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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第二章。
37/89

第36話 アンリエット領。其の1。男爵に成りました。



「北ミュロ領の領都ミョスレに新しい領主が来る。男爵位の領主らしい」

と言う噂話が、ミョスレに広まったのは、3月に入って間も無くの頃だった。

 二つある噂話の一つだ。



 領主館が取り壊され、そこに領館にしては大きな建物と幾つかの宿舎の様な建物が建ったのだ。

 建物の完成予定日は『3月34日の安息日』と立て看板に書いてあるが、何の建物なのかは一切明記されていなかった。

 只、施工主『帝国ルイ皇太子』とだけ書いてあるのだったのだ。


 もう一つの噂は、


「ここ領都の北は今年麦作は行わず『芋類』『豆』『トウモロコシ』等を。

 そして更に北側は『稲作』を始める」と言うものだった。

この噂にはもう一つの話が付け加えられている。


 「給金制を導入」と言うものだ。

 そしてそれを指示したのは、新しい領主の男爵だと言うのだ。

 少女数名と女性の一行が二週間程、各々の村長を説得して回ったらしい。



 実際、その『芋類』『豆類』『稲作』等の作付を行い始めて居ると言う。



◇◇◇

 帝都方面からの馬車が最近多い。

 普通の幌馬車も貴族様の馬車も…。と言うか、明らかに貴族の馬車が多かった。

 殆んどの馬車が元領館であった場所に停まる。

 新住人達の馬車なのだろう。


今では、北ミュロ領、領都ミョスレの町に見慣れぬ制服の子女が増えていた。

 そして、3月34日朝、御触れ書きが元領館の前に大きく貼られたのだった。



『3月35日朝9時。アデリーヌ学園学園長、並びに皇太子、新領主の挨拶がある。その他、交付事項あり』


 同様の御触れ書きは、町の要所に貼られた。


 翌、35日午前9時。大きな広場と成った旧領館前は大衆で溢れていた。

 住人の殆んどが集まったのではないか?と思う位に……。

 この領都ミョスレ、一年前の人口の半分に成って居たのだ。


 あの帝都襲撃の影響で貴族は逃げた。そして捕らえられ、学識ある者は逃げ、商人やその家族、従業員もいなく成ったのだ。


 今、町の人口は二万人前後と言ったところだ。



「学園長先生、今日『だけ』は、短くお願いします」

 生徒会長アデラールは壇上へ上がる当人にそう囁いた。「分かってます」と目で答えた学園長に不安を覚えるアデラールである。


「皆さんお早う御座います。この『アデリーヌ学園』の学園長ノビューキです。

 アデリーヌ学園創設120年以来初めての引っ越しです。これから長い付き合いに成る皆さんと共に新しい町の発展に寄与したい。と考えます。

 ミョスレと言う名も今後、新領都ア……「学園長でした。有り難う御座います。はいっ拍手拍手ぅー」


 いきなり司会のアデラールは学園長を弾き飛ばし壇上から強制退場させたのだ。

 危うく、皇太子殿下のセリフを奪う所だったのだ。


「次に帝国第一皇子ルイ殿下…、皇太子ルイ殿下の御言葉です!」

 なんだか「頑張って!」と応援したく成る様な生徒会長を尻目に、ルイ皇太子が壇上へと上がった。


 観衆の拍手喝采を片手で諌め話し出した。


「ルイだ。まず、皆忙しい中集まってくれた事に感謝する。そして、悪政続いたこの北ミュロ領を救う事無く手をこまねいて居た事実に対して皆に謝罪する。

 ……しかし今日本日より、皆は解放されるのだ!」

と言ったその直後、アデリーヌ学園校舎の屋上から大きな垂れ幕が下に向かって広がった。



『領都アデリーヌ』


「忌まわしい過去は過去だ。今日より皆は『領都アデリーヌ』の住民である!この名に誇りを持って気を引き閉め行動して欲しい!

 ……言い忘れたが、この字は皇帝陛下手ずから書かれた。皇帝名代ルイからは以上だ!」

 大歓声だった。


 だが、次に呼ばれた者を見た大衆は吃驚仰天。

 いや、噂では知って居た。知って居たのだが、実物を初めて見て驚いた。

 何故なら、そこに立っていたのは、美しい少女だったのだ。


 日に当たる部分が艶やかに光り虹を引いている。美しく大きな翠玉の瞳は海よりも深く、南国の遠浅の海のごとき光を湛え紅差す頬はとても愛らしい。人が理想の人を造るのなら…、いいや、人の造形を超えた存在。


 あれが、帝都で呼ばれる『理不尽姫』『殲滅姫』なのだろうか。


 そして、後ろに控える少女。顔が瓜二つではないか!違うのは粉雪の様な髪色、大海原と言うより湖面の様な碧玉の瞳。

 あれが噂の『白雪の姫』。と言う見掛けに騙されてはいけない『黒銀姫の懐刀』なのだと言う噂。


 『二粒の真珠』と渾名される存在なのだ。


 広場の大衆約二万は、一瞬で静まり返った。

 取り敢えず、書かれた肩書きを読み出した生徒会長アデラール。


「…えー、次は御存じの方もいらっしゃる事と思いますが……、隣国『ファテノーク王国第一王女』であり同国の『王太女』。『シルヴァーヌ領主シルヴァーヌ公爵』。『アデリーヌ学園生徒会副会長』であるアンリエット嬢の挨拶です」

 二万人の民衆は、未だ静寂を守って居る。



「えぇ、っと皆さん…」


ぅぅぅぉぉおおおおおおおおおお、わああああああああーーーー!!!!!

 話し始めたアンリエットに構わず、大衆の雄叫びが、歓喜の叫びが響いたのだ。


「異国の地で爵位を授かったアンリエットです。え…」

うおおおおおおおお!!!

「え、とこの度、女男爵と言う立場では……」

うおおおおおおおお!!!

「…」

うおおおおおおおお!!!

 一言喋る度、歓声が上がった。


 苛立って来た。アンリエットは苛立ったのだ。


「聞けいっ愚民どもおおおお!!」

 振り上げた右手を前に、歓声を制するアンリエット。


「あたしの言葉を聞け。そして自らを省みるのだ。

 この町が何故、この様な惨状なのか。この領が、何故、ここまで堕ちたのか。

 それは愚行極まり無い領主だけの問題か?否、民衆も愚民であったが為の結果なのだ!行動に出た者もおったであろう。

 だが、只現状を受け入れ、何もしなかったが為の結果だ。あたしが全てを助けると思うな!あたしは手助けはする。

 しかし、間違うな、救済はしない。只、手伝うのみ。皆は皆のやるべき事を成せ。その手助けをするのがあたし、新領主アンリエットである!以上」

 広場は、また静寂に包まれた。

 大衆に反発は、無かった。無かったが、不幸所以の逆恨みや怒りを覚える者も居たのであろう。

 広場を去る者が散見された。


「ではー、この新男爵領の名前を発表しまぁす」

 壇上にフェリシエンヌが上がり、いきなり宣言したのだ。

 途端に先ほどの垂れ幕の上に広がる垂れ幕。


「新しい名前は『アンリエット男爵領』です」




◇◇◇

「あれでは民の反感を買うのではないかアンリエットよ」

 心配顔のロリコン皇太子。


「ですが兄上、アンリさんにはアンリさんの考えがあるのでは?と思います。で、どうなんですアンリさん?」

 優しい声のエミール先生はアンリエットに話し掛ける。



「…やってまいました…………」

 大衆を怒らせる様な言い方を反省してなのか、恋する乙女だからなのか、真っ赤なアンリエットは小声で答えたのだ。

 新しい校舎の一階西側の全面に建てられた『領主館』の一室で、ソファーに掛ける三人と、他に帝国第二皇女ルシールとフェリシエンヌ、そして学園長。

 室内には「何で俺が…」と場違い感半端無いアデラール生徒会長。

 そして、最近ルシールの警護隊長に就任したリアム・レイノア。

 リアム隊長は、以前ルシールのファテノーク行きの警護として騎馬分隊を率いた隊長だ。


「まぁアンリちゃん、やってしまったのはしょうが無いからぁ先、進めよぉ?」

「…うん。そうだね」

 アンリエットは学園長を見て言った。


「まず、学園移転に伴い、学園生全てが僚生と成りました。寄宿舎五棟の管理と、当然、朝夕食の従業員の雇用をここの町で、とあたしは考えてましたが、進捗状況を…」

「一応、調理員はクリバヤシ親子二人…」


「クリバヤシってだぁれぇ?」

「クリバヤシさんはルカくんところの…「あぁルカくんかぁ」…で、前から住み込みの老夫婦ですが、やはり辞めました。『帝都で余生を…』との事で…。

 幸いこの町で食堂を営んで居た夫婦とその子供が調理員として入りましたので人員は確保出来てます」

「予定定数は7名では学園長?」

「エミールくん。その他に生徒がどうしてもやりたい。と…」

「何方です?」

「ジュリエットさんと二年生のアン=マリーさん、なんですよ。動機は二人共に『お金が欲しい』でした」

「「「ああー」」」と、納得顔のアンリ、フェー、ルシール。


「で、寄宿舎の管理職は四人雇用しました。今迄のオロール女史を含め五名確保出来てます。それと学園の管理は引き続き私が行うとして今後、保全補修要員が必要と考えていますので、順次、整える予定です」

以上。と学園長は自分の役割は終わり、と言った感じにお茶を啜る。


「町の状態を…、アンリエットさんに頼まれてここ一週間、見て回ったんですが…」

 生徒会会長を使い回すアンリエット。だが、脳筋のアデラールは気にしない、


「…空き家の多い北地区は、ほぼ貧民街と化していました。目測ですが、約二千人は住んで居る様子です」

「会長、有り難う御座います。でもこれで雇用の道筋が出来ました」

アンリエット御満悦っと言った顔に成っていた。




 皇太子「アンリちゃんが可愛すぎる」と呟く。



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