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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第一章。
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第2話 二粒真珠は新入生。


◇◇◇


 東の空が夜の色から朝の色に変わるにはまだ少し早い頃、少女と青年は丘の上にたどり着いた。

 群青の空に浮かぶ星々のその輝きは失われつつあるようだ。


 ふと、青年は丘の斜面に視線を向け目を見開いた。そこに広がる夥しいソレに驚愕したのだ。

 それは『人間』だった。

なだらかな丘の斜面を隙間無く埋め尽くすそれは、只の人間ではなく―――『只の人間』の定義が何なのかは判らないが…、兎に角、彼等は明らかに軍隊だったのである。

 皆同じ鎧を着込んでいるのだ。これが軍隊ではなくてなんだと言うのだろうか。

 その数は、おそらく五千は下らないだろう。

 丘の西にある帝都ブレから完全に死角だ。

 だからこその物見小屋である。あるのだが…………。


 ついさっき、丘の帝都側の登り口にある厩の前で年配の厩番に挨拶をしている。馬もそこに居たのだ。物見の兵士が丘の小屋に居ない訳がない。


 この丘から二時間も掛からず軍兵は帝都に到達してしまうだろう。そうなってしまえば、この事態を知らない帝都はどうなってしまうのか、考えずとも明らかだ。にも拘わらず何故、知らせが無い?居るはずの見張りの兵は何をしているのだろう。


 青年は小屋の窓から中を窺う事にした。

 小屋の中には丘の斜面にいた軍隊と同じ鎧の兵士が三人立っている。その足下の床には、帝国の軍服を着た新兵であろう少年が仰向けに倒れていた。 真っ赤に染まった床の上にである。


「…!」

 青年は後ろに立つ少女を庇う様、彼女の側へ後退る。ゆっくりとゆっくりと…。

(だが、小屋にいる兵士から逃れることが叶ったとしても、斜面の軍隊からは逃れられない。帝都にこの事を知らせなければならない。しかし、そのための方法は…、何か良い方策を考えなければ、何か思い付くことは!)

