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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第二章。
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第42話 温泉の町。其の2。魔の物。



 ハンターギルドから30名、領軍30とジュリエットとフェリシエンヌ、コレット達五人とジュリエット、ルシール皇女。それにジーンとマリエ、マリエの父親ゴーティエ、そしてエレオノールが、討伐隊である。


 『蜂』っと言っても凡そ我々の知る蜂とは異なった姿をして居た。


 複眼の付いた頭から角の様な毒針が50センチも延びて居るのだ。足は無数に生えて居て、ムカデの様に長い体躯なのだ。

 そんな異形の『蜂』と呼ばれる大きな虫は身体を切っても死なないらしい。

 頭を確実に潰さないと絶命しない生き物であったのだ。


「百年と言う時間を費やし人が住める様に成る前から生息して居た現住生物なのです。環境が変わったにも関わらず、生き残った生物が『魔獣』であり『魔物』なのです」

とエレオノールは言った。


(『現住生物』?『人が住める様に』とは、何の事?)

 アンリエットには、意味の分から無い事を叔母上は言うのだった。


 兎に角、狩った。

 気を抜いたら『死』に直結するのだ。


 何人かの領兵とギルドのハンターが、蜂に刺された。

 直ぐに宿営地の治療師に治療して貰って居たが、二人程麻痺が残った様子だった。


 コレットの隊五名は、逃げ惑う事の方が多かった様で、蜂を掃討した後、落ち込んで居た。

 奮闘したアンリエットとジュリエット、ルシールには大きな怪我は無かったのだが、


「気持ち悪うぅー」

「蜂の体液で緑色だよおー」

「お風呂入りたいですの」

 そんな状態だったのである。


 フェリシエンヌも奮闘したのだが、途中で傷が開き出血して居た。

 それでも、蜂を駆除し続けて居たので、貧血で倒れたのである。

 アンリエットはフェーに近寄り身体を起こそうとしたのだが、叔母上に止められた。


「自分で立ち上がりなさい」

フェリシエンヌにそう言うと、身の丈程の長剣を振り上げ、エレオノールは残りの『蜂』を仕留めに行くのであった。




◇◇◇

 ほぼ一日で、蜂を掃討したハンターギルドと領軍の混成部隊。


 死者は出なかったが、ハンター一人と兵士一人が現役から引退する事と成った。

 兵士は、事務方で仕事は続けられる様だ。ハンターの方はハンター稼業は出来なく成った。

 幸い、読み書き算術が出来たので、ギルドの職員として働ける様に計らったのだ。

 公爵の力である。


 その夜、ノォーミクの公爵邸では、領軍兵士とハンターの為の夕食会が開かれた。


 温泉街の楽団や高級宿の食事が持ち込まれた。

 止血したフェリシエンヌも参加した。


 勿論、アンリエットやジュリエット、ルシールもドレスアップしての参加である。

 コレット達は、参加を固辞した。


「我等は、ルシール殿下の警護です。とは言え、今日は全く役立たずでした。ですので、夜は本来の仕事に戻ります」

 殿下が戦って居る間、五人は逃げ惑って居たのだ。

 「悔しい以前の問題です」と言うのだった。


 楽団のワルツの調べにアンリエットは、想う。

(もう一月も先生とお話ししていない。エミール先生、今頃、どうして居るのかなあ?)


