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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第二章。
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第47話 進軍、目指すは再び。其の2。パンの女神。



 集落の西の外れに大きな家…おそらく村の集会所も兼ねて居るのだろう村長の家があった。

 アンリエットはそこに入って行った。

 領主就任前に一度来ているのだ。

と言うか、全ての集落を農地改革の為廻って居たのだ。


「お久しぶりです村長さん」

「おお、アンリエット姫様!相変わらずお美しい、フェリシエンヌ様もお美しく、眼福で御座います。

 お陰様で、大収穫で御座いました。早蒔きの小麦が終わり、今はじゃがいもの収穫で、大忙しで御座います」

「それは良かった。こちらは大隊長のフレデリト。

 書記(生徒会だけど…)のマリエルです。

 で、今回この村に来たのは……」

 アンリエットは掻い摘まんで説明し訓令書を見せた。


「なんと、そんな事が!」

「それで領軍の駐屯地として集落の空いてる畑…南の畑を貸して頂きたいのだが…」

「あーあそこはには、『ネズミムギ』の種を蒔いてまして…、そのぉ…」

「ネズミムギ?」

「ええ、南側を放牧地にしようと思いまして、牧草の種を蒔いたのです。何分、踏み堅められては…」

「おい!領主様自ら出向いての進軍であるぞ?無礼であろう」

「…こちらは頼み事をしに来たのです。集落の土地を借りる許可を得に来たんです。無礼なのは貴方です。立場を弁えなさいフレデリト隊長」

「……。」

「南の畑では無く村の東斜面を使って下さいませんか?あそこであれば川も近いですし」

「だが、あそこは見晴らしが悪い。南であれば…」

「フェリシエンヌ、マリエさん、大隊を東斜面にお願い設営も」

「分かったぁー」

 フェリシエンヌは騎乗し言付かった事を行いに行った。


「これは公務で在る。障害と成るなら…」

「それ以上、事を荒らげると更迭しますフレデリト大隊長」

「しかし…」

「それでは、お借りします村長さん」

「アンリエット様は本当にお優しい……」

 設営の始まっているであろう村の東斜面に向かう三人であった。


 野営地は斜面であった。

 大きな天幕は張れず、大隊長も一般兵用のテントに入る事となった。

 結局、この大隊は予備で在る。そこで十分と考えて居たアンリエットであった。


「にしても、凄いねんなアンリエットはん。やっぱ、王族ゆうんか、貫禄やなぁ。ゆう事、筋通ってんし大人の男もイチコロやん」

 テントの中でマリエルが大隊長とのやり取りの事を言うのだった。


「アンリちゃんはぁ暴君じゃぁ無いものぉ。あれは当然なのよぉ?」

「権力者ゆうんは強く出えへんと舐められるもんやでぇ。ケド、なんでやろ?優しゅうても威厳あるアンリエットやったら……、エエのか?」

「良いにぃ決まってるわぁ」

 そこに大隊長が訪ねて来たのだ。


「少しお話しが…」

「では、あちらで……」

 アンリエットとフレデリトは大隊長用(一応)のテントの前に座った。

 フェリシエンヌとジーン、マリエは何時でも出て行ける様、そのテントの影に入った。


「お話しとは?」

「先ほどは、出過ぎた真似をしました。謝罪致します」

「統治する上で大事な事が在ります。貴方なら分かるのではないですか?」

「強さと畏れでしょうか?」

「それも一部です。畏れとは慎みに繋がって居るんです。【強さ】の一部でも在るんです。

 【慈悲】。慈しみ、優しさです。厳しいだけじゃ嫌でしょう?

 【楽しさ】。創造性、遊び心です。生き甲斐や娯楽は必要です。

 統治者に必要な事はこの三つです。

 貴方の行った事は、『只、強さを誇示し、他者を思い通りにしたい』ってだけです。そんな人間は、統治の邪魔にしか成りません。

 領軍は領地の守護者です。領民を傷付けるものから守って下さい。自らが、傷付けるものに成らないでね。さっき村長さんにした様に……。それを守って下さいませんか?」

「はっ。必ずや領民の為の守護者として軍務に励む所存ですっ」


「こんな12歳の小娘に言われて、怒ら無いの?」

「いいえ、自分は、自分が情けない。そんな事も考えず。只、短略的に事を成そうと…。本当に私はバカだっ!」

「ところで、隊長さん、あたし忘れてたんですが皆さんに分けて持って貰って居るトウモロコシの粉を集めて下さいますか?」

「はっ!喜んで」

 集まったトウモロコシ粉の一部を使いパンを作るのである。

「明日の朝食は、今夜の夕食より美味しいだろう」そう言いながら粉を捏ねるアンリエットだった。


 翌朝、保存食とチーズを挟んだアンリエットのパンは好評だった。

 ジュリエット考案のトマトと唐辛子、山椒を使った甘辛いソースが良いアクセントに成って居たのもあった。


「姫様の食事で士気も上がるってもんだ」

「しっかし、トウモロコシのパンとはね」

「俺等の為にこさえてくれただ!おらあ姫さんの為なら死ねる」

「おお、我等が女神」

 駐屯地は平和であった。



◇◇◇

「あああー、アンリエット様が居ないと寂しいなー。ああ、僕の女神よぉ」

「ベルナール・ド・ベルティエ煩いです。鬱陶しいです。仕事なさい」

「してますよ?不平不満ばかり言ってると婚期逃しますよ?ペリーヌ・ル・ロワさん」

「それよりもう送ったんですか?ベルナールくん」

「送りましたよ室長。帝都へのお伺い」

「明日明後日には届くでしょう。これで領主様は後顧を憂いる事無く…、では無いですね。陛下からの『訓令書』待ちでした」

 アデリーヌのアンリエット領領主館は領主不在でも機能して居るので在る。


「しかし『嘆願書』の処理おっつか無いですよー。と言うか、これ、嘆願書に見せ掛けた恋文っぽくないですか?殆んど」

「もう二人程職員を増やして頂ける様『嘆願書』を書きましょう」

「良い考えです。ペリーヌさん!」


「こんにちわー出前でーす!」

「フルールちゃん、いらっしゃい。待ってましたよー」

 学食のフルール(15歳)が、領主館に来たのだ。

 毎昼午後1時に昼食を運んでいるのだ。


「室長さんは『野菜パスタ』銅貨六枚。ペリーヌさんは『日替り』今日はじゃがいもとトウモロコシパンのサンドイッチ。ベルナールさんは『鶏肉と玉子の焼きパスタ』以上です銅貨7枚。あ、お茶のポット、換えますね?食器は何時もの様に置いといて下さい。お茶の時間に来ますんでー。じゃまたーーー」

と、早口で言うと早足で戻って行った。


「フルールさん良い子だねー」

「良い子ですねー」

「ですねー」



◇◇◇

「アンリエット様の予想通り、バルサザーを通して隣国ワロキエに子どもが運ばれて居た形跡が有りました」

 ピカード村とその周辺の集落を調べて居た兵からの報告だった。

 進軍して四日目の夕方に成って居た。

 その数時間前、帝都からの連絡もあった。


「皇帝陛下より、国軍三個大隊ヴァレリー領領軍二個大隊は、28日早朝南ミュロ領領都バルサザーを包囲の予定との事。それとアンリエット閣下宛ての陛下の親書を預かっております」

「『事が終わり次第、ブレ城の我の執務室に来い』だって。何だろう?」

 その前に秋祭りが在るんだから…。アンリエットはそう言って、指示を出した。


「全軍、進軍!」

 目指すは、再びバルサザーで在る。



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