 イズモの見たジュリエットの師匠は、アンリエットとフェリシエンヌ。それと侍女のジーンとマリエであった。

「のう、アンリエット殿、フェリシエンヌ殿。各々も師事した者が居るであろう?」


 アンリエットはジーンを、フェリシエンヌはマリエを指さしていた。

「マリエ、と言ったかのう。其方の師匠…。その方の家名を教えては貰えぬか?」

 この時、きっと女皇イズモは自分の予想した通りに成るであろう事を予期していたのかもしれない。背中に変に冷たい汗をかいていたのだから……。


「良いッスケド、ちょっと恥ずかしいッス。この国とは関係無ぇッスが、アチシの家名、ちょっとあれなんで……、そのお『ルナール』ッス。ハズいッスわー」

 言い終えたマリエが見たのは、何故か怒りにうち震える女皇の真っ赤な顔だった。

「其方は『ルナール夫妻』の娘だと言う訳じゃな?」

「は、ひぃ…」

「のう、ミチアイ殿を知らぬか?」

 急に怒りの温度が下がるイズモ女皇である。


「高貴な御方へ直にお声を掛けるご無礼お許し下さい。先程の『ミチアイ』と言うのはアンリエット姫様の侍女、(わたくし)ジーンの母に御座います。今は黄泉の国で愛するイズモ三世陛下とお過ごしでしょう」

「いやいや、ミチアイ殿が亡くなっておるのは承知しておる。そうか其方がミチアイ殿ののう。ではジュリエット殿に剣技と槍術を教えたのは其方、と言う事じゃな?」

「槍術は(わたくし)ではありますが、剣術は姫様では?」

「いいや、あたしは一度剣技を見せてくれと言われた時に見せただけで……。マリエさんじゃ無きゃフェー?」

「うん。投擲と一緒にぃ」

「剣術はマリエさんとフェーちゃんに教わりましたわ。ですので、『剣術』と言う物とは違う気がしますの」


「話しもそれたしの、エレオノールの女狐の愛娘にも会えたし、ワッチは満足じゃ。ところでのう客人が来ておっての。―――これ、連れて参りゃれ!」

「お、お上、場所が悪う御座います。謁見の間をお使いに……」

「なあーに構わぬ。…じゃろう?『ノブユキ様』」


 ~え?~


 『ノブユキ』と言う名を知る者達であるあの『隠れ里』って事にして置いた方がカッコいいってだけの隠れ里『ルシノ』の出身者。ジーンとマリエ。

 『ノォーミク領』が温泉街に成る切っ掛けを作った人物を知るフェリシエンヌとアンリエット。そして、その温泉街の歴史を調べたルシール皇女。

 その五人は驚いた。『ノブユキ』に国主たる女皇陛下が、『様』を付けて呼んだのだ。


 因みに、ジュリエットは「何だか解らない」と言う顔をしていた。

 呼ばれた『ノブユキ様』は、見た目五十代の恰幅の良い美老年である。そして、長身の女性を連れていた。


「二週間ぶり?ですかねぇ、皆さん」

 …………………………………。

 皆、言葉を失った。伝説の『ノブユキ』が学園長だったのだ。

 ついでに言えば、学園長と一緒に来ていたのは『ヨルドの森』の成り立てほやほや族長ナデージュだった。


「やあ皆、夏期休暇も会えるなんて思わなかったよー」

 それからは皆、情報交換を行った。


 元々長命種の住まう『ヨルドの森』は、『シズガミの砂漠』の民から別れた種族なのだと言う。

 その砂漠はファテノーク山脈の東から南東に大きく広がっているのだそうだ。

 『神国ルナール』は南の断崖絶壁が東西に続く海岸線と海岸線の終わり、東の砂漠と北の砂漠に挟まれた東西に長い国土であった。

 北の砂漠に国境線が無いので、地図上では大きな国土を作れるであろうが、そこは『自由国境地帯』である。何処の国にも属さない自由に開拓し、開拓者自身が国主に成れる場所なのだ。

