第64話 姫の喪失。其の3。其々の旅路。
「ベルナールさ……、、、なんか変な感じ…。
ええと、ベルティさん、食材の調達は出来ましたが、調理器具がありませんよ?」
「え?じゃあ、村長さんの家から鍋とおたまと皿を借りて来よう。と言うか、普通に『ベルナールさん』って呼んで?」
「その辺、気持ち的に複雑ですので、ベルティさんで……」
「まあ、事情も事情だしね。分かったよヴィクトリアちゃん」
今現在、文官ベルナールとアデリーヌ学園一年生、夏期休暇の後二年生のヴィクトリアは、クロケ村に居る。村長宅で一泊させて貰って、食料も分けて貰ったのだ。
クロケ村は行方不明事件でアンリエットとフレデリトの大隊が駐屯した村だ。
アンリエットの人となりを知る村長が、アンリの知人を歓迎しない訳が無い。
勿論、アンリエットの失踪を知った彼が悲しんだのも当たり前である。「もし、私共で手伝える事があれば、協力させて下さい」と言うのであった。
そして翌朝、クロケ村を後にしたのである。
今日の夕方にはニェールの町に着くだろう。
幸い天気もいい。
ところで、ベルナール・ド・ベルティは馬に乗れるのだ。文官だからとはいえ曲がっても子爵の子息だ。
そして、多少剣術も嗜んでいたりするのだ。
文官職に就いた理由は『二男』だったから……。結構努力家である彼は、最初ブレ帝城の文官であった。
順風満帆、出世街道羃地の筈だった。が、やらかした。 女性の文官(上司)に手を出した。
バレた。旦那にバレたのだ。
逃げた先がミョスレの町、今のアデリーヌの町であった。
「閑話休題。で、ヴィクトリアちゃんはどうやってアンリエット様を探す?」
昼休憩で川岸の木に馬を繋ぎながら聞くベルナール。
「どおって、それは駐屯している兵隊さんとかに情報を頂いて……」
「その知られている情報は当然それを基に捜索しているでしょう。
だとすれば、自分達で失踪の痕跡を探すしか無いと思うよ?
って考えると、僕の行動も浅はかだったなあー」
「でも、やってみない事には始まりませんっ!」
「真っ直ぐでいいよね、ヴィクトリアちゃんは……」
「あのぉ、お食事ってどおやって作るのかしら?」
「ええーーー?」
取り敢えず、薪を集め火を点ける。点けるのだが、直ぐ消える。
試行錯誤の末、やっと燃えたのだった。
「折角、『亜法』が使えるのに、これじゃあ……」
と落ち込むヴィクトリアに更なる試練。
『かまど』の組み方が分から無い。
試行錯誤の末、かまどに薪をくべ、火を焚き鍋を掛けた。
貰った野菜をヴァレリー公爵家の家紋の入った短刀で切り、塩漬け肉と鍋に入れ煮る。
野菜の切り方なんて物は知ら無い公爵令嬢である。
当然だが子爵の子息も負け無い程に知ら無いのである。
灰汁を取る。味付けする。そんなの知らない。
煮えたので食べた。
「うわあ、生煮え」
「しょっぱーい」
萎な萎なの葉菜類、皮剥きされていない根菜類、塩抜きされていない塩漬け肉。楽しい旅は続くのであった。
所詮、貴族の子女であった。
◇◇◇
ファテノーク王国の南、ヴァレリー帝国、南ミュロの東、そこにある国『ワロキエ王国』を南東方向に突っ切る男性三人と女性四人の集団は飛車の如く駈けていた。
「アンリちゃんの痕跡だとぉ思うぅ。このぉ感じぃ……。分かるぅ」
一度、魔物に荒らされた集落に立ち寄った。
フェリシエンヌが予想していたのとはちょっと違っていたのだ。
フェーは、「ニェールの町を襲撃する前に試しに他の村を襲撃している筈」と考えて居た。
だが、その集落はニェールの後に襲撃されていたのだ。
(多分、自力で『表層』に戻ったアンリちゃんが、『悪意』を追って行ったんだわ)
もう、二日駈け続けて居る。馬はかなり消耗している。
「フェリシエンヌ様、馬はもうダメです。休ませるか、替え馬を調達しなけたば成りません。一度町か村で……」
「ジャノ、そんな集落何処にも見当たら無いゼ?」
「では、一旦、海を目指しましょう。港があれば……」
「ジーンの姐さんの言う通りだゼ、良いかい?フェーちゃん」
「仕方無いわぁ。両替商にもぉ行かなきゃだしねぇ」
こうして、港が在るであろう南へと進路を変えたフェリシエンヌ一行であった。
◇◇◇
ヴァレリー帝国帝都ブレ帝城にアンリエット失踪の報が入ったのは6月の終わり36日の昼過ぎであった。
「これをどう見る宰相」
「連れ去られたのかとも思いますが、あのアンリエット姫です。何か事情……、と言いますか。
ひょっとして敵を追っているのではないか、と愚考します」
「フム。我も同じ考えだ。
我が娘が今にも飛び出そうとしているが、エミールはどうする未来の入り婿?」
「入り婿はお止め下さい。父上にお願いが御座います。
どうかエミールにアンリエット姫の捜索を御命じ下さい」
「と言ってるが……。いや、ルイよ。おまえはダメであろう。皇太子なぞ他国に非公式に入ったら、それこそ問題だ」
ルイ皇太子が言い掛けたのを見た皇帝がそう言って制した。
それでも言葉にするルイであった。
「それでも私は彼女に恩義を感じておるんです。あの『貧民街』とも思えぬ場所へ導びかれた事を。彼女の為に何か成さねば、と……」
「立場上都合悪いなら俺等が行くのも選択の一つだよ?」
「え、私もか?」
第三皇子マティウスの言葉に第二皇子オーギュストが目を開く。
そこに割り込むルシールであった。
「兄上様方は、私より弱いではないですか、それに私は只の第二皇女居なく成っても困りません。でしょう父上?」
「いやいや、居なく成っては我が困る……、と言うか、兄が弱い、と?」
「帝都に帰って来てから何度か兄上達と御手合わせしましたが、私から一本も勝てておりません」
「真か?まさか都軍兵の前ではやっておらんだろうな?」
「いやぁーそれが…」頭を掻きながらオーギュストは言った。
「毎朝、修練場で衛士達相手に手合わせしている妹を見て、私も手合わせをと思い、やったんですが……」
「同じく、俺もです」
「修練場で、だとすれば、おまえ達は部下に負けっぷりを見せて居たと言うのだな。おまえ達は将なのだぞ?
ああ、帝国の将来が思いやられるわぁぁぁ」
「ですが父上。私は思うのです。
あのアンリエット嬢とその侍女等に師事した妹ですよ?弱い訳が無いじゃ無いですか」
「そう言えば、武闘大会で槍術部門、だったかあの男爵令嬢…「今は子爵の令嬢です」…分かっておる話の腰を折るな宰相。
その子爵の息女、優勝したのではなかったか。あの者もアンリエット姫に師事していると?」
「ジュリエットさんですね。その通りです父上」
「では、アンリエット姫は、彼女も剣技に長けているのか?あの不思議な能力といい、末恐ろしいものであるなぁ。で、その婿はおまえ達兄弟の中で最弱……」
「一度だけですけど、アンリエットさんの剣技を見ました。
速さと技巧派のレイピアの名手です。体術もかなりの物です。
それより凄いのは『亜法』です。一瞬で薪を炎に変え、一瞬で素焼きの壷を爆散させる威力でした。」
「そんなに強い、そんなにも多才なのか彼の姫は…………。ゥゥム。
して、何時も寄り添って居る白、フェ…「フェリシエンヌ様です」…分かっておる喧しい宰相……その、フェリシエンヌだが実力は如何か?」
「彼女、彼女は本物です。投擲、体術、剣術、短長の槍術。暗殺術も…正に本物です。彼女の母君エレオノール様は身の丈程の長剣で魔物と戦っておりました私等及ばぬ強さでした」
「陛下、今更ですが、あの者等、我が国の脅威に成るやも…、と考えて仕舞います」
「………ゥゥム」
ルシールは一呼吸大きく息を吸い込んだ。
「良く聞け、ここに居る貴殿等に私、ルシールは宣言しよう。
彼女、アンリエット・シルヴァーヌ・ド・ファテノークは弱き民の守護者であり、古き良き貴族である。
貴殿等も知っておろう。我が帝都の貧困層の実状に涙し、あの荒んだ旧北ミュロの領民を救った。
何より若干11の少女がこの町、その民そして貴殿等を救ったのだ。努々忘れるな!
もし、その様な脅威であるのなら私はこの命を棄てようぞ。命を賭けて宣言する!!!」
その後、ルシールは侍女を伴い、コレット達近衛とニェールを目指し出発した。




