第48話 進軍、目指すは再び。其の3。占領。
領境を越えて直ぐの村メルシエに着いた。
メルシエとバルサザーを繋ぐ道は、一本。騎馬で30分の所を封鎖した。進軍している事を隠す為だ。
メルシエの村長に事情を話しに行ったのだが……。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました。村長のジャンです。お噂は予々、いやあ本当にお美しい。ほおー後ろの方が、フェリシエンヌ様ですか?いやあ、ソックリですなあ。全く持って素晴らしい……」
「今回、演習と言う事で南ミュロ迄来た。陛下の訓令書は賜って居る(見せながら)。国軍との遭遇戦が演習目的なのだ。情報が漏れると演習にならんでな。そこで、だ村長。一つ、頼みがある」
「はい、何なりと……」
更に偽りの情報を村長に言い含めるアンリエットであった。
実は予めアンリエット領と南ミュロ領を繋ぐ道は全て封鎖していたアンリエットであったが、幸いアンリエット領の殆んどの商取引がヴァレリー領であったし、夏以降食料自給も出来る様に成って居た。
南ミュロとの取引は『魚介類』のみ。
どの商人商店が行って居るかは簡単に分かった。
配達物も止めた。四日の異変であれば気付くまい…。
だが一つ懸念が残る。
それは、この村メルシエの住人の誰もが『行方知れず』に成っていない。と言う事だ。
28日深夜、バルサザーに向け進軍したのである。
◇◇◇
29日早朝。時間は5時、アンリエット領軍は東門を占拠。国軍ヴァレリー領軍は他の二門と港を占拠した。
その後、各々が朝食を取った。
そして、6時に成った。
東門の市壁に上がったアンリエットは拡声具を取り出した。
「私はアンリエット女男爵。アンリエット領領主アンリエット・シルヴァーヌ・ド・ファテノークである。
バルサザー市民及び、犯罪者及び協力者に告げる。これより犯罪者とその組織を洗い出す。全ての家屋、全ての倉庫、全ての庁舎、全ての学舎、全て建物を検分する。下水道もだ。
その間、町全てが私アンリエットの管轄下に入る。
よって、市民生活に多大な被害を被る恐れがある。
だが、安心して欲しい。協力あれば、早く終わるのだ。
尚、警吏は組織と通じて居る可能性がある為、軍との協力は不要。全員中央広場にて待機する様に。来ない警吏は犯罪者として捕らえるものとする。
繰り返す。私は…………」
つまり、アンリエットがバルサザーを占領したのだ。
同じ様に東門から騎馬で大通りを移動しながら拡声具で知らせを告げ歩いた。
各門は各々一個中隊で占拠したまま、残りの全軍で四方、文字通り、東西南北市壁の側から中央に向かって検分と言う名の家宅捜索を行うのだった。只、南は港である。
船で逃げられても、逃げ込んでも困るので、国軍の一個大隊は港に残したのである。
指揮はアンリエットに皇帝陛下より一任されている。
夕方に成り、都軍二個大隊、領軍二個大隊が加わった。
そして、8人子どもが発見された。他に成人男性30人、女性27人。
各々違う組織の様だ。他に無許可の売春斡旋所と売春宿が10数件。麻薬の売人に至っては40人近くを検挙した。
『人身売買』組織は3団体だった。
検分捜索は、翌朝迄続いたのだった。
無許可の売春斡旋所と売春宿の経営者と従業員…売春をしていた女性も含め150余名全員が鉱山奴隷と成った。麻薬売人は尋問された後同様に鉱山奴隷である。
協力者、資金源の貴族も名が上がった。
人身売買の組織だが、三団体60余名検挙した。
即、尋問である。
ワロキエ王国のルート。何処の商会での輸送か。売られた人(子ども)の行方。他に組織は無いか。協力者(協力組織)は誰か。等々。
取り敢えず、30日の昼前にまた拡声具を持った。
