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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第二章。
46/89

第45話 未遂。

不快な表現があります。

苦手な方は読み飛ばして下さいませ。



 アンリエット・シルヴァーヌ・ド・ファテノーク。


 彼女の名を冠した『アンリエット領』は、普通の『男爵』の領地と比べ、広い。

 帝国のルイ皇太子は、帝都ブレを含む『ヴァレリー領』を治める『ヴァレリー公爵』であるのだが、その領地に匹敵する面積の『アンリエット女男爵領』だったのだ。

 因みに、皇帝陛下は、帝国を治めて居るが、自領もある。帝国直轄地である『南ミュロ』、アンリエット領の北にも直轄地があるが、そこを治める『ヴァレリー大公』でもあるのだ。


 『アデリーヌ学園』の北側に最初の計画で六棟の予定であった三階建ての集合住宅は住む家の無い貧民と新住民の為、14棟建設した。

 北区の集合住宅の西、旧西区の北側には貴族街が形成されつつある。


 中央区のアデリーヌ学園の南に在る広場に住んで居た子ども達は、北区の集合住宅で生活して居る。

 『幼年学舎』は、北区西に四つ、南区東に二つ、南区西に三つ建設した。

 領都アデリーヌの住民は、アンリエットの領主就任時、二万人そこそこがったが、半年で五万を超えていた。

 中央区北のアデリーヌ学園(領主館)前の大広場周辺は商業区と化している。

 広場から東方面の大通り伝いに商工ギルド等の各ギルドが並び、旧東門跡の広場南に遊興街が形成された。


 急激に人が増えると犯罪も増える。

 そこで、警吏と領軍を再編成したのだ。

警吏は300人居る。


 警吏の詰所は八つ在るのだが、その詰所を五つの拠点とした。と言うか警吏をアンリエット領軍に編入し2000規模の領軍とした。

 名称を『領軍警吏署』とし、南東、南西、北西、そして『中央領軍警吏署』を建設。

 更地であった北東部に領軍の修練場と北に兵士の宿舎を建てた。


 兵士は、乗馬の出来る者を優先的に採用、乗馬の出来ない者は修練所で練習である。

 警吏の詰所を20個配した。

 人口三千に対し1個の詰所である。

 詰所は三交代制で、三人の所員が常在する形…所員9名と所長1名の10人体制とした。


 犯罪が増えれば、罪人も増える。

 収監する場所、裁く場所、色々必要だ。


 当然、刑法等も無いと困る。

 エミール先生の伝で、法律に明るい学師を紹介して貰った。

 『エメリック・フロコン』と言う平民の先生、エミール先生の恩師だと言う方だ。

 それと商取引に強い学師先生も紹介して貰った。




◇◇◇

 犯罪は町の中だけの話しでは無い。


 朝食は、チーズと塩漬け肉、野菜を挟んだトウモロコシのパン。それと鶏肉の野菜スープである。

 今日も美味しそうに食べるナデージュ。

 ジュリエットは厨房で既に食べ終えて居る。


 フェリシエンヌが野菜の切れ端を口に放り込み、鍛練所(学園西側の空き地をアンリエット達はそう呼称している)に急いだ。

 最近、北西区に出来た…と言っても、学園の西に立ったヴァレリー邸から学園に通うルシール第二皇女が待って居るのだ。


 空き地に着くとルシールの他にもう一人、女子生徒が居た。

 ヴィクトリアである。


「この子 (ヴィクトリア)が、どうしても一緒にやりたい。って」

 ルシールはアンリエットに紹介しようとヴィクトリアを自分の前に出す。


「その一年生ヴィクトリア、ね。最近、生徒会室に来てて…、生徒会室に住んでるの。だから知ってる子」

「…え?住んでる。って何?」

「言葉の通り、住んでるの」

「ちょ、ちょっとヴィクトリア。どう言う事なんですか?」

「………。え、と住んでる」

「だーかーらー、どう言う事です?」


 ヴィクトリアは、それまであった『嫌がらせ』の事をルシール達に話した。

 話しを聞いた後、アンリエット達はヴィクトリアの寮の個室に行ったのだった。


 そしてそれは惨状だった。

 ベッドの天蓋は破られ、シーツには赤い塗料、下着も赤い色で汚され破かれて居た。

 教本は『性犯罪者の妹』『死ね』等と落書きされている。

 確かにこの部屋には居られ無い訳だ。


「…。ん、分かったぁ。領主館にぃ来なさぁいぃ」

「はぃぃ?」

 フェーの一言で、ヴィクトリアの居住地は決まった。


 その日もヴィクトリアは普通に授業を受けた。

 放課後、何時もの様に生徒会室で雑用…、書類を片付けたり備品を補充したり、皆にお茶を出すのも何時しかヴィクトリアの仕事に成って居た。

 三人で領主館の三階、アンリエット達の居住区に入ったのである。


 領主館に食堂は無い。

 だから、三食学食だ。

 アンリ達は、ジュリエットに倣い、35枚綴りの『学食回数券』を購入していた。


 大銅貨9枚で学食30食の料金で、35食食べられる優れ物だ。

