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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第一章。
31/89

第30話 白亜の町の真珠。その3。


◇◇◇


 ナデージュの朝は早い。井戸で水を…。


「どちらにありましたっけ?」

「井戸はあちらですが…。姫様の御客人でしたね。御声を掛けて頂ければ、何時でも御持ち致しましたのに…」

 顔を洗いたいナデージュであったが、慣れ無い所…、お城で生活は返ってストレスが溜まる。と思ったナデージュ。


「有り難う。あっちですね」

と言い侍女の示した方へ向かった。


「あっちの方『貧民街』が過ごし易かった…。いや、ここが良い。」

(向こうは向こうで、人だらけで居心地悪かった。だけど、人の多いのが苦手だった私でも、学園は居心地良いね。やっぱり慣れかなあ?)

と考えながら時々「ちべたっ!」と顔を洗うナデージュであった。



◇◇◇


「お早う御座います。学園長先生。」

「お早う御座います。姫様。」


「冗談止めて下さいませ。」

「いや、なにね。宮廷務めも長かったですからね。」

 サトウの町で、ナデージュに聞かせた話しをアンリエットにも聞かせた。


「帝国、当時は王国ですね。そこに行く前は長くこの国で学師をされてたのですね。」

「ええ、それは長い時間いました。時々、何年か旅に出ましたがね。只、王家に子どもが生まれた時は何時でも見に来てました。12年前の今頃も、フェリシエンヌさんの生まれた時もね。」

