第49話 令嬢の望み。
ヒューゴ・ド・フォンテーヌはここアンリエット領領都アデリーヌに居た。
何故なら、12歳の少女フェリシエンヌに負けたからだ。
そして、フェリシエンヌの望みを叶える為であったのだ。
領主館の接客室。立ち会いに勝ったフェリシエンヌと第二皇女、当然ここの領主も居る。分から無いのは、長命種の少女が居る事だった。
そして、何故かヴァレリー公爵令嬢も居た。
「それで、フェリシエンヌ嬢の望み、話し合い。だな?」
「おじ様、わたくしは、寄宿舎の暮らしもお料理を作る仕事も大好きですの。自分のお金が無いので始めましたのは本当ですわ。
でも、厨房の仲間やお友達と過ごす時間はとても良い物ですわ。
エウレ○セブ○でも『求めよ然れば与えられん』って言う様に、わたくし自ら求め、そして勝ち取るのですの」
「その、交響詩編的なのは分からんが、市井の者を仲間、だと?おまえは誇り高き貴族なのだぞ」
「お言葉ですがおじ様。わたくし村の四千人の領民だけの男爵のしかも三女です。殆んど平民ですわ。
それに、わたくし貴族の子女の行いを沢山見ましたの。それは酷い物でしたの。おじ様の言う貴族なんて何処にも居ませんでしたわ。
本物は一人だけでしたの」
「しかしだ。おまえはまだ、か弱い女の子だ。大人に守って貰う存在なのだぞ?」
「わたくしが『弱い』ですって?」
話し合いは場所を変えた。
歩いて10分、領軍の修練場に着いた。
帝国元帥ヒューゴには嫌な予感しかなかった。
概視感とでも言うのだろうか。似た状況に瞬殺のフェリシエンヌの姿が、チラチラ目に入ってしまう。
「おじ様、わたくしが五人に勝ったら一つお願いを聞いて下さいまし」
「…………ああ」
「最近、槍術を習ったのでしたわ」
ルールは至極簡単、相手が「参った」と言ったら勝ち、
相手の急所に届いたら勝ち、再起不能にしたら勝ち。
ジュリエットは槍を持った。
「ほお、槍を下段に構えるのか?」
「始めっ!」
勝負は、一分も掛からず終わった。
ジュリエットの槍が相手の右手に伸びて槍先が一回転したと思う間に持った剣を落としたのだ。
結果、ジュリエットが勝った。
二回戦目の相手は剣と盾を装備した。ジュリエットは槍では無く得物を小刀二本に変えた。
国軍兵は「随分と舐められたものだ…」と言ったのだが、瞬殺だった。
走って来たジュリエットが剣の間合いに入る瞬間、小刀が兵士の顔に飛んで来たのだ。兵士は避けきれず…と思った時には頸動脈に小刀が当たって居た。
左手の小刀だった。
と、こんな風に試合は進み、結局五人ごぼう抜き。
「分かった。私の負けだ。完敗だ。もうジュリエット嬢は好きにせよ。父には私から言っておこう。
………ところで、おまえは何処で剣術や槍術を教わったのだ?」
「わたくしはこの二人、アンリさんとフェーちゃんに体術、投擲術、剣術、槍術それと馬術を教わりましたの。後、亜法も」
「……、一年足らずで、なのか?一年で私の軍兵より強く成ったと言うのか?」
「毎日、鍛練を欠かさず行ってましたわ。おじ様、わたくしは本物の貴族に教わったのです」
こうして元帥ヒューゴは、また一つお願いを聞く事に成ったのだった。
そう言えば、領主なのに領主館に領主の執務室が無かった。何時も文官の机に並ぶ机で書類を見たり書いたりしていた。
兎に角、今回の南ミュロの出来事の報告書を…、そうだ、元帥が居た。
「この度の事件のあらまし何ですが…元帥閣下の見解を一つ……」
「私のか?」
「はい」
「そうだな。まず……」
「書いて書いて」とペリーヌを急かすアンリエット。
「あたしの報告書と元帥のを擦り合わせて清書してくれる?ベルナールさん」
「えー、僕ですかー」
不平不満なベルナールではあったが、約束してくれたのだ。領主館職員を二人以上採用すると……。
(これは頑張って居るところを見せておく必要があるねえ。そうしたら、僕に部下が出来るかもっ)
そう行かないのが世の常なのだった。
数日後。
「今日から仕事をして頂くエヴァさんとイザベルさんだ。二人は窓口業務を主に行う事に成ってる」
(やったぁ、これから僕の時代の幕開けだああああ!)
「それとこちらの方は新しい総合相談室の室長ゴダールさん。ペリーヌさんとベルナールくんの上司だ」
(え?上司?何それ……)
「それと近々隣の部屋を企画室と言う名の部署が出来る五人来る予定だ。私は館長職に着くので引き続き宜しく頼む。以上だ」
(僕の部下居ないの………)
ベルナールの細やかな夢は……(夢は夜見るモンだった)。
◇◇◇
「侯爵様、おじ様ようこそ、わたくし達のお店へ!」
11月5日安息日。遅く成ったが、『収穫祭』だ。
本当は半月前に行う予定であったのだが、件の『人身売買』や町の拡張工事等で延び延びに成った結果が本日なのだ。
そして、ジュリエットの『望み』は今、叶うのだ。
「侯爵様おじ様、こちらはアン=マリー先輩。何時も学食でお世話に成ってる先輩ですの」
「アン=マリーです。こちらこそ世話に成ってばかりです。はい、美味しい『じゃがバター』とジュリちゃん特製トマトソースの『甘辛じゃが』です。召し上がれ?」
「ホッホッ。アン=マリーさん、有り難う。頂くよ?」
「………………。こ、これは美味い、この赤いタレは本当にジュリエット嬢が作ったのか?」
「そうなんですよージュリちゃん作です。ヒューゴ様」
「侯爵様、こちらはアンリエットさんの開発したパンですの。小麦の無い村で、子どもがパンを食べたがって居たので急遽作ったパンですの。
お試しに成られますか?」
フライパンで焼いた薄皮パンに葉菜とスライストマト、玉ねぎとチーズに塩漬け羊肉を挟んだパン。
ジュリエットはパンを侯爵とヒューゴに渡した。
「……。ほお、これは…小麦のパンでは無いのは分かるが、いったい材料は何かの?ジュリエットや」
「トウモロコシの粉です。それに米粉です」
「トウモロコシ…だと?馬の餌ではないかっ!!」
「いいえ、おじ様、トウモロコシはとても甘いんですの。もしまだお腹に余裕が御座いましたら、あちらの『焼きモロコシ』をお試し下さいですの」
「ジュリエットや、このトウモロコシのサンドイッチに決まった名はあるのかの?」
「アンリエット姫の作ったトウモロコシパンのサンドイッチですので、皆は縮めて『アンリ姫のパン』か『姫パン』『アンリパン』って呼んでますわ」
「あの姫様、やりおるわい。息子から聞いたが、ジュリエットは随分、良い影響を受けて居る様子じゃの?」
「あの方こそ古き善き『本物の貴族』なのですわ」
ジュリエットのその言葉を聞いてヒューゴは「ハッ」っとした。
あの日、帝城の謁見の間で見た12にもなら無い少女の威風堂々な姿。
あれは王者の片鱗では無く王者だったのだと……。
ジュリエットの『望み』。
それは「侯爵様に自分の仕事を見て頂く事」だったのだ。




