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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第三章。
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第71話 原因は姫神子。




 7月5日早朝。


 『馬の預り所』の厩番達が、一番最近…、夜明け前、苦しんでいた一頭を締め、解体し持ち寄った大量の塩に漬け、山羊の革袋に詰め込んでくれた。

 「昨日のお礼」との事。

 ジーン達に瓦礫から助け出された厩番達のお礼とジュリエットの食事のお礼も兼ねている様だ。


「姫様方はご無理なさらずに」

と言うジーンの気遣いを余所にやはり馬肉の革袋を背負うジュリエットである。

 そんな訳で将軍以下男性四人とジュリエットが馬肉の詰まった革袋を持った。ジーンとマリエは生野菜を背負った。

 乾燥野菜や日持ちする根菜はアンリとフェー、アニエスにも持って貰った。


「アニエス、あのね……」

「な、ななな何であろうかああああ!…じゃ?」

「アニちゃん。アンリちゃん恐く無いよぉ、優しいよぉ?」

「フェ、フェフェー殿も妾は恐ろしいのじゃあー。昨夜聞いたのじゃ、『アンリエット姫がいない。若しくはこの世から存在を消す時、マジもんの殺戮マッスィーンに成る』とジーン殿とマリエ殿が異口同音に言っていたのじゃ。

 怖いのじゃ恐ろしいのじゃ。『妾の国を案内する』と言うのではなかったのじゃ……そんな約束無かった。とは成らぬのじゃ」

「なら最弱のわたくしとお話しを……」

「主の話しも聞いたのじゃ。ヴァレリー帝国の帝都の若手の一番を軽く往なし速攻急所に一発ぶちかまし、彼の皇帝を唸らせた。と聞いたのじゃ。なんと言う理不尽な状況下に妾は……。はっ『理不尽姫』……言い得て妙。成る程、『理不尽姫』じゃのう。って納得出来ても臨界間近の原子炉と添い寝する様な心境じゃ。妾はパンドラの箱を開けたのじゃろうか?『箱の底には希望』(など)無いわあああああーーー!!!」

「アニエス、意味分かんないけど……。今日なんだけど、昨日の岬に跳びたいの。良い?」


 こわいのじゃーーー。


 姫神子様は、アンリエット領領軍将軍『ナルシス・ド・メルシェ』に抱き着き三十分程頭をナデナデされてようやく落ち着きました。


「じゃがアンリエットよ、妾は精々直径3メートルの円の範囲の者しかいっしょに跳ばせ無いのじゃが……」

「…で、あたし考えたんです。あたしの有効範囲が直径4メートル強、で。こう真球を上下を潰してやると横に広がって…そんなイメージで、『2倍』とは言わないですけど、有効範囲が直径7メートルには成りそうです。まあ端の人はしゃがむか座ってくれれば、最大30名って感じ?」

「そ、その30人とかは、そのう、考えから外してくれんじゃろか。兎に角、主はこの10人をまとめて跳べるるのじゃな?」

「うん、多分平気。でも昨日みたいに三回が限度。四度目いけるかと思ったけど、他で、例えば『異層』への移動とか使うかもだし、出来れば今日は二回で」

「十分じゃ。じゃが重量とかは何かしら影響あるやもしれぬが…」

「ああ、それに関してはあまり心配して無い。昨日一人で跳んだ時と五倍の五人の『転移』、あまり負担は感じなかったから…。それに少し、かなぁ。こう掴めそうなのっ」

「何が『掴めそう』。なのじゃ?」

「掴めたら教えるよ?」

 嬉しそうに笑うアンリエットの横顔は、アニエスから見ても「美しい」と感じるのだった。


(私はこの方に知らずに敗れて良かった。しかも、今ではこのアンリエット姫様の部下なのだ。毎日が僥幸と言っても良い程だ)

 ナルシスが大袈裟な幸せを噛みしめている横で、老ジェラルドも似たり寄ったりの考えに堕ちている。


「これから閣下とアンリさんの監禁されていた場所へ行くのですわよね?昨夜のお話しから『蜂』の危険はどうなのかしら?ですの」

「ジュリエットよ。フェー殿同様、『キャラ付け』のペルソナが剥がれ始めておるぞ?