 そして、食堂へ入った。



 朝食にナデージュが来ていない。また、迷ったのだろう。

「お探ししましょうか?」

「お願いします。ジーンさん」


「では、行って参ります…――――――いらっしゃいました。」

 扉を開けて探しに行ったジーンは、扉を閉めかけ、言ったのだ。どうやら直ぐそこまで来ていた様子。


「いやー、まだ朝食に早かったんで外、散歩してたら分からなくなっちゃって…」

「ナデージュさんもう食べましょう。私はお腹が空いてます。」

「そう言うワケです。ジーンさんマリエさん。座って下さい。」

「って、姫さぁ、今日もわッチ等もいっしょに、ですかい?」

 フェリシエンヌが「お友達だものぉ」と、アンリに代わって答えた。



 ここ食堂は、侍従用の食堂である。

 王族との食事等、宮中の王族の食堂では行え無い事なのだ。


 アンリエットとフェリシエンヌはせっかくナデージュや学園長が居るのに、お話しする機会を少なくしたくは無かったのだ。


「この手紙なのですが、誰に頼めば良いんですかね?」

「ヨルドの森宛てですね。学園長先生。」

「はい。今回は行けませんから…。」

「あたしが預かります…。でも、届くの春先になっちゃいますね。」

 アンリエットが案ずる事では無いが、この冬中に届かなければ意味が無い筈だが、学園長は特に気にしていない様だった。


「それと、今日明日は王都に滞在している各、部族長に会おうと思ってるのです。」

「何をしに…、あっ、夏ヨルドに行くからですか?」

「その通りです。ナデージュさん。君も一緒に行くんですよ?」



◇◇◇


 ファテノーク王国には、羊の群れと共に移動する集団が数多く居る。

 要するに『遊牧民』である。

 夏に成ると、冬の間南の低地(とは言え海抜600メートルはあるが)のサトウ領の南や隣のタクァーシィ領から北上して来るのだ。


 余談だが、アデリーヌ学園には、アンリエット達以外にもファテノーク出身の生徒が居る。


 結構揶揄られている。

 遊牧民の国と言う認識から『羊臭い』とか『家無し』『羊追い』等と。

 有名な二人のお陰で、口に出して言う者は居なくなった様ではあるのだが…。


「ええー、私も行くんですか?」

「君も行かなきゃ困りますよ?夏の旅。」

「夏は学園に居たかった…っと言いますか、私、行く必要無いですよ?」


「行きなさい。これは必要な事なのですよぉ?」


 いきなり横から別の声。「母の声だ」一瞬アンリエットは驚いた。

 が、母では無く、叔母様だった。


「おかぁ様ぁ」

「全く君は…、毎回気配を消して寄るのは止めて下さい。」

 学園長が言うと「ホホホッ」と微笑むエレオノールだった。


「そうねぇ、王妹…今は違うけど、王妹命令だと思いなさいね。必ず行く事。」

「お言葉ですが、私は『ヨルドの森』の人間です!だから…………。」

「だから命令なの。貴女は王国の一自治区の民。臣民なのですよ?」

「諦めなさいナデージュさん。私が彼女に頼んだんです。君に命令してくれ、ってね。」


 ナデージュは学園長に言われたからか、分からないが、もうそれ以上何も言わなかった。


 だが、朝食はおかわりをしてた。



◇◇◇


「初めまして、ヨルドの森のノビューキ、と申します。わざわざお時間を私共の為にお取りさせまして有り難う御座います。」

 学園長は、そう挨拶をし、相手と握手を交わす。

 「学園長って『ノビューキ』って名前だったんだー」と後ろに立っていたナデージュは「初めて知ったわ」と呟いた。


「こちらこそ初めまして。ジル・ラルド・ド・ジローと言います。羊飼いが、子爵位を賜っている。なんて恥ずかしいんですが…。まあ立ち話しもあれなんで、中へ…」



 通された部屋には椅子が無く、替わりに、羊の毛皮の大きな敷物があった。そこに、テーブルが載っていた。


「森のお人が、いらっしゃるとは…。。。」

と言いながら、敷物へ座るよう手で促すジルさん。


「『ノビューキ』と言う名は、変名、ですね?」

「ハッハッハッ!わかりますかー?」


 「まいったなー」とノビューキ学園長。

 首を傾げハテナ顔のナデージュ。


「私の数代前の人が大変お世話に成ったんですよ。お嬢さん」

「そうなんですか?学園長先生。」

「いやはや、昔の話しですよ。…ところで、その『ジロー』と言う家名。その方の名前ですよねえ。懐かしいですよ。」

 しみじみ、そう言う学園長はちょっとだけ、遠い眼差しをした。


「…で、お願い、って程の話しでは無いのですが…。」

と話しを切り出す学園長であった。



 『遊牧民』とは言っても、冬の拠点を持つ集団も多く、実は『爵位持ち』も多かった。

と、言うより族長家は『爵位持ち』なのだ。


 冬の拠点は、部族が大きく成るに連れ、そこに定住する者も現れ自然と村や町へと拡大して行くのだ。

 そして、その地域を治めるに至るのだ。

 爵位を継ぐのは族長の末の子息だ。

 そして族長に成るのは長男である。


今日会ったジル・ラルド・ド・ジローは族長なのだが、先代に男子が居なかったりすると『爵位持ち』の族長に成る事もあるのだ。


 サトウ伯爵やタクァーシィ侯爵も、そう言った『遊牧民』の末裔だと言われている。

 ファテノーク王家も同様に遊牧民の末裔。と言われているが、定かでは無い。と言うより違う。と言う話し。


 因みに、この国では彼等を遊牧民では無く『商隊(キャラバン)』と呼んでいる。

 夏の間、彼等は緑豊かな草原を放牧しながら羊や商品を売り、町村で仕入れた物を他の町村で売買しているのだ。

 商隊と言うのも強ち嘘では無い。


 ナデージュと学園長は、その後も族長や族長家の貴族を何件か廻った。

 夕方に成る頃、城へ戻ったのだった。



◇◇◇


「今日は、とても良い勉強をさせて頂きましたよ」

「へえぇ、どんな勉強ぉ?」

「あたし達は、知ってる筈だよフェー?」

 

 夕食には、国王代行のライアンも同席していた。

 ライアンだけでは無く、ノォーミク夫妻も一緒だった。

 各部族長やその領主等の情報を求めて夕食の席を設けたのだ。



 非常に緊張しているナデージュであったが、食事を始めて緊張も解れたのだろう。彼女が最初に話し始めたのである。


「旅って基本的に川の側を辿る様に進むじゃ無い?」

「あぁそっかぁー、川の無いトコ、井戸探しながら行ったねえぇー。」

「あの時程、肝の煮えたこと事は無かったな、エレオノール…。」

「貴方、『腸が煮え繰り返る』と『肝が冷える』が混同してますわ」

「それってどう言う…」


 「あの日…」とライアンは語る。


◇◇◇


 アンリエットとフェリシエンヌが六つの夏。フェリシエンヌが王都に来た翌朝の事であった。

 フェリシエンヌの寝室に置き手紙が有ったのだ。


『可愛い子には旅を出せろなので行きます。』

 フェリシエンヌは勿論、アンリエットも姿が見え無い。直ぐに女王陛下に事を伝えたマリエに陛下は言った。


「そう言えば…、昨日、フェリシエンヌに『ぬしよ、相も変わらず愛やつよのう。アンリと同じに!旅にでも出るか?』と言ったが…。それかの?」

 とりあえず、騎兵二個小隊とジーン、マリエは後を追った。

 だが何時、城を出たのか、何処へ向かったのかが分から無い。


 結局、発見したのは、三日後の夕方。どこかの部族の宿営地であった。


 火を囲んで楽しそうに肉串を頬張る二人を見た騎兵の一人は「まあ、そんなこったろうとは思ってたさ。あの姫さん等は…」と言うのだった。皆を代弁して。

 だが、旅は終わらず。ジーンとマリエ、騎兵二人が付き添い。アンリエット達の旅の目的地へ向かった。


「結局、何処まで行ったんです?」

「ずうっと北の氷河迄。機会があればナディーも連れてくよ!」

「氷河って、ずっとずうっと北の果て迄真っ白。白鹿や白兎、白熊白ブタ、綺麗だったねぇ、アンリちゃん!白ブタ美味しかったし。」

 それは楽しそうにアンリエットの顔を見るフェリシエンヌだった。


(けれど、そんな日は来ないのだろうな。この先ずっと…。)

と予感めいた思いをするナデージュであった。


 この夜から、この方々と食事をするの当がたり前に成ってしまうナデージュであった。




「何だかぁ、近いウチにお客さんが来るぅ?」

 何気に勘の鋭いフェリシエンヌであった。


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