第69話 空から女の子。
「「キツネさん?」」
「狐人じゃ、戯けっ」
大きく瞳を開け驚いているフェリシエンヌとジュリエット。
「そんな事はどうでもよい、はよう門を開けぬか!」
少々御立腹のキツネの言われるまま、ジュリエットが開閉レバーを回す、のだが13歳の少女の腕力ではビクともしない。
フェリシエンヌと二人でなんとかレバーが動く。が、素早さに特化したフェーではあるが、力持ち…と言う訳ではないのだ。
「じれったいのぉ。妾に寄れナルシス、アンリエットよ」
「「え?アンリ (ちゃん)」」
アンリエットの名前を聞いて驚いた二人の後ろ…、つまり西門の内側に何時の間にかその『キツネ』とボロボロのアンリエット、同じくボロボロに成っているメルシェ将軍が立っている。
「え?え?何?なんなの?どうして…どうしたら閉まってる門を抜けられるのですの??」
ほんの4~5メートルだが一瞬でこちら側に来た三人。
普通に驚いたジュリエットと只々、ポカーンと口を開けているフェリシエンヌ。
「ま、ま、ま、ま、『魔法』ですの?そうですの?そうなんですの『キツネ』さん!」
「無礼であるのう主よ。妾は、『神国ルナール』の姫なるぞ?言うて良い事と悪い事があるとは思わぬのか?…とは言え、初めて妾を見た人族は大抵、そう言う反応をするでな。まぁ良い。
ところで、ワロキエの王城じゃがえらい事に成っておる。急ぎ状況に対処するが先決じゃと思うがの?」
皆が王城に振り返り見たのは、黒煙と炎を吐き出す岩城だった。
「アニエス、もう一度『転移』で王城迄、跳ぼうよ」
「無理じゃ、妾の『霊力』が足りん。距離に関係無く妾が使える『瞬間移動』は、一回か二回じゃ。妾程の『霊力』を持つ者等この百年でおらなんだ」
「あたし…、多分、おそらくいける。と思うよ?」
アニエスと呼ばれた狐人族の少女にアンリエットは少々自信有り気に言うのだ。
「まぁ、いければ御の字じゃ。アンリエットよ、『神器』を使ってみせい?」
アンリエットは、アニエスの言う『神器』、正方形の板(5センチ四方)を彼女から受け取ると、皆から5~6メートル距離を取りいきなり消えた。アンリエットの立っていた場所を中心に直径4メートル程、深さも同じ位の地面と共に。
狐人のアニエスはあんぐり口を開け、数秒程惚けていたがーー。
「いやいやいやいや、何故一人で行ってしまうのじゃ?アンリエットよ。バカではないか!
おい主等よ、アンリエットを追いかけるのじゃあぁー!」
と、アニエスが叫んだ瞬間、円形の穴に現れた…と言うか、穴の真上にアンリエットがいた。
当然、落ちた。
「キヤアアァァァ!痛いぃぃぃ」
アンリエット本人も予想しなかったのだろう。まさか自分で作った穴に落ちるとは…。
「何故に一人で行ったり来たりしておるのじゃ………」
アンリエットに苦言を言うアニエスであったが、その目は驚愕に戦き大きく見開いた。
「御主、二度跳んだのか…。ウソであろう。そんなに主に『霊力』があると言うのか…そんなにも強い『霊力』なのか……アンリエットよ…」
「え『霊力』?『魔力』じゃ無いの?」
直径4メートル深さ4メートルの地面と言うか土砂といっしょに跳んだ為なのだろう、土まみれのアンリエットは自分で作った穴から出られず…、何せ直径4メートル以上ある穴と同じ深さなのだ。
「誰か助けてー」
だが、誰一人アンリエットを助け様とはしなかった。
暫く皆固まっていたのである。
地響きが鳴り、黒煙をあげる王城の高さが次第に低く成る。
遅れて「ドッ」と言う鈍い音がして、王城が崩れ堕ちた事を知らせたのであった。
もうもうと立ち上がる黒煙と土埃の中から、幾つか橙色が飛び出した。
橙色……、『蜂』の魔物は直ぐ下に向かって落ちて行く。
否、落ちたのでは無い。人(獲物)に向かったのだ。
「フェーってば助けて!ジュリ助けて!ナルシスさぁーん、ロープか何か探してよおー。『神器』?だっけ、助け無いと返さないわよ、ばかアニエスっ!」
