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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第二章。
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第44話 新一年生。




 学園長ノビューキとアンリエットの予想は当たってしまった。

 『アデリーヌ学園』に定員の四倍。『ミョスレ学園』には三倍の入学希望者が殺到した。


 学園を預かるノビューキが、不在だった事は『ミョスレ学園』の学園長も承知して居たのだが、合格者の人数をどうして良いのか困って居た。


 そんな時、ロザリー・ド・ヂュボア先生…、「貴族だからと同僚の苛めに会っていた」と言う先生が、


「昨年度のアデリーヌ学園の合格者の最低点数を基準にしてはどうでしょう?」

と言う提案をしたのだ。

 昨年度126位だった生徒…、最低基準にすると、『アデリーヌ学園』の合格者は189名。これでもまだ多いのだ。

 多い生徒は、『ミョスレ学園』へ…。とも考えたのだが、これをやると『ミョスレ学園』が、『アデリーヌ学園』の下方互換、完全に程度が下の学舎と言う事に成ってしまう。


 そこで、エミール先生は皇家の権力を振るうのだった。

 今使って居ない帝都の『旧アデリーヌ学園』。

 そこを『新ヴァレリー学園』と言う名にして、昨年度の最低基準、『アデリーヌ学園』も『ミョスレ学園』もその基準点と定員の許す135名を『アデリーヌ学園』。120名を『ミョスレ学園』の合格者としたので在る。


 合格基準を満たして居たアデリーヌの54人、ミョスレの42人を『新ヴァレリー学園』で受け入れる事にしてしまったのだった。

96名の『新ヴァレリー学園』の入学辞退者は、数名であった。


 そんな訳で、9月4日、入学式が始まった。




◇◇◇

 生徒会長の祝辞の後、答辞を行った新一年生の名は、『ヴィクトリア・ド・ヴァレリー』と言う女子生徒だ。


 元生徒会長で、犯罪奴隷に成った『ベルナール・ド・ヴァレリー』の妹だったのだった。

 『ヴァレリー公爵』の長女だ。


 答辞は、『長子である兄の愚行』を終始謝る事に時間を割いた。


「…兄は、女性を二度殺しました。一度は純血を殺し、二度目はお嫁に行け無く成ると言う人生を殺した。私は、兄もその犯罪も憎みます。ですから、私は、この学園の『治安委員長』に成りたいです」

 ヴィクトリアは、答辞を終え、泣きながら壇上を降りた。


「次は学園長のお話しです」

 何時もの様に程良く眠く成った頃、学園長の歌(お話し)は、終わったのだった。




◇◇◇

 ヴィクトリアには、憧れの人が居る。


 二年生の『黒銀の姫』こと、アンリエットだ。

 美しく、才女で、公爵位を持ち、隣国の王女であるのに帝国の男爵位を受け賜り、正義を成す王者の如き一つ年上の少女。

 そんなアンリエット姫に会いたいが為に頑張って『アデリーヌ学園』に入学したのだ。


 6日の始業式の翌日、7日から通常の授業が始まった。

「昼、学食に行けば『アンリエット様』を見掛けるかも知れない」

そう思ったヴィクトリアだったのだが、憧れの『アンリエット』は居なかった。


 授業の終わって午後3時、昇降口で作業をして居るアンリエットと女子生徒、そして男子生徒が一人…、まあ、ロイクくんなのだが、が居た。


 勇気を振り絞りヴィクトリアは、話し掛けた。


「…先輩、何をなさっているんですか?」

「ああ、これは各クラブの実績表。それと予算の分配表だよ」

「(あんたにゃ聞いて無ーです!)生徒会って、そう言う仕事もするんですか?」

「そう、どう言う活動をして居るのかの周知の為の実績表と、その実績に見合う予算」

「(だから、あんたにゃ聞いて無ーつってんだろーがぁ)アンリエット先輩は副会長ですよね?」

「フェーと一緒に副会長」

「今やってる事も副会長のお仕事ですか?」

「違うよぅ、アンリちゃんとぉわたしはぁ副会長だけど『広報』。ロイクくんは『会計』の仕事だよぅ?で、掲示板に貼る作業はぁ『庶務』のお仕事ぉ」


(え?何?この白い人。アンリエット様に瓜二つじゃない!この方が、アンリエット様の噂の『懐刀』、フェリシエンヌ様なのだわっ!そっかーだから『二粒の真珠姫』って呼ばれてるんだぁー)