 『蜂』、じゃが危険はある。と考えて『転移』直後の初動が肝心じゃ。何せ妾を襲わせ様としたキャツ等に対し『虫の実』をばら蒔いたのが妾じゃからのうっ」

「「「えげつねえー!」」」

 領兵三人は思わず言ってしまうのだった。


「と言う訳で、アンリエットよ、妾の『神器』を貸す……、では無いのう。妾に代わり妾達を導いて欲しい。頼むっ」

 一国の姫の矜持を置いて、礼節を重んじる。なかなかどうして、将来の為政者なのだ。

 そう皆、感じたのだろう。きっとこの姫神子様がそうなのでは無く、『神国ルナール』の国是なのかもしれない。と思うのであった。


「アニちゃんの国に行くのぉ楽しみよぅ」

「嬢タンの言うの分かるッス」

「マリエも楽しみとは、まあ私は姫様の様子だけでも『神国』は良い国なのだと思います」

「ですわ。きっとそうですのっ」

「ところでぇ、今、学園長はぁ何処ぉ?」

「?そろそろ入学試験ですわ。きっと忙しいですの」

「ちょっとぉ『ルナール』に関わっていたぁとかじゃないかしらぁ」

 まさか……。と、学園長を多少でも知るジーンも変な予感めいた何かが過ったのだった。


「出来るだけ余裕の小範囲で『転移』します。あ、オスカーさん背中の長剣、柄の部分が上の範囲外に出そう、つかジュリ、その槍長過ぎ!2メートル超えでしょ?足元に寝かせて……、ちっがーう、ジュリエットも横に成ってどうするのぉ、槍を地面に置いて………、で、中心のメルシェ将軍とあたしの間に槍を置く。あのねジュリエット、間通す時柄から通して、でないと刺さるから槍だから………。そこで泣かない、平伏さない」

「ジュリちゃん、昨夜のごはんの時からぁちょっと変よぉ。『私達は同じ学舎の学友』。つまり身分なんてぇ関係無い『お友達』。

 因みに、私フェリシエンヌは侯爵令嬢では無くぅ、先月の末より『公爵令嬢』にぃ成りました。アンリちゃんですがぁフェー予言です。おそらく再来年の女王就任前に『大公』に成るかもぉ?」

「なんだか益々萎縮してますフェリシエンヌ様」

「ジェラルドさん、私ぃ、わざと意地悪してますよぅ。しかしアンリちゃんってばぁ経済学的に言って、爵位の『通貨膨張(インフレーション)』よね。少年漫画的な力の通貨膨張(インフレ)?みたいな……」


「行くよー!―――――はい着いた、皆ー周囲の警戒!」

 『蜂』はいない様である。西北西にワロキエの王都が霞みの向こうに見える。馬車でこの岬には半日程か。そう思う距離だった。



「ところでのうアンリエットよ、この足下の堆く盛られた土はなんじゃ?良く見るとレンガ、と言うよりワロキエの通りの石畳があるのう。ジュリ殿の槍が土砂に埋もれて何とも可哀想なのじゃ……」

「ああーっあたくしの槍があーですわぁ」

 ジュリエットは何処へ向かっているのだろう。普段の彼女を知る学友とその従者たる侍女もジュリエットの行く末に不安を感じた。


「ここに姫神子様が来たのは一昨日の3日でしたな。何の目的で?」

「先月の、ええと24日じゃったか。夜中日付の変わる前らしいのじゃが、妾の国の西…、都市国家群に程近い町じゃが、その町が主等(ぬしら)の言う『蜂』に襲われたのじゃ。

 町には炭鉱跡があっての、その炭鉱跡の奥に『虫の実』の木?で良いのか、が知らずか元からあったのかは定かでは無いが…。

 兎に角、ここ数十年、『蜂』に襲われた記録も事実も無かったのでの、妾が『西から来た』と民が言うで、調査していてこの場所を突き止めた。と言う訳じゃ。

 2日の深夜から張っていたのじゃが、翌日の夜、何時頃じゃった?「もう日付けは変わりきって開け方前、3時過ぎだと」…おお、ナルシス殿、そうじゃその時間にアンリエットとナルシス殿が着いたばかりの馬車から転げ出た。と言うか燃えておったのう」

「ああ、燃えたのはアンリエット様が『亜法』で腕に火を点けて……、何せ両手両足を荒縄で縛られてましたから。

 その火でアンリエット様は御自分が火傷をするのも厭わず後ろ手の縄を焼き切ったのです。

 で、早い話し、火傷を負った手で私の手首の縄を解いて、後は先程のアニエス殿下の仰ったお話しに繋がります」


「何でアンリちゃんあのニェールの町の襲撃の時ぃ消えちゃったのぉ?

 何でアンリちゃん程の剣士で『異層』に出入り自由なぁ反則級(チート)が捕まっちゃったのぉ?」

「フェーにも皆にも最初から順を追って話すよ。

 まず6月32日、あたしは、フェー達が居るから『蜂』が来ても大丈夫だと考えた。襲撃の30分位前から『悪意』では無く『狂気な使命感』とでも言った様な兎に角、気持ちの落ち着かない感じがあった。

 方角が分かったのは『喰らい尽くす』って言う蜂の意志があったから…。で、ナルシスさんに『あたしは襲撃犯を捕まえるので馬を一頭用意して』っと頼んだんだ」

「それで、私はアンリエット様の護衛のつもりで二頭馬を連れて来て『蜂』の襲撃の始まった頃、南門から二人で走りました」

「34日の早朝、ワロキエの全滅した小さな集落に着いて、もう少し南へ進んだ所だったですねナルシスさん…「そうでしたね。現地の民に惨状を知らせたのでした」…そして、フェー達も知ってるかも知れないけど、『中央市場亭』って宿屋に商人のふりした襲撃団が7人泊まっておりました」