 だが、誰一人そんな人間は現れ無い。『大砂虫』や『大サソリ』、もっと危険な生き物が居るからだ。


 その『シズガミの砂漠』の民の話しだが、千二百年以上前に『神国ルナール』に来たのだと言うのだが、「砂漠を渡って来た」と言うばかりで学園長言葉を濁すのである。


「元から砂漠に住んでいた訳(など)在る筈がありませんわ。学園長先生はわたくし達をバカにしていらっしゃるのかしら?」

「今そこは重要な因子ではありません。ジュリエットくん。『どうやって行くか』が重要なんです」

「幸い『シズガミ』の商隊が月に一度ワッチ等の都に来るのじゃ。その時、商隊と行くが良かろうて、のう族長殿」

「ええー私も行くんですか?学園長っ」

「当たり前田のクラッカーってモンですよナデージュさん」

「学園長先生が何言ってんだか分からないですけど、砂漠は怖いですぅ」

 ナデージュの夏期休暇の旅行が決まった瞬間だった。


「それにですね。その『神器』と同じ物を手に入れる機会でも在るのですよ?分かります?」

 ポカーンとしているナデージュにノブユキたる学園長は言った。

「貴女の『魔力』の力はアンリくんと同等なのですから。だから行く価値が在るんですよ」

 ナデージュ含め皆が驚いて族長ナデージュを見るのだった。


「そう成ると、『砂漠班』と『都市国家班』に分けるかのう?」

「私はアンリさんといっしょが良いのですが、『岩塩』取れると言う湖の魅力に勝てそうもありません。帝国にとって良い交易相手に成る可能性があります。ですので、砂漠へ行きます」

「わたくしも砂漠へ。『岩塩』と珍しい香辛料が手に入りそうですの。それにこの都に戻ってからでも都市国家群には『転移』で行けそうな気がしますわ」

「となると妾じゃが。南西の国家群より近しい交易相手の下へ神国の名代として赴くのが最善じゃが、『蜂』の調査を途中で発哺り出すのもいかがなモノよのう……」


「姉様、私エカルラトゥしっかり名代を勤め上げまする。お任せあれっ!」

「大丈夫かやエカーズよ。主はまだ小さなお子じゃぞ?」

「心配めさるな姉様(あねさま)。ルシール殿下の側付き『ジャンヌ殿』も私と同じ十歳なのだから私こそやらねばっ。母上、これで良いか?」

「む。ノブユキ様、宜しくなのじゃ」


 編成こそ揉めると思ったがすんなり決まった。

 『シズガミの砂漠』の班は、学園長、ナデージュ、ルシール、ジュリエット、ジャンヌ、エカルラトゥの六名。それにジャノとオスカーの二名を加えた八名。

 『都市国家群』への班は、アニエス、アンリエット、フェリシエンヌ、ヴィクトリア、ジーン、マリエ、メルシェ将軍と老ジェラルドとベルナールの九名と決まった。

 瞬間移動の出来る『神器』を持っての調査である。


「午後のお茶をしながらこれからの行動指針を話し合わぬか?」

 姫神子(ひめみこ)たる未来の国主の提案に皆、賛同するのだった。

 7月5日の夕刻には少し早い時間の事である。



 ◇◇◇

 7月5日の昼、ワロキエ王都に寄港したヴァレリー帝国第四皇子一行は崩壊した王都の情報収集を行った。

 夕食時に入った大衆食堂で情報を得られなかったら、『ラ・フォーレ号』に戻るつもりのエミール達だった。

 だが、食堂で岬の話しをしている男達が居たのだ。

 エミール一行は岬の事を尋ねた。


 男が言うに、その岬はワロキエの町の東に在り、『アンリとミラの岬』と呼ばれているそうだ。

 まあ、アンリと言う青年とミラと言う少女の良くある身投げをした岬って事だろう。そんな岬であった今日の事件を男は語るのだった。


「今朝早くにな、すげー黒煙が上がってよう、西門に居た隊長さんが馬ぁ跳ばして様子見に行ったって話しよう。したら、岬の小屋とその近くに馬車の焼け跡と男達の死体が在ったって言うじゃねーか。でもな、死体は数日経ったモンらしかったぜ?

 でな、こっからが本番、別料金だぜ!」


 エミールの同行者、近衛隊のイヴァンは岬の話しをするその男に大銅貨三枚を握らせると。


「大盤振る舞い、ってヤツだよ。詳しく、聞かせて、くれたらもう少し色、着けるが……どうだ?」

「ありがてー最高だぜ兄弟(きょうでぇ)。まあ話すわ。で、驚くのはここからだぜ、兄ちゃん。岬の下にな、洞窟が在ったんだ。その洞窟の中にはな、町を襲った魔物が五百以上居たって言うじゃねーか。それどころかよぉ、全部焼け焦げて全滅してたっつう話しだ。

 でな、オラァ全滅させたヤツ等に心当たりあんだぜぇ?それはな……………」

 思わぬところで、アンリエット達の情報を得たエミール達であった。


 身投げの岬。その名前がアンリとか…、思わず苦笑するエミールである。



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