第61話 恋の行方。
あれから……、あれからとは、アンリエットがエミール先生に告白してから四ヶ月以上経った。
領都はもう6月。そろそろ『夏至祭り』の頃だ。
アンリエットの紋のコイン付き『市民証』は領都に於いてほぼ行き渡った様だ。
黄銅のコインの左に『代官。アンリエット・シルヴァーヌ・ド・ファテノーク』と言う判子が押してある。
だからなのだろうか、「市民証をお土産に買いたい」と言う申し出が後を絶たないのであった。
一応、戸籍と照らし合わせ発行して居るので間違いは無いだろう。
「エミール兄様、皇帝陛下、お父様にアンリエットさんの事をきちんと報告しませんとっ」
「何とご報告するのが良いですか?」
「事実をそのまま報告です」
ここはアデリーヌの町の貴族街、ヴァレリー大公邸である。
近くにアンリエットのファテノーク邸が建設中だったりする。
「どうしましょう……」エミールは、未だ父に報告していなかった。
エミール達に6月半ば帝城から召還があった。
「アンリエットも連れて来る様に」と言う事だ。
馬車に乗るアンリエット。同じ馬車に乗っているエミール先生。(気まずい……。三日も僕は耐えられるだろうか?兎に角、兎に角話し掛け様。ええと、話題、話題………)
エミールは、混乱していた。
「エミール先生ぃも『市民証』持ってるぅでしょおぉ?」
「(ナーイス!フェーさん)ああ、今月の始めに購入しました。良いアイディアですね。これを考えたのはアンリさんですね?」
「………はぃ。。。」
「こう言う同じ証しを持つと言うのは、帰属意識も相まって自分の町を大事にするものです」
「………はぃ。。。」
「意匠も良いです。これはアンリさんの考えた『紋』ですね?」
「………はぃ。。。」
「雪の結晶に、アンリさんのHとミドルネームのSの意匠ですか。素敵です。アンリさん?」
「………はぃ「スパッコーンッ」いったぁーい!何すんのフェーっ!!」
フェリシエンヌが自分の靴でアンリエットの頭を叩いたのだ。
「アンリちゃんいい加減にぃ元戻らないとぉわたしも怒るよぉ?」
「…ご、ごめんなさい。あたし、どうかしてた」
「エミール先生もぉしっかりぃ!陛下に報告ぅするんでしょぉ?婚約ぅ」
「ぅわああーどうしよう?フェーさん」
「わたしにぃ頼ってぇどうすんの?男だろっ!!!」
そんな感じで旅路は続いた。
「姫様、今日はこの集落に泊まります」
そこは小さな村だった。
家屋は数える程しか無く、村長の家も分から無い。
第四皇子の護衛は一個分隊五名である。その分隊長が一軒の家の戸を叩いた。
出て来た初老の男。
「はい、何でしょうか?」
「今夜、宿を取りたい。見た所、宿屋は無い様だ。そこでこの村の長に会いたいのだ」
「はあ、私です。どうぞ適当に寛いで下さい」
「いやいやいや、そうもいかないのだ。帝国第四皇子エミール殿下とアンリエット領代官アンリエット様がおわすもので、適当と言われても、何処か良い場所……」
「一番いいのは………やっぱウチかな?」
自称村の長は、一人暮らしの様だった。
家の中は狭く、入って直ぐ土間にかまど、それとテーブルと椅子が一脚。土間の隣は板の間に成っていてソファーが一つ、どうもそのソファーで寝起きしている様子であった。
「これでは姫様方が休め無いではないかっ!」
「隊長さぁ、あっちらは外で夜営するッスよ?」
「ご主人、他の家でも良い。女性の居る家を紹介してはくれまいか?」
「居ないです」
「はあ?」
「いえね、この村私一人なんです」
聞くと、去年迄は村人は居たのだと言う。10世帯の集落だったのだが、若者は町に働きに出て残った老人は相次いで亡くなった。と言うのだ。
そしてその男性は、残っている食料を勝手に食べて細々暮らして居た。と言う話しだった。
「畑は?」
「もうやる気も無くて……」
ニートだった。
仕様が無い、アンリエットは、羊皮紙を出すと紹介状を書き│印璽を押し封蝋したそれを初老の男性に渡した。
「領都アデリーヌ迄、貴方の足でも二日は掛からないでしょう。これを持って領主館に行って下さい。そうしたら暮らせる場所があります」