「おお、その宿で我々はフェーさん達と『手合わせ』したんです」

「ほお、偶然なのかオスカー君、あの変な名前の宿は一生記憶に残りそうだな」

「ですね将軍閣下」

「それでナルシスさんとあたしは馬車の荷台乗り込んだの。上手くすれば犯罪者の親玉か本拠地が探れるからね。

 馬車の荷台が都合良い事に幌付きだったし、大きめの麻袋も5~6枚載ってたんで、その麻袋に二人で隠れたの。それが6月の35日の朝。

 捕まったのは思ってた以上に早かった……」

「ここから私が話します。アンリエット様は私に『交代で休みを取りながら奴等の隙を突きましょう将軍、先に休んで下さい』と仰られたのですが、即、見付かりました。

 イビキが煩かった様です私……。あの時のアワアワしたアンリエット様が可愛いと思ってしまって本当、私は将軍失格です。申し訳無いも何も『これも想定内です』とアンリエット様が仰って下さり……」

「だから、犯罪者の資料集めと捕まった時に取られたあたしのレイピアとナイフ。どっちも『王家の紋章』が付いてるんで、取り返しに来た。

と言う少々あたしの私的な理由もあるんですよね」


「襲撃犯のアジトがこの岬の壊れた小屋?だとして、『蜂』は何処から……」

ジーンの問いにアニエスは答える。

「岬の下、丁度この真下に洞穴があっての、どの様な飼育方法があるのかは知れぬが、物凄い数の『蜂』が居った。何か『小さな笛』の様な物を吹いて『蜂』を操っておる様じゃった」

「4日の朝の『蜂』の襲撃。それと昼過ぎの襲撃って………、まさか。。。」

「ん?妾では無いぞ。あれは、『小さな笛』を吹いて操っておった犯人の犯行」

「アジトにぃ『虫の実』ばら蒔いたのはだあれぇ?」

((ああー、ワロキエ王国の王都壊滅させたのって………))

 ジーンとマリエは口に出さない事にしたのだった。


「ところで、アンリさんもメルシェ将軍、アニエス殿下も岬の洞穴の調査は行ってませんわよね?」

「ジュリエット嬢の言う通りじゃ。調査せず、『蜂』共の向かったワロキエの王都に向かったのだからの。なんせ、妾は自国の外に出たのは今回が初めてじゃ。王都に行くのにちょいと失敗しての。妾だけ海に落っこちたりしたからの……」



◇◇◇

「やけに港に入るのに手間取ったと思ったら、エミール大変だぜ」

「殿下、王城がありません。只の瓦礫です」

「ああ、僕にも見えているよ」

 5日の昼にワロキエの港に着いたエミールとその友、『アンドレ・フォーレ』と『イヴァン・ド・ランベール』。

 アンドレは実家『フォーレ商会』から大型帆走船『ラ・フォーレ号』を借り受け、帝国近衛のイヴァンと共に南ミュロのバルザザーの港からワロキエの王都にやって来た。


 ワロキエ王国に居ると色々不味い『ヴァレリー帝国』の第四皇子ではあるのだが、王都の混乱は想像以上であった。

 辛うじて機能している国軍兵は数人の『百人長』の統率で動いて居る様だ。

 どうも『千人長』以上の佐官将官が不在である様だ。

 港から真っ直ぐ中央市場に入る。野菜や香辛料は兎も角、塩の値段が『これは金ですか?』と言った感じに値が高騰していた。

 それでも比較的に安価な飲食店もあり、エミール達三人は休憩と言う情報収集に勤しむ。


 昼と言う事もあって、店内は混雑と言う程では無いが混んで居た。

 三人はエールを注文し、『落花生』に似た物をツマミに周りの客の話しに耳を傾けていた。


「いや~、昨夜(ゆんべ)な、『帝国の真珠姫様』達と夜営してよう…ごはん旨かったよなー兄弟(きょうでぇ)!」

「その話し詳しくっ」

 イヴァンがその男達に声を掛けたのである。



 男達(馬の預り所)の話しに出た『現場』は、路地に丸い大穴が空いていた。

 『転移する』と言って10人もの人間が一度に消えた。と言う。

 何かしらの移動の手段を用いたのだろう。

 『岬の調査』と言っていた。と言うが、『岬』とは何処か?『調査』とは魔物の『蜂』関連と思われたが、確たる裏付けも何も無い状態のエミール達では、動き様が無かったのである。

 只、手がかりはあった。『狐人(ルナール)の姫がアンリエット達と共に居た』と言う男達の話しがあったのだ。

 向かう目的地は東。エミール達の旅は終わらない。


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