 青年が思案に繰れるその十数秒で、遂に丘の上に敵兵が到達してしまっていた。


 少女を守る様に青年が向きを変えた瞬間、見えていた景色や少女の形がグニャリと歪み始め視界が一瞬暗転した。


「ああぁ…、やっちゃった。先生、そろそろお日様が昇りますよー。」

 何事も無かったかの様な顔……はしていない。寧ろテヘペロッ的な顔の少女が彼に話し掛けて来る。

 エミールの視線の向かう東の空の下にはもう夥しい数の軍隊は無く、そこにはいつもの緩やかな丘の斜面とその向こうに流れる川が見えるだけだった。


 もうすぐ日が昇る。


「…あの時のドレスと同じ色だなぁ………。」


 あの日見た東雲色を纏った二つの宝玉を思い、東の空を見上げ青年は目を細めるのであった。



 9月14日午前5時30分。帝都の東の丘の出来事である。




◇◇◇

 9月7日、朝。

 アデリーヌ学園昇降口横に貼り出された横長の大きな掲示物を見ている真新しい制服を着た…服に着られた。と言った方がよさそうな沢山の生徒と付き人然の人々。


 皆が見ているのは、クラス表。新一年生の1組~5組迄のクラス割りだ。

 皆、自分の名前を探しているのだ。


「こぉーんな大きな紙ぃ、初めて見たぁ!」

「合格発表の時も見たじゃないの。製紙技術が進んでるから羊皮紙使わないわけよね、帝国って!」

 少女は、御付きの一人に振り返り「名前、見つけた?」と尋ねた。


「見つけるも何も、こう人が多くては前に出られません。仕方ありません。このジーンめ突貫します!」

「ンじゃ、マリエも参るッス!」

 少女達の御付き二人、言うが早く人混みに割り込み、あっと言う間に掲示版の真ん前に立っている。

 掲示板の中央から左右に別れた二人は、掲示板を見ながら各々がほぼ同時に端へ到達…かと思う間も無く、少女の側に戻っていた。


「ありましたか?」

「あったッス。姫さぁと嬢タン二人共1組に名前がありましたっ」

「「キャアァー!いっしょだねーっ」」

 濃い灰色の銀髪と白雪の髪の少女二人は抱き合ってびょんぴょん跳ね上がるのであった。

まあ尤も、この二人の入学選考試験の成績は、主席と次席なのだから、、、組が一緒なのは、当然だ。


 そんな二人を微笑ましいと言った眼差しで見詰める二人の従者。周りにいた何人も同じ様な眼差しで眺めるのだった。

 そして幾人かは呟くのだ「何て見目麗しい双子なのだろう」と……。


「今日は付き添ってくれて助かりました。有り難う。」

「ホント、ありがとうジーンさんマリエ姉ぇ!」


「嬢タン姫さぁー、礼なんていいッスよー」

「マリエ!言葉遣い悪すぎる。って今更か?姫様、御嬢様、礼には及びません。寧ろ誉れと…。では、我々はこれにて!」

「ンじゃ、頑張って!昼頃また馬車で迎えに来ますんでー。」

お傍付きの各々の侍女のジーンとマリエは学園の門へと歩いて行った。


 「言葉遣い直しなさいと、幾度も幾度も」マリエは何時もの様にジーンに頭を叩かれながら…。



◇◇◇

 

始業式での答辞も無事に終え、1年生のクラスから順に担任の先生が紹介され、各学年の学年主任の短い挨拶があった。


 最後に背は高いのだが、「どこかの商人」と思ってしまう程、お腹の膨よかな見た目50才位の男性が壇上へ上がった。

 学園長である。

 学園長の長い挨拶が程好い睡眠効果を発揮される頃「学園長、時間が!時間がっ!」と言う年配の男性教師に幾度か指摘され挨拶はようやく終了した。


 学園長が代々の先輩等に『壇上のローレライ』と呼ばれている事を新一年生が知るのはもうちょっと先の話である。


 始業式が終わり皆、各々の教室に入って行った。


 教室の席は特に決まってはいない様で、皆各々好き好きに座って、好き勝手に近くの者と雑談していた。


 第四皇子の言うところの『白黒真珠』のアンリエットとフェリシエンヌも1年1組の教室に入り、空いてた真ん中の列の席に前と後で座っていた。


 何となく四方八方から複数の視線を感じる。緊張もあってか、二人共話しもせずに俯いたままになっていた。

それにファテノーク出身者を揶揄する風潮がある。とも聞く。だから、成るべく大人しくして居る二人である。


 まあ、席取りに少々出遅れた為、空いていたのが教室のど真ん中の席だったと言う訳だ。只でさえ目立つ二人、視線が気になる。

 暫くして教室の前の出入り扉から二人の大人が入って来た。


「は~~~い、そろそろ静かにしなさ~い」

 黒髪を肩口で真っ直ぐに切り揃えた背の高い女性が言った。

 彼女は始業式で紹介のあった『サラサ先生』だ。

 まだお喋りに夢中な子ども達にサラサ先生の声は届かない様子。聞こえた生徒の幾人かは真っ直ぐ姿勢を正した。


「…おいっ静かにしろっつたろぉがあぁー!」

――――――シィィィン…………。


 静寂が世界を支配したら、きっとこんな感じに成るのだろう。とアンリエットは思った。


「今日から君達はこの学園の生徒だ。それ相応な振る舞いを心掛けるように」

―――。

――――――。

「…ぉぃ」

――――――――――――――。

「おぃ、返事っ!」


――――――はい!

「よしっ!まずは…、ほれっ!」

 座ったままのサラサ先生が、男性のお尻を蹴ったのだ。何人かの生徒が瞠目して驚いている。


 「まぁ、はしたない。」と言って口に手を当てているのは、どこかの貴