 但し、昼は『日替りランチ』以外食べられ無い。


 昼食、最近生徒会関連で忙しいかったが、今日は学食で食べられる。

 アンリエット、フェー、ルシール、ジュリエット、ナデージュの五人とヴィクトリアがテーブルを囲んでの食事だ。

 ルシールは子羊の野菜炒めと白パンにコーンスープ。

 それ以外の五人は『日替りランチ』だったりする。

『日替りランチ』は、干し魚の野菜スープと大きめのじゃがいも二つ、その横にバターが添えられて居る。デザートにリンゴの蜂蜜漬け。


「ちょ、なぁんで皆『日替り』なのぉ?」

「財政ぃ難?」

「意外と美味しいんだよ?安いし…」

 仲間外れのルシールにアンリとフェーは各々言うのだった。


「って、公爵令嬢の貴女迄『日替り』ってどう言う事なのよ?」

「わ、私はアンリエット様と同じ物が良くて……」

「『様』って…、ここまで来ると、アンリエットの信望者じゃあ無くて『崇拝者』よねっ」

「はい」

「おろ?否定しないんだー?」

 ナデージュも呆れた。

 だが、真顔に成って問うナデージュ。


「んで、犯人は分かった?」

「エレーネ・ド・ラ・サールと言う子爵の子、それと『取り巻き』と言うのでしょうか、メラニーとメラと言う同じく子爵家の子です」

「(『犯されろ』とか…、ひょっとすると、どんどんエスカレートするかも…。)ヴィクトリア、教室でも一人に成らない様にして。それ以外では、あたし達が側に居るから」

 そうアンリエットは言ったのだが、教室で孤独なヴィクトリアの現状を知ら無いのであった。


 翌朝、ヴィクトリアも二年生の先輩に交ざって鍛練を行った。

 フェリシエンヌ付きの侍女、マリエの指導で『護身術』の基本の型を覚えた。

 こうして一週間が過ぎ、休息日を挟んだ翌日の1年1組の教室。



「最近、身の危険を感じたので、アンリエット先輩達に相談したんです。フェリシエンヌ先輩が『わたし達の所に住みなさい』と仰られて、だから一緒に住んで居るんですけど、何か?」

 エレーネに「何時もアンリエット先輩と一緒だけど、なんなの?」と聞かれたのだ。

 エレーネは「ふーん」と言ってヴィクトリアの前から去ったのだった。


 放課後、二階の1年1組の教室を出たヴィクトリアは、四階の生徒会室に向かった。


 三階の階段を昇ろうとした時だった。

 口を手で塞がれ、三階北西にある資料庫に引き摺り込まれた。

 上級生の男子だ。二人居るのが、分かった。

 両腕も押さえられたヴィクトリアは、後ろから自分を拘束して居る男子生徒の股間を蹴り上げ、そして懐に何時も入れているヴァレリー公爵家の意匠の印の小刀を逆手に持ち、男子生徒の右目を切りつけたのだった。


「ぅうわあああーーー!……。い、い痛いぃ痛あぁぁぁ、ち血が、血がああああーーー……」

「ひいいいぃぃぃ」

 切られた男子生徒は右目付近から出血し、それを見た男子生徒は失禁している。

 折角覚えた『護身術』は使えなかったのが心残りだったりする。


「で、『誰』に頼まれたのですか?お漏らし先輩。あ、流血先輩はご自分で医務室に行きなさいね(ニコッ)?」

 やはり、『エレーネ』だった。


 中庭のベンチで、男子上級生からの報告を待つエレーネ達三人。


「今頃、犯されてるのかしら?フフフ。ザマー無いわね」

「そうよね、生意気なのよあの子」

「アレって気持ちイイのかしらね?良かったわねヴィクトリアさん」

 そこに所々赤い塗料が付いたヴィクトリアが現れた。

 逆手に持った小刀にも塗料が付いている。


「今、サラサ先生が来ます。貴女方、覚悟なさい。それと、特別に警吏の方もいらっしゃる様です。アンリエット様、刑法もお勉強されて居て、貴女方のその後も御教授して頂けると思います。素敵ね?」

「え?」



 新一年生のエレーネ、メラニーとメラ。四年の男子生徒二人は即、退学に成った。


 四年生の男子生徒の一人は『ジャコブ・ラ・サール』。エレーネの兄で、ラ・サール子爵家の跡取りであったのだ。

 これで、跡目争いの後、子爵家は取り潰しと成るだろう。

 ジュリエットのテター家が、翌年子爵に陞爵するのは別の話し……。


「だけどね、ちゃんと言わないと私達には分から無いんだからね?ヴィクトリアさん」

 ナデージュはそう言ってヴィクトリアの小刀を返した。


「私、教室で一人ボッチだなんて、恥ずかしくて言えなくて…、でも、自分でやれた!」

「いや、『自分でやれた』って…、ああ言うの『過剰防衛』って言うんだからね」

「お一人、片目失明したのですわよ?」

「次は程々にします。それで、五人はどの様な罰を受けるのですか?」

「『程々』って…。まあ終わった事だし…、五人共、三年間の『鉱山奴隷』に成った。

『姦淫』は人殺しと同じか、それ以上の罪だと思うの。未遂だったケドね」



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