「……おお、そうであったな、助けねば…、と言うか『ばか』とはなんじゃ!穴にはまったのは主の自業自得ではないか?アンリエットよ。まったく、凄いのかバカなのか分からん御姫様じゃのぉ」
西門近くの雑貨店でロープを見付けて来たアンリエット領領軍の将軍、ナルシス・ド・メルシェ。
13歳に成って身長が3センチ伸び155センチ、悩みの『お胸』も少々膨らみ『おっぱい』と呼称してもいいかなーと、本人が思う位には成ったかもしれないアンリエットではあるが、四十代のメルシェ将軍に取って軽い荷物を引き上げる作業にそんなに労力は必要無い様子である。
助け出された土まみれのファテノーク王国王太女アンリエット。自身の状況が自業自得である自覚をかなぐり捨て、誤魔化す様に大声でで言った。
「目の前の惨事を、この状況を見捨てる事なんて出来ない!皆、あたしの近くへ寄って!」
13歳の少女達の塊に遠慮があるのか、将軍は半歩離れて立っている。
因みに、アニエスもこの7月で13に成るのだと言う。
「将軍、ジュリエットにくっ付いて!アニエス、尻尾内側に!…股の間でいいから!早く」
「主よ、跳ぶのかや?」
「直径3メートル弱なら、そうね。後二回かな?跳べるわ」
「何と!」
「行くよっ!」
アンリエットが『移動』したのは王城では無く、中央市場の北の外れ、平らな商店の屋根であった。
「アニエス、あれ出して」
「ん?…おお、あれじゃな。暫し待つのじゃ」
小袖の中に手を入れソフトボール大の丸い紙の包み出すアニエス。どおりで朱い袴の上のお腹辺りがぽっこりしていた訳だ。
そして、取り出したその包み紙を開き始めた。
四枚目の包み紙は『油紙』であった。
更に油紙を三枚開くと、赤茶色の小さな林檎が現れた。
死臭に似た臭い。『虫の実』だ。
アニエスは『虫の実』を足下に置くと、「皆離れるのじゃ!」と言いつつ、周りを見渡した。
「ところでのう、『白い娘』が居らぬぞ?」
「あら、フェーちゃん居ませんわね」
「ホントだ。フェー!フェリシエンヌぅ!居たら返事してー!」
だが、探す間に「ブゥーン」と言う羽音が複数聞こえて来る。
岩城の崩壊に巻き込まれなかった『蜂』が50体前後、アンリエット達に迫る。
アンリエット達のいる商店の屋根の上空に集まり一気に『虫の実』と屋根上の獲物に飛び掛かって来た。
「これで全部かな?」
呟いたアンリエットは、『蜂』といっしょに消えた。
瞬きする程の時間であろうか。再びアンリエットの姿が現れた。
「主、主よ、何をどおやったのじゃ?魔物も一匹残らず消えて、主も一瞬消えた。何をやったのじゃ?妾に分かる様に説明せいっ」
混乱するアニエスの叫びの中、「アンリちゃ~ん、私ぃ、落っこちたみたいぃ。ちょっと足ぃ捻挫したぁ。肘とぉ膝もぉ擦りむいたぁ」フェリシエンヌの素っ惚けた様な声が商店の下から聞こえて来た。
アンリエット達が除き込むと、フェリシエンヌは健在だが、彼女の下に居る兵士が延びて居るのであった。
商店の裏に在った梯子を捻挫のフェリシエンヌに掛けて貰い、下に降りた一行。
梯子を用意して貰っている時間にアンリエットは『異層』について説明した。
「それでアンリエット、主はその『異層』の先のそのまた『異層』に魔物を連れて行く為、主自身も『異層』へ移った。っと言う理屈で良いのだな?」
本日二度目の驚愕にアニエスは、驚きを通り越して呆れ顔に成るのだった。
「大丈夫ぅ、「ペチペチ。」ねえぇ、目開けてぇ「ペチペチ。」もぉしもーぉしぃ、へーたいさーん!」
「はっ!我が国の城が炎上の上、崩壊する。だが上から女の子が降って来るなどと。なんて良い、では無く酷い夢を見たのだ………。ああ、まったく悪夢であった!……のか?」
「兵隊さん、夢じゃ無いのぉ」
フェリシエンヌの下敷きに成って居た兵士が目を覚ました。
「おお、見目麗しい娘さん!ラ◯ュタは本当に在ったんだ?」
「何故にぃ疑問系?
