第34話 委員会。
寄宿舎の朝は早い。
井戸の水を汲み。顔を「ちべだ」と言いつつ、洗うナデージュであった。
「お早う御座います。フルールさん」
「おはようナディーちゃん」
「学食、広く成りましたね」
「やっとね。ところで、決戦?投票とか無く成ったって、他の生徒が言ってたね」
「そうなんです。ってか、アンリさんとフェーちゃん、副会長に抜擢されたんです。驚いたよ」
何となく何時もの朝だった。
◇◇◇
大方の予想通り、決戦投票は無く成った。
3月7日、週の始めの朝、授業の始まる直前にロイクは自分の席へ着こうとした。
「ロイクくん、ロイクくん」
愛しのアンリエットが、彼を呼ぶ。
「今日、放課後ね。付き合って欲しいのっ」
ニコニコ笑顔のアンリエットに「いいよ」と、平静を装い答えるロイクであった。
(し、し、心臓がばくばく言ってる。何か言ってる。何これ?春…なの、か?)
「試練なのロイクぅ…フフッ」
フェリシエンヌは呟いた。
放課後、アンリエット達は、新しい『生徒会室』に着いた。
「あれ?何、この展開…」
ロイクは困惑した。アンリエットさんと二人じゃ無い、事は置いといて、生徒会…。何だこれ?
扉を開けると、大男が居た。
190センチは越えるであろう厳つい男。上級生だ。
(俺、ピーンチ!どうする。どうしたら良い、考えろ考えろ俺。…いいや、考えるより感じるんだ俺!)
「ようこそ、生徒会へ。知ってると思うが、俺が生徒会会長のアデラールだ。君は…。何だっけ?」
先輩、自称頭が悪い。
「は?はい、俺ロイク、一年生です」
「実は、生徒会に『会計』として、入って欲しいんだ」
「え?いえあ。俺なんかじゃあ…」
と、ロイクが断る素振りだと判断したフェリシエンヌは囁いた。
「凱旋パレードで、私達を利用してた。小国旗、花吹雪用の紙。
それらで、儲けた…」
「勿論、喜んでっ!」
ロイクくんはなかなか状況判断能力が高いのだ。流石、商人の息子。
「彼を入れた5名が生徒会執行部だ。会長三年のアデラール・マルタン。副会長と広報、庶務兼務の一年のアンリエットとフェリシエンヌ。書記は、二年のマリエル・ド・ルブック。会計一年のロイク・モンダー。
で、まず、自己紹介だ。俺は、知っての通り5組だ。頭が悪い。だが基本は抑えたい。選民では無い、自ら掴む精神で 行きたい。
昨年帝国武闘大会クロスボウの部で三位だ。次は、副会長」
「副会長兼、広報と庶務のフェリシエンヌ・ド・ノォーミクですぅ。アンリちゃんの側近にしてぇ警護の担当ですぅ」
(…ええ、言っちゃったよおー。ぶっちゃけちゃったよう。言って良いのかあー)
ロイクは、薄々、ひょっとしたらアンリエットの守り刀がフェリシエンヌかも知れない。そう考えた事がある。
しかし、1組皆がそれを事実として受け入れて居る事は、暗黙の了解だったり公然の秘密だったりする。
「副会長。アンリエットです。広報と庶務を兼務する予定です」
「2年1組、ウチ、マリエルゆいます。文学部所属。よろしゅうお願います。じぶんらの事は知っとります。けったいな力の持ち主ゆうのも知ってますぅ。
ついで、言うとな、ウチはバランスやねん三年生と一年しかおらん生徒会やろ。二年生、入れんと、何かとカッコ付かんねん」
マリエル・ド・ルブックは、そう言うと「そう言うても字ぃ書くンは好きでっせ?」と言いながら座椅子を後ろ足二本で、ギコギコ揺らすのであった。
「自己紹介が終わったところで、早急に決めたい案件なんだが…」
「ひょっとしぃ、『監査』やね?」
アデラール会長の話しにマリエルさんが食い付く。
「そう、その『会計監査』の選出方法を考えなければ成らないんだ。立候補とか推薦、そう言う感じで選出したい」
アデラール・マルタンは「クラブ等の予算配分の監査を行う機関として『監督監査』を行う部署を創設する」と公約しているのだ。
「アデラール先輩、もっと良い方法があると思いますが?」
アデラールの考えにアンリエットは言葉を続ける。
「クラス委員と同じにするのが最善では無いでしょうか?」
「最善の根拠は?」
「簡単です。予算の必要なクラブ等とは関係無く、生徒会の息も極力関わり無い。そんな感じ、です。だって、クラス委員ですよ皆」
「委員会にするのは良い、として、委員長はどうする?治安委員長は選挙での選出だぞ?」
懸念は最も。アデラール会長は、とても慎重で律儀な人なんだなぁ、とアンリエットは思った。
「会長。図書委員長や雑務、医務委員長の選出方法と変わり無い。と考えますが?」
「それで、皆、納得するのか?」
「その辺は、心配おまへん。な?ロイくん」
いきなり振られるロイクだが、何か閃いたお顔で言った。
「え?俺っすか。…んんー、なんとか成りますよ。だって『クラス委員』なんですよ?」
一週間後、各委員会が開かれた。
各委員長が選出され、新しい『会計監査』委員会の創設とその委員長が選出された。
前学期の各クラブの備品や実績(馬術部なら飼育費や馬具の損耗等と大会出場の実績)等々をアンリエットとフェリシエンヌが調べ、それを元にロイクが、部費の編成を決めた。
と、同時に各クラブの大会実績の公表を広報としてアンリエットとフェリシエンヌがまとめ、書記のマリエルが文章化。
掲示板に実績と予算票を貼り出したのだった。
そんな感じで、新生徒会は活動を始めたのである。
◇◇◇
「南ミュロ領の混乱も収まりつつ有ります。ですが、北ミュロ領は、未だ乱れた状況にあります。食料の備蓄も残り少ないとの報告もあります。
ここは何か一手高じるべきでは、と…」
「確かに。宰相の言う通り…。フム、少し、試すのも良いかもしれん。彼女等に助力願うか?」
皇帝陛下が、とんでも無い事を言った。
他国の王女に領地を任せる。と言うのだ。
確かに、才女ではあり、天賦の才がある。と言っても過言では無い。
学園の成績も良いと聞く。軍の指揮采配にも長けて居る。しかし、12歳。
12歳なのだ。
「だが、しかしそれ即ち、国を切り売りする事には成りませんか?」
「それも一つの答えよ。今、北ミュロ領にとって、領民にとって、最も必要な物が何者であるか、それは『救世主』だ。
自分達を窮地から救ってくれる。かも知れない。そう思わせる人物が必要なのだ」
宰相の問いに皇帝は答えた。
この時、宰相閣下は「帝国の終り…。若しくは、何かの始まりなのか」と呟いた。
その思いは、実際当たりだったのかもしれない。




