第35話 閑話。ある寒村にて。
「え。マリエさんって『マリアンヌ』って名前だったの?」
「そおッスよ。…。内緒ッス。色々と規制…、と言うかあー、決まり事が、あるッスよぉ」
と言う話しにナデージュは興味が湧いた。
単純に、内緒だとカッコいいから秘密にしている。ってだけなのだ。
「一人一個秘密を作るッス。里の掟ッスよぉ」
「…なんでそんな変な掟が有るんです?マリアンヌさん」
「そのマリエで良いッスから、マリアンヌは止めれ」
「じゃあマリエさん、掟ってどうして有るんですか?」
「昔の話なんスけど、掟の出来る切っ掛けは皆知ってるッス」
ナデージュの疑問にマリエは昔話を始めるのであった。
◇◇◇
女性は「この辺が良いか?」と言い、堀り始めた。
村の民は、山を掘る人に対し関心が無かった。
無かった。と言うより「何やってんだ?」と思う人が大半だった。
「調査は、ここらで良いですね」
ある長命種の男性、見た目二十代の男性はファテノーク王国のノォーミクの東、ファテノーク山脈の山裾に居た。
「ノブユキさん、この辺も大して価値は無さそうですよ?」
「あのね、山肌ちょっと掘っただけじゃ判んないでしょ」
ノブユキは、同道する助手の長命種の若者に言うと、山肌をスコップで掘るのだった。
丸一日、何ヵ所も掘り返したが、鉱物も岩塩も何も見付ける事は出来無かった。
その日、夕方近くにお世話に成って居る村の一件に戻ったノブユキ達二人は、家人に変な話を聞かされる。
「10日程前から、若い女が山を掘ってるんだ。何やってんのか気に成って見に行った村の若もンの話しだと兎に角、穴を掘っているンで、『こんな所掘ってもなンもねーぜ』って言ったンだそうだが女は『大丈夫。何か出る気がする』って言ってたって言うのさ。
ま、穴堀位どうって事無いだろう。って事で皆で放置してるんだ」
ちょっと興味を持ったノブユキ達は翌日、家人の言う『穴堀女』の所。ノブユキ達の調査していた所よりも2キロメートル程離れた山裾へ行ってみることにした。
特に何がどうと言う事も無い場所だった。
穴堀現場周辺は岩だらけの山肌。村との間に林がある。そんな場所だ。
違うのは、女が掘った岩石や土砂が山にの様に盛ってある。と言う事だけだった。
ノブユキの連れ、長命種の若者が掘り出して盛られた土砂や石を調べたが、やはり特別、鉱石も石炭も無く少しがっかりした顔をした。
「何も無いですよ」
「ああ、期待はして無かったですし…、そんなものですよ」
そんな会話をしながら穴堀女が地上に戻るのを待つのだった。
穴の奥底からのガンガン、カツーンカツーンと言う音が鳴り止み、暫くすると土砂満載の大きな車を押しながら若い女性が穴から出てきた。
「あんた等、ここで何やってんのさ」
土や埃にまみれ、真っ黒に汚れた女性がそこに居た。
張りのある胸や尻が健康的な女性のものであった。
「ああ、すまない。私は、ノブユキと言う者だ。君が何を掘っているのか気になってね。何が掘れるんだい?」
「んー。判んない。でも、きっと出る!」
意味の分からない事を言う女性だった。
「ところで君、何処からこの村に来たのです?」
「私は、この北、ナバルの村から来た」
「ナバル?…。鉱山奴隷のあのナバル」
「そう、ナバル村。そんな事ぁーどーでも良い。お前等何しに来たあ?」
怪訝そうな顔でノブユキ達を見る女性…、土まみれの女性は、この不審者の目的を盗みか、別の目的なのかを聞き出そう。そんな感じにノブユキには思えた。
「別に怪しい者じゃ無い。信じてくれとは言わ無いが、私達は、学術調査…鉱物の調査で、この辺を廻って居るんです」
「…調査。おい!教えろ!何か出たのかあー!?」
土まみれの女性は、ノブユキに掴み掛かる。「あー服が汚れるぅー」と言うノブユキの嘆きも構わず、兎に角「教えろ」の一点張りだ。
「昨日一日の調査ですが…」と前置きし、硫黄と硫化鉄位しか出なかった。硫黄鉱山としての価値は分からないが下手に採掘すると山裾の村に迷惑…、雨で硫黄が今迄以上に流されたら畑や川を汚す。
と言う事を懇切丁寧に説明した。
「……。そう。なんだー、鉄無いのかー。ああぁー、鉄無いの?金でも銅でも良いから欲しかったのにいー!私、工房欲しかったのおーーうぇえぇえぇぇ……」
泣き出してしまった土まみれの女性。
「まあまあ」とノブユキが慰め様と女性の頭を優しく撫ぜるのだった。
落ち着いた土塊の女性は、ノブユキの服でゴシゴシ顔を拭いてから言った。
自分は今迄、家族の鍛冶工房を手伝って来たのだ。自分も四人の兄達の様に鍛冶師に成るもんだと思って居たし、そのつもりだった。
成人したその日、「お前の結婚相手だ」と両親が家に男を連れて来た。
鋼鉄も無い。工房も無い。直ぐ家庭に入れと言う親しか居ない。
となれば、自分自身で鉄鉱を堀当て、鍛冶の工房を造るしか無い。と言う結論に至ったのだと言う。
「ならば、手伝いましょう」
とノブユキは言ったのだ。
同情したのだ。何となく、一族の掟っぽい話に感じたのだ。ノブユキ自信も一族に縛られて居るのだ。共感なのだろう。同族意識なのだろう。
そんな事を考えていると…
コココ…カタカタ…ッゴ!ガタガタガタ…ドドドドド…ゴゴゴゴゴゴゴ…
「「「なんだなんだなんだ」」」
地鳴りが響いたのだ。
ドバアアアアアアアアアーーーー……
そして、女性の掘った穴からは大量の土砂…では無い、最初は土色のそして乳白色のお湯が湧き出したのだ。
「先生、不味いですよー」
「うあっ!おお、お湯があああ!!」
お湯は山肌を勢い良く村に向かって流れた。
村手前の林は、既に温泉まみれ…温泉に林が浸かってる状態だ。
「君の工房の前に、この状況をなんとかしなければなりません!」
「…確かにそうですうー。私、名前はルシノさー、ノブユキ!」
ノブユキは、助手と彼女を連れ、村へと走ったのだった。
数ヶ月後、ノブユキはその女性と結婚した。
村は、只の寒村から、温泉の村に成った。
後に、この村は、温泉を一人で掘った女性の名前に因んで『ルシノ』と呼ばれる様に成ったと言う。
◇◇◇
「400年位前の話ッス」
「ちょっ、まてまてまて、マリエさん『隠れ里』とか『一人一個の秘密』の要素が今の話しに無いですよ」
「…あれ?本当ッスねぇ」
ツッコむナデージュにマリエは首を傾げる。
「それはあれです。ルシノさんが旦那さんに『四年間、私の名前を伏せて下さい。その代わりノブユキさんの身分も私は一生聞きません』って言う逸話からだと、そう教わりましたが」
ジーンが補足、と言うか、肝心な部分を省いたマリエに代わって答えた。
「2~3年で『強化種』のルシノさんは家族や婚約者から逃れられます。子を産み育てる時間は長くありません。短命ですからね強化種の人々は…」
「でも、そのノブユキって長命種の人、王国の学師って感じですよね?」
「そうなンス。村人全員知ってたっぽいッス」
「内緒でも秘密でも何でも無い、と思うのは私だけじゃ無いですよね?」
その後「ああ、そう言う事」となんちゃって『隠れ里』と言われる所以がこれなのだ。と納得するナデージュであった。
「ところで、『投擲術』とかはやっぱり、そのルシノって人が?」
ナデージュの疑問にジーンは「それはまた、別の話」と言うのみであった。
◇◇◇
「子が産まれ育ち、人生は走馬灯の様に移り変わる。そして子は子を産み育てる。…人と言うのは、儚い夢の様です」
一人学園長室で、物想いに心沈める学園長ノビューキであった。