それより、お城が崩れちゃってぇ、お城の下のお家が大変よぉ。兵隊さん、助けなきゃ。でしょぉ?」
暫く「ボォッ」っとしていたワロキエの兵士は、フェリシエンヌに首を無理矢理王城へと向けられた。
徐々に目を見開き「おおおーーー!」と叫ぶと。
「なんってこったあああーー!!」
「だから夢じゃぁ無いってぇ言ったのにぃ」
そこにアンリエット達が合流する。
「ごめんフェー『転移』先、屋根の端過ぎだった。あたしが悪かった。許して欲しい…」
フェリシエンヌに向かって頭を下げるアンリエット。
「いいの。私の守る対象はアンリちゃんだもん。寧ろ、アンリちゃんが怪我しなくて良かったぁ」
そう言うフェリシエンヌの顔を見ているアニエスは、思うのだ。
(これは!まるで…、ぃや、丸っ切り『狂信者』の目ではないかっ!)
「話しの途中で割り込むのもどうかとは思ったが、ワロキエの軍は現状、機能しておるのか?
ああ、いきなり不躾な物言い謝罪する。私は帝国の軍人で『ナルシス・ド・メルシェ』と言う。貴殿は?」
「ダミアン・モーラル百人長でありますっ!」
「ビシッ」っと立ち上がったモーラル百人長では在ったのだが、数メートル上空からの美少女爆撃の後遺症は残っている様で、敬礼したまま再び座り込む事に成った。
「大丈夫ですのダミアンさん?」
「しっかりせぬか、主も男子であろう?」
彼はこの時初めて自分の周囲の状況に気が付いた。
黄銅色の狐人の少女。金髪縦ロールの少女。黒銀髪の少女。さっき自分を起こしてくれた白銀の少女。
皆、全て美しい!
数年で、皆絶世の美女決定だ。
「…ら、『楽園』はここに在ったのだっ!!!」
「何を言っておるかっ!」
思わず、グーで殴るメルシェ将軍であった。
◇◇◇
「アンリさん、ワロキエの王都に居たら良いなあ」
夕日を背に受け、東へと進む『ラ・フォーレ号』。全長50メートルとはこの世界に置いて大型船の部類だ。
海賊対策で船首喫水線の下に『衝角』迄備えた凄い帆走船だ。とは、アンドレが時々自慢気に話すので知っている。
この『アンドレ・フォーレ』と『イヴァン・ド・ランベール』の二人はエミールの『アデリーヌ学園』時代の同級生。
四年間同じ1組だった。はずなのだが、四年生の進級時、アンドレだけ2組に成った。
だが、今もこうして交流のある数少ない友達なのだ。
現在、アンドレは『財務官』。イヴァンは『近衛』で、第二皇子オーギュストの部下である。
夜の帳が落ちて間も無い頃、大小複数の船が西航…つまり、向風に向かって航行しているので、ジグザグに『ラ・フォーレ号』に向かって来たのだ。
ラ・フォーレ号の船員、おそらく通信係が向かって来る一隻目の船に向け大型ランプの開閉で光信号を送る。
間も無く、『ラ・フォーレ号』より一回り小さな帆船が右舷に寄せ停まった。
「何か在ったのですか?」
ラ・フォーレ号船長が接っした船の船員に尋ねた。
「今朝、ワロキエの都に『魔物』が数百匹出ましてね。バルサザーや帝国籍の商船をまとめて逃げて来ました。港を出た後で何隻か魔物にヤられた船も有りまして、かく言う私の船も数名の死傷者が……」
それを聞くエミールはの顔は真っ青に成るのであった。