「私はアンリエット領領主アンリエットである。
バルサザーの検分はひとまず終了した。市民の協力に感謝する。
そして、市民生活並びに経済活動を停止させた事に対し謝罪する。現在、事件解決迄、国内のバルサザーへの 物流を止めて居る状態である。
一応の解決は見たので、順次再開するが、もしも犯罪者やその協力者を匿って若しくは逃亡の手助けをする者が居たのなら容赦しない。
繰り返す。私はアンリエット領領主アンリエットで…………」
◇◇◇
31日、国軍の総指令であるヒューゴ・ド・フォンテーヌ元帥と会談した。
「この度、軍の采配を譲って頂き、誠に有り難う御座いました」
「はっはっはっはっ。陛下が高く買う訳だ。なかなか良い指揮ぶりであったぞ?それにしても、会うのは二度目だが稀に見る美しさであるなあ。いや、失敬。12の少女に言う言葉ではなかった。
話しは変わるが、テター家の息女…、三女は元気か?」
「…?」
「アンリちゃん、ジュリちゃんの事だよおぉ」
「ああ、ジュリエット!ジュリエットは元気です。勉強も仕事も頑張っています」
「仕事。であるか?」
「学食の厨房で朝と夕方、楽しそうにやってますよ?この前はお祭りで、屋台もやってたんですよ。凄いです」
「…なんと、テター家の令嬢が……。不憫であるな」
「え?」
「お知り合いですか?」
アンリエットは何故、元帥閣下がジュリエットを知って居るのか疑問であった。
「これは早急に邸宅を建てねば。時にミョスレ…、アデリーヌの町の貴族街だがまだ、空きはあるのか?」
「確認しないと分から無いです。ご購入予定ですか?」
「そのージュリエット嬢が不憫での。住む場所と金銭を与えたいのだ。ああ言う事案もあったしな」
「あれはジュリエットさんとは関係無い事件ですよ?」
「テター領の隣が、件の子爵領ラ・サール領なのだ。ラ・サール家はお取り潰しに成る事が決まって…。今年中に決まりそうなのだ。だので、ジュリエット嬢を何とか安心出来る様に」
「あの、失礼ですが、ジュリエットの言う『侯爵様』ですか?」
「いいや、その侯爵は我が父で、私は息子だ」
「そうでしたか…。ジュリエットは何時も言っていました。侯爵様はとても良くしてくれる。申し訳無い、と。『だから、自分で出来る事は自分でやる』と」
「それにねぇ、ジュリちゃんはぁ、食事作ったりぃ、パン焼いたりするのすんごぉく楽しいってぇ言ってるんだよぉ?楽しみ奪うのは良くぅ無いとわたし思うわぁ?」
「…………。」
ヒューゴ元帥は黙ってしまった。
何分静かに座って居たのだろうか。
最初に痺れを切らしたフェリシエンヌが提案した。
「わたしが元帥さんの兵隊三人倒す毎に一つお願い聞いて貰えますか?」
と言う訳で、対フェリシエンヌ戦が始まった。
ルールは簡単。
「参った」と言ったら負け。
勿論、再起不能で負けである。
木剣、模擬剣での試合だ。
国軍の兵士が持つ剣は刃渡り50センチ程の短剣。対するフェリシエンヌは25~30センチの短刀二本である。
身長が180センチの国軍兵に150そこそこのフェリシエンヌである。
「始めっ!」
勝負はあっさり着いた。
フェリシエンヌが相手の剣を右手の短刀で叩き落とし、逆手に持った左手の短刀を相手の頸動脈に添えたのだ。
「そこまでっ!勝者フェリシエンヌ」
と言う勝負が6回続き、流石の元帥も降参した。
もう、ごぼう抜き状態である。
「私の負けだ。望みを聞こう……。あまり無理な望みは勘弁だ」
「一つ、これからアデリーヌの町に行ってジュリちゃんと話し合いをする事。
二つ目、ジュリちゃんの好きな様にさせる事。終わり」
「…それで良いのか?」
こうして、帰路に着いたのだった。
「全軍、領都アデリーヌに向け進軍!」




