第63話 姫の喪失。其の2。喪失。
(何故こんな事に成ったんだろう。マリエ姉は居る。ジュリちゃんも、ジーンさんは上だ。アンリちゃんとナルシスさんが居ない。クッソーなンなんだこの魔物ぉー)
フェリシエンヌはニェールの町中で虫の魔物と戦って居た。
ニェールに着いたその夜、魔物が襲って来たのだ。
その只中、アンリエットが消えたのだ。ナルシスと共に。
(多分、『異層』に移ったでは?)
とフェリシエンヌは思ったのだ。(それにしては気配が無い)フェリシエンヌに分かる筈の気配感じられ無いのだ。
二万人の町には何時の間にか火災も起こって居た。虫の魔物の襲来で混乱している所で火災である。
フェリシエンヌはマリエに指示を出す。
「虫の実はあった?速攻燃やしてっ!」
(何処?アンリちゃん。なんでわたしにアンリちゃんが感じられ無いの?クソッ、虫が鬱陶しいっつの! )
虫、ノォーミクで討伐した『蜂』と同じ魔物であった。
町の東側から侵入して来た蜂は、町の東門近くの宿屋や商店の並ぶ一画を襲撃しているのである。
あの匂い。『虫の実』の腐敗臭にも似た臭いが在る。完全に人為的な魔物の襲撃なのであった。
だが、あまりに数が少ない。もし、あの蜂であれば数百匹の大群な筈なのだが、見た感じ百は越えて無さそうであった。
それより、アンリエットの行方が分から無いのだ。将官のナルシスは兎も角、アンリの不在が気になる。
(『異層』へ深く移ったのでは無いの?戻ろうにも方向が分からなく成って居る可能性は?わたしが早く探して導く……。
どうやって、どうして、どんな方法で『異層』に潜ったアンリちゃんを導けと言うの?どうやって探す?どうやって助ける?どうやって、どうやって………。
でも、それでも探す探す探す。どうやって探す?)
思考のループに陥りつつ、魔物を次々と屠るフェリシエンヌであったが、注意が逸れた一瞬、近くで戦っていたアンリエット領軍の兵士に接触してしまった。
フェリシエンヌは地面に倒れ込んだのだが、兵士は蜂の頭に付いた毒針に胸を貫かれ、間も無く絶命するのだった。
「見つけたッス。ジーン、油ぁーと火くれッス」
「三ヶ所目ですね。マリエっあそこっあそこで人が襲われて居ますっ急いでっっっ」
急いだジーンとマリエだったが、襲われて居た人、男性は毒針を喰らう事無く直接的に喰らわれていた。
マリエがクナイを投擲、それに遅れてジーンの短剣が蜂の首と思われる所を切り裂いた。直接蜂の頭部を男性から引き離すが、その時気が付いたのだった。
油紙に一個づつ包まれた『虫の実』。
この男が魔物の蜂を呼び寄せて居たのだ。
臭いがある……。消し様が無い。燃やすしか方法は無い。
「ジーンさん、マリエ姉ぇ燃やしてっ!」
「「了解」」
油をかけるジーン、それに火を点けるマリエ、燃えている男に問うフェリシエンヌである。
「貴方の目的と所属を言いなさい。そうすれば火を消しましょう?」
「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ぁ…ぁ……ぅぁぁっっっ」
男は、何も言わず、どのみち『虫の実』の臭いの媚リ付いている男だ。燃やす以外無い。
そして男は絶命した。
魔物の襲撃の去った翌朝、検分をした兵士達からの報告を聞くフェリシエンヌ達と大隊長フレデリト・ド・フロトン。
『虫の実』を持っていた男の服装に特徴的な物は無く、所持品(燃えかす)にも手懸かりに成る様な物も無かった。
持っていた銀貨、大銅貨と銅貨はヴァレリー帝国の物だった。
男の足取り、と言うか、男はニェールの町に入った直後に行動を起こしていた。
東門の門兵が目撃していた。
入町の際の徴税と『身元改め』の実施をアンリエットが『訓令書』で指示していた事が幸いだったのだろうか。
東門で門兵が入町する男の手荷物を改める際、「これは只の果物ですわ」と言ったのだが、鞄を開けると不快な臭いが広がった。と言うのだ。
結局、鞄の中身は果実であったが、あまりの臭いに門兵は入町を拒んだ。
その直後、虫が飛来した。と言う話しだった。
「只、その男ですが、ワロキエと言うより、もっと南東の方の訛りの話し言葉だった」
と当の門兵は言うのである。
「どうお考えに成りますフェリシエンヌ様」
「不穏な動きは、ワロキエ王国の国内、帝国寄りの。であってワロキエ王国自体が不穏なのでは無い可能性が高い。と、思う」
「そう思われますか……。目的はなんだとお考えに?」
「おそらく、ワロキエ国内でも同じ様に魔物の襲撃を受けてる。と考えるの、目的は多分、アンリエット姫。あくまで憶測よ?他言無用でお願いフレデリト隊長さん」
「はっ、そのお考えは口外致しません」
「それと、ワロキエの向こう、都市国家群に調査に行きます。ひょっとすると姫様は憎悪とか憎しみ欲望の悪意の残滓に飲まれた可能性もあるわ」
引き続き、アンリエットとナルシス将軍の捜索と町の復興を指示するフレデリト大隊長。
そのフレデリトに「この襲撃とアンリちゃんナルシス将軍失踪の事をアデリーヌの領主館と皇帝陛下に伝えて下さい。その書簡にフェリシエンヌが調査に行った事も明記してね。
では、用意出来次第、南東に向け出立するっ」
フレデリト隊長は思った。
(つか、フェーちゃん、ちゃんと喋れんじゃん)
「キャラ付けはぁ重要なのですぅ」
そして、比較的に若い二人と年配の兵士一人を平服に着替えさせ、フェリシエンヌはジーンとマリエ、ジュリエットを連れ出発した。
6月33日の昼前の事であった。
◇◇◇
二日後の早朝、領主館にフレデリト隊長からの書簡が届き、アンリの失踪を知った領主館で領主館に住むヴィクトリアにも伝わった。
その話しは学園の寄宿舎に伝わり、その日の内にアデリーヌ中が知る事と成ったのである。
「アンリエット様の捜索に一個大隊出すべきです!」
「伯爵の捜索に少ない領軍をそんなに出す事は出来ませんよ?」
「ペリーヌさん、ペリーヌさんはアンリエット様が心配じゃ無いんですか?」
「私は現実的な事を言って居るんです。既に一個大隊出てます。後大隊は二つ、それと警吏だけです。これ以上は出せません」
「そうです。魔物の報告も読みましたが、領軍はアデリーヌの町とその周辺集落を守るべく展開させるその兵しかありません。ですね館長」
と、ベルナール達の『総合相談室』の室長ゴダール・ド・バローは言った。
「そう言う事だ。直ぐ領軍に通達書を出しなさい。アンリエット様が居ないので代官代理領主館館長ジャン=ポール・ド・ユベルドー名で。
ベルナールくん落ち着きなさい。あの姫様です。ご自分でどうにかするでしょう?……多分」
「私、私探しに行きますっ!」
領主館の文官達のやり取りを聞いていたヴィクトリアが叫んだのだ。
窓口業務のエヴァが「ヴィクトリア様っ落ち着いて下さい」と必死に止め、出入り口の扉の前を塞ぐイザベルが、
「仮にも貴女は公爵令嬢なのです。冷静に成られます様、お願いします」
と、説得するのであったのだが、無理矢理外に抜け出すと厩に走って行ったのだった。
「追いかけてっベルナール!」
ペリーヌは叫んだのだ。
だが、ヴィクトリアの行動力に驚くベルナールであった。
既に騎乗し走り出したのだ。
「か、勝手に何馬乗ってぇーなんだってんだ!?」
もう既に卒業した筈のロタール元馬術部部長が馬の世話をしていた。そこにヴィクトリアが入って来た。と思ったら馬を奪って行ってしまったのである。
「悪い。借りるね?」
「は?何言ってんの。ダメだよ」
文官ベルナール・ド・ベルティも馬を奪ったのだ。
五頭居る馬の内一番と二番目に早い馬を瞬時に判断され奪われてしまったのである。
「やるなー」ニヤリと笑うロタールであった。
のだが、「馬返せー馬ドロボーっっっ!!!」
こうして、文官ベルナールとヴィクトリアの旅は始まったのだった。
奇しくも、鉱山奴隷の刑罰を受ける事に成った兄『ベルナール・ド・ヴァレリー』と同じ名前の『ベルナール』との旅であった。