その夜は、アンリとフェー、ジーンとマリエが食事を作った。
塩漬け肉と乾燥野菜でスープを作り、主食はじゃがいも。と言うメニューを初老の男性にも振る舞ったのである。
男性は、余程旨いと感じたのか遠慮無くおかわりをした。
衛士達が遠慮しているにも関わらず……。
翌朝、男性に1日分の食料を持たせ、領都へ送り出したアンリエット達は、帝都ブレへと急いだ。
二日目の夜はちゃんとした宿に泊まる事が出来たのである。
アンリエットはエミールとお話しがしたかった。
確かに「二年後、結婚して下さい」と言われたが、果たして勢いで言われた感も拭え無い。
思い立ったが、何とやら。エミールの部屋へ行くアンリ。
扉を「コンコンッ」と叩くと、「はい」っとエミール先生の声。それだけで、嬉しく成るアンリエット。安上がりだ。
「ああ、アンリさんですか。でもこんな時間に男性の部屋に来るのは良く無いですよ?」
「で、でも、先生とお話しがしたくて…」
「少しだけ、ですよ」
そうエミールは言うとベルを鳴らした。
暫くして宿の従業員がやって来た。
エミールは、自分に酒精の弱い飲み物、アンリエットには温かい飲み物を頼んだ。
「どうしたんです。こんな夜に…」
「先生、あたし不安なんです。先生の気持ちが見え無いんです……(……って、そう言えばあたし、『人の気持ち』見えるんだった。あたし迂闊)。と思ってたんですけど、先生質問です。
先生はあたしを好きですか?」
途端にエミールの身体を包む光が黄色ともピンクともつかぬ白い光で輝いた。
「先生、お邪魔しました。ウフフゥ」
満足気に部屋を出て行ったアンリエット。一人残されたエミールは何が何だか訳が分から無いよ状態であった。
◇◇◇
先触れは、エミールの護衛の衛士が、先行して出したのだろう。
帝都ブレの南門を入って真っ直ぐブレ城に向かった。
そして、赤面するアンリエット。このお城に入ると正面に自分達の大きな姿絵が在るのだ。
「あ、本人だ」「本物だぁ」
と言う声が何時も聞こえるのだ。
エミールと別れ、アンリエット達四人は、謁見の間に通じる控えの間に通された。
ここで暫く待つ事に成る。
「本日はどの様なお話しなのでしょう?」
「婚約の事かも……どぉしようジーンさん」
「きっとぉ違うわよぉ?」
謁見の間への扉が開いた。
覚悟を決めて前へと進むアンリエット。
その半歩右後ろを歩くフェリシエンヌの顔は気楽そうである。
「表を上げよ。アンリエット姫、陞爵だ」
「今度は『伯爵位』ですよ?」
皇帝陛下と宰相閣下の言葉が一瞬訳が分から無いアンリエット。
「はあぁ?」
素っ頓狂な声を上げるアンリエットであった。
「あ、あの、どう言う事でしょうか?特に功績も上げておりませんのに………」
「バルサザーの案件でな、隣国ワロキエへの使者が戻った。売買された帝国民の子どもの足取りは取れ無かった。
だが、売買された記録とワロキエの貴族も捕らえておる。交渉はこれからだが、かなりの譲歩が期待出来る。で、陞爵と言う訳よ。よいか?」
「あ、はい承ります」
アンリエットは深く礼をするのだった。
「時にアンリエットよ?エミールの件だが………」
(キヤアアアー来た来たよおおおおおー)
「まあ、これは女性に聞く事でも無いか?ヤツが、男を見せる迄は、な?」
「父上、私から報告……、お願いの儀があります。
―――隣国ファテノーク王国王女アンリエットとの婚約を御許し頂きたくエミール参上致しました!」
おおおおおおおおおおおおおおーーーーーー
うわああああああああああああーーーー!!!
謁見の間は、どよめきから歓声に変わった。
アンリは真っ赤だった。
フェーは、笑ってる。
そして、エミール先生はやり遂げたと言わんばかりに放心していた。
「愚息も男に成ったか?エミールよ良く言った!この婚約異議の有る者は居ないで、あろう?
今日は城を上げて祝杯だ!」
ははああああー!
「ところでエミールよ。おまえアンリエット姫の入り婿に成るのだぞ?」
「え、そうなの?」




