第4話 真珠のお友達。
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ここ帝都『ブレ』は大きな城郭都市である。
人口約30万の大都市である。
周辺の馬車半日程でたどり着く町村を合わせ50万を軽く越える規模ではないかと言われている。
市壁は、歪な楕円形ではあるが計画的に造られた都市である事が良く解る。
目に見えて解るのは、東西南北に真っ直ぐに延びる大通りであろう。
そして縦横無尽に広がる『下水道』。
地下は目に見えないのでは?と仰る方も居よう。が、おそらく他の町にはあるが見掛け無い物がある。汚物の瓶を運ぶ車とその人足を殆んど見掛けないのだ。
帝城周辺に官庁があり、他国の在外公館は貴族街の一角にある。
上水道は無いのだが、それは帝都のある場所が水に恵まれた立地だからなのである。
帝都外壁の南と東は見渡す限り穀倉地帯である。
北は広大な森林があり木材資源にも恵まれている。
帝城は城郭都市の北に位置し、L字の池が城の南と西の二面を囲っている。
二面なら「囲って無い」事になるが、120年程前迄は東西南北、城を囲む『堀』が存在していた。
現在、東は『アデリーヌ学園』。北は厩と修練所、騎士団の寄宿所が建って、お堀としての機能は失くなった。
尤も、この帝都を攻撃し、帝城迄攻め入れる軍隊等、皆無であろう。
この様な計画都市でも問題はあるもので、その一つが『朝の混雑』通勤通学ラッシュだ。週6日のラッシュ。 つまり安息日以外、毎日なのである。
◇◇◇
アンリエットとフェリシエンヌは辟易していた。
500名近い全校生徒の3分の2が貴族の子女である。勿論、貴族全員が貴族の居住街である北西地区から通っている訳では無い。貴族の子女専用の寄宿舎から通う者もいる。
だが、生徒の通う学園が官庁街、城の東に在るのだから仕方無い。
そして貴族の子女の通学は、基本的に見栄張りな貴族達は、『一人一台の馬車』なのである。
アデリーヌ学園に通い始めて四日目の夕食時、アンリエットとフェリシエンヌは翌日から歩いて通学したいと侍従長と執事長に訴えたのである。
勿論、王族のお姫様と上級貴族、しかも血縁にある公爵令嬢を只、玄関先から「行ってらっしゃいませ」と送り出すわけが無い。だからと言って、お屋敷の衛士をお供に付けるわけにもいかない。
翌朝、何時もの時間8時に二人。付き添うのは侍女の二人『ジーン』と『マリエ』だ。
二人共、暗器使いで、ノォーミク領に存在する隠された村(実際は、隠されていない。)の出身なのだ。
『ジーン』はアンリエット付きで、『マリエ』がフェリシエンヌお傍付きの侍女である。
お屋敷から10分程歩いた頃、数メートル前の路地から見慣れた髪の少女が現れた。
「あっおはよう『金髪ロール』さん!」
「違うよぅアンリちゃん。『金髪コロネ』ちゃーん!おはよぉー」
「って、誰がパンよっ。は!」
一瞬で彼女の姿が目の前から、消えた!っと思ったら、アンリエットの足元に跪いて、臣下の礼をとっている。
「こ、このジュリエット、殿下の御前を歩いていたなどとは至極無礼な振る舞いを…無礼、切り。覚悟は何時でも…」
「って止めて、あたし達お友達でしょう?」
白黒真珠が左右からジュリエットを抱き上げる。すると、ジュリエットは目に涙を浮かべた。
「…おと、お、お友達って、お友達ってわたくしの?わたくし等の…ふぁ…ふええぇーん」
何か泣き出してしまった。
フェリシエンヌが頭を撫で撫で、アンリエットが背中を摩々しながら「同じクラスだからお友達」「ジュリちゃん泣かないでぇ」と宥めながら通学するのであった。
「んじゃアタシ等はこれでー嬢タン姫さぁーとお友達のジュリエットタン!」
「言葉気を付けろっマリエ!姫様お帰りの際、馬車を御使いになさいますか?」
多分、ジーンとマリエは仕事上断れ無いだろうと思い少しの間アンリエットは言いあぐねていた。
「やりたい事をやりたい様に仰いませ!」
何時もジーンの一言に助けられるアンリエットである。
「フェーと昨夜お話ししたのだケド、もし大変じゃ無かったら歩いて帰りたいの」
「じゃ、午後2時前位に迎えに来るッス。いやぁ午後の掃除とかメンドーなんで…」
「言葉使いをと…」とジーンに頭をポカッと叩かれるマリエ。仕様である。
「それでは我々はこれで、ではっ」
侍女達は屋敷へ戻るのであった。
◇◇◇
1年1組の教室に入った三人の少女。始業迄、随分時間がある。
「昨日より20分以上早く着いたね。」
「だねぇアンリちゃん。それでぇジュリちゃんは何時も歩いてるのぉ?」
「いいえ、昨日迄は『侯爵様』の馬車で送り迎えして頂いておりましたの。」
今、ジュリエットが座っている席は『ロイクくん』の席だ。1組の生徒はまだ疎らにしか来ていなかった。始業時間は40分後である。
「ジュリって侯爵令嬢じゃないの?」
「『侯爵令嬢』何て畏れ多いですわ。」
何でも『侯爵領』の領内にある『テター男爵』の三女で、今更言うのも変な話し、彼女の名は『ジュリエット・エマ・ド・テター』と言う。
その『男爵領』は非常に小さく、人口四千人足らずの貧乏貴族、なのだそうだ。
入学試験は平民枠(そんな『枠』は無いらしいが、学園に頼んだ。)で受験し特待生として入学出来たと言う。
件の『侯爵様』と言うのが、中々の人物なのだそうで、領内の貴族は勿論、領民も大事にしていると言う。優秀な子どもが入れば出来るだけ希望に沿うよう働き掛けているのだとか………。
そして、「寄宿舎に入らずとも、帝都の我が屋敷から通えばよい」と………。たかが貧乏男爵の。しかも『三女』に侯爵のお屋敷のきっと一番良い馬車に毎日送られるのが心苦しかった。申し訳なく思っていた。と言うジュリエットであった。
「良い子だなぁ」と思う王女と侯爵令嬢。
まだ泣き腫らした顔だったので、フェリシエンヌはササっと洗面所(教室出た廊下の窓際)へ行って濡らしたハンカチをジュリエットの目元を優しく冷やすのだった。
「そう言えば、お城の何時も降りてる跳ね橋の所に、豪華だけど昔の意匠っぽいドレス着た若いおば様居たんだケド、気が付いた?」
「ん?あぁ、アンリちゃん多分それ何時ものだよ?」
「あのおば様、何処かで…。あ!お城、帝城の中の姿絵に………。」
「何ですの『何時もの』って?」
と少々顔の色が白く成り掛けなジュリエット。
「ああー、多分それって…」
会話に突然入って来たナデージュ、にちょっとビビったジジュリエット。
「おはよーお三方」と言いつつ話しを続けるのである。
「…それって『異層』じゃない?」
「「何故それを知ってるっっっ!?」」
思わず大声で叫ぶ、白黒真珠であった。
◇◇◇
「おはよっロイク。つか、なんで入り口につっ立ってんだよ?」
「いやぁ俺の席に『金髪コロネ』が居るんだー。」
「え?『クロワッサン』だろ?」
平和な朝の学友達の歓談。
何人かの生徒が「昼は食堂でパン」と決めた瞬間でもあった。