「またぁ、先生の事ぉ考えてるでしょお、アンリちゃん?」

「(ホントにどうしてこうも鋭いんだ?フェーは…)そ、そんな事、無い、よおー」

「アンリちゃんは分かり安いよねぇ」

「「ホント、分かり安い(ですわ)」」

 フェーに便乗してアンリエットをからかうルシールとジュリエットであった。


「ところで、コレ、蜂の頭じゃないですか?」

「蜂ッスよぉ。何でも酒に数日漬け込むと、毒が抜けるらしいッス。ジーン、食べてみてッス?」

「マリエが食べてみなさい」

「じゃあー、おとー様に食べさせてみるッス!」

 マリエの父ゴーティエは、愛娘のくれた食事を取った。


「ほお、中々、美味ではないか…………。うううぅ」

 ゴーティエはテーブルに突っ伏した。




◇◇◇

 それからは、平穏な日々が過ぎた。

 朝の鍛練も昼からの勉強も順調だった。

 魔物での実戦で、ジュリエットもルシールも剣筋に迷いは無くなった様であった。


 違ったのは、コレット達見習い騎士団だ。

 ルシール達の勉強は見る事が無く成り、朝から晩迄稽古に明け暮れていたのだ。


 常備の短剣も使いこなし、槍術も習い初めて居たのだった。



 8月19日安息日。

 領都アデリーヌに戻る日に成った。

 フェリシエンヌの怪我は完治したとは言え無いが、余裕を持っての旅である。

 ちょうど昨夜、ナデージュから手紙が届いて居た。


 『行き違いで無ければ、王都シルヴァーヌに8月25日到着の予定【ナデージュ】』

と言う内容の手紙であった。

 アンリエット達は、26日に王都入りである旨、王都、国王代理のライアンに手紙で伝えて在るのだ。


 2~3日、王都シルヴァーヌに滞在の後、領都アデリーヌに戻る事に成にだろう。


 短い間ではあったが、楽しい滞在であったとジュリエットは思った。


 ルシールは、フェリシエンヌの苛酷と思う運命を見た。

 どうしたら良いのか分からなかった。

 分かったとしても、おそらく、自分等ではどうしようも無いのだと言う事も分かるのだ。


(少しで良い。どんな事でも良いから、二人の力に成れたら…)

 そう思うルシール皇女であった。




◇◇◇

 ノォーミク湖の湖畔。


 渡し船の管理小屋のおばさんが、アンリエット一行の中にフェリシエンヌを見つけた。


「あら、フェーちゃん、今年は泣かないのかい?」

「おばさまぁ、言わないでぇ」

「あそっか、フェーちゃんもアンリ姫さんと一緒に帝国の学舎だったっけ?泣いてるフェーちゃん見られ無く成ったんだねぇ。おばさん寂しいわあー。

 来年も再来年もこれからずっと『夏の終わりの泣き声』が聞け無く成ったんだねえ」


 夏の終わりにアンリエットが王都に帰る日、フェリシエンヌの泣き声は、この湖畔の風物詩に成って居た。


 それが聞け無く成ったとは、何とも感慨深い物である。


「フェーちゃん…。フェリシエンヌ様も大人に成って行くんですかね?」

 とは、近くで魚網を投げて居た漁師の言葉だ。


「フェリシエンヌ様もアンリエット姫様もどんどんお美しく成って行きますなー」

「姫様が御即位されたら、フェリシエンヌ嬢ちゃんは、王都入りなんだろう?後三年で可愛いフェーちゃんが見れなく成るんだなぁ」

「ここも寂しく成るな」


 口々にそう言う漁師や船着き場の従業員であった。



 半日、船に揺られて対岸の船着き場に着いた。

 ここから王都迄、六日間の馬車の旅である。


「じゃあおじさまぁ、また、来年ですぅ」

「おう、フェー様も頑張ってなー。姫様、フェーちゃんの事、宜しくなー」

 気さくな渡し船の管理小屋のおじさんは、そう言ってフェリシエンヌを送り出す。


「愛されて居るのですわ、フェーちゃん。大人気ですのっ」

「フェーの所の領民は皆、そんな感じで、気さくなんだよね」

「そう言えば、ジーンさんとマリエさんの『隠れ里(自称)』って何処でしたの?」

 馬車に並走して居る騎乗のジーンに話し掛けるジュリエットであった。


「ノォーミクの町の北東の山裾の方です」

「もし、次回があったら案内するッスケド、行くのも修行ッスよー?」

「ところで、フェーちゃんは、その『隠れ里(自称)』で修行したのかしら?」

 ルシールは、ここぞとばかりに聞くのだった。


「いいえ、お嬢タンはアッシのおとー様と亡くなったおかー様。それと母君に鍛えられたッス。

 エレオノール様とその姉君…、前の女王様ってのが凄く剣術や体術に長けた方だったッスよ?」

と言う答えであった。




◇◇◇

 8月25日。

 サトウ伯爵領を抜け、ナデージュと学園長ノビューキは、王都シルヴァーヌにたどり着いた。


「やはり、二週間近く掛かりましたねナデージュさん」

「ですねー。でも往復、馬車じゃ無く馬で良かったです。思ったよりも早い移動でしたね学園長先生」


 白亜の門をくぐり抜け、二人は、常宿、と言う訳では無いのだが、『貧民街』の住宅へと向かうのだった。




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