驚きのヴィクトリアであった。


 この一年生が『ベルナール・ド・ヴァレリー』の妹だと気付いたのはフェリシエンヌがヴィクトリアと話して居る時だった。


「確か入学式で答辞を読んだヴィクトリアさん?ですよね」

「はい、そうです」

「あたしは、貴女の兄上様が行った数々の事を許す気は無い。只、それでも貴女の家族を間接的に失わせたのは、謝りたい」


 その少しの時間が長く感じたヴィクトリアであった。

 ヴィクトリアは涙を流して言うのだった。


「私達家族を破産に導いた。他の家族も沢山壊した。兄を許す事は一生無い」



(あー、重い話しに成っちゃったー。俺、しゃべん無い方が良さそう…)

 ロイクは空気の読める男子なのだった。



◇◇◇

 翌週、生徒会室に入り浸る新一年生が居た。

 ヴィクトリアである。

 生徒会長のアデラール・マルタンは、


「可愛い一年生が手伝ってくれるのだ。無下にするのはどうかと思う」

等と言っている内に生徒会室に半ば住み着いてしまったので在る。

 だが、それは仕方の無い事だったのだ。



 ヴィクトリアの朝は大して早く無い。

 起きて最初に行うのは、朝の換気だ。生徒会室の窓を開けるのだ。

 だが、ヴィクトリアは気が付いた。もう8時なのだ。 後、15分で学食の朝食時間が終るのだ。


 しかし、ヴィクトリアは慌て無い。「お昼迄我慢しよう」そう考えるのだった。そして、余裕を持って1年1組の教室に向かうのである。


 今ではヴィクトリアに話し掛ける級友は皆無であったのだ。



 数日前の事、教室でヴィクトリアに話し掛ける女子が居た。

 『イレーネ』さん。ラ・サール子爵の令嬢だ。

 『ラ・サール子爵領』は、アンリエット様のご友人ジュリエット先輩。『テター男爵領』と同じく『フォンテーヌ侯爵領』の領内に在る『子爵領』だ。


「ヴィクトリアさんアンリエット先輩ってどんな方ですか?良くお話しをされていると聞きました」

「…どんな方なんでしょう?私もあまり知ら無いの。私よりジュリエット先輩に聞いた方が良いのでは無いかしら?

 だって、ジュリエット先輩の家のテター男爵家って貴女のラ・サール子爵領と同じ侯爵領内なのでしょう?」

「どうしてあの様な『没落貴族』の三女とお話し出来ましょう。口を聞くのも嫌ですわ」

「(ああ、この方は自分の上か下かでしか物事を計れない方なのだわ)…私、アンリエット様やその周りの方々がどう言う方か、少し分かった気がします。少なくとも貴女とは違う考えの方です。

 平民や下級貴族、皇族や長命種のお友達もいらっしゃる素敵な先輩です」


 それからだった。ヴィクトリアの教本や机に落書きされる様に成ったのは……。

『性犯罪者の妹』

『貴女も犯されろ』

『死ね』

等々、寮の部屋も荒らされた。


 下着は赤い塗料で赤く汚され、刃物でズダズダに切り裂かれていたりしたのだ。


「部屋に居たら殺される」


 だから、夜は生徒会室に入る様に成ったのである。




◇◇◇

 今日もヴィクトリアの朝は遅かった。

 そしてそれは、本当に偶々(たまたま)だった。

 生徒会室は学園四階のアデリーヌ領主館の上に在る。西側の窓を開け、何となく窓から顔を出したその外で体術の鍛練に勤しむ先輩達が居たのだ。


 アンリエット様とフェリシエンヌ様、ルシール皇女殿下とジュリエット先輩、長命種のナデージュ先輩だ。


 それから暫く、先輩達の鍛練を眺める日々が続いた。

 ある時は、投げナイフ?(後で知ったのだが、『投擲術』と言うのだそうだ)乗馬術に槍術に剣術も行って居た。

 そして、『亜法』だ。

 アンリエット様の『亜法』は、『魔法』なのでは?と思う程の威力だった。一瞬で青白い炎が燃え素焼きの壺が弾けたのだ。


「わあぁー、ナディちゃんのパンがぁ弾け跳んだよぉ?」

「ゴメン、ナディー。パンはお昼に弁償する」


(アハハッ、先輩達楽しそう。私も強く成りたい……。)



 先輩達は、毎朝朝食の後、鍛練をして居るのだ。

 ヴィクトリアも鍛練に参加したい、と思った。



 だから声を掛けた。


「あのぉ、私も強く成りたいんです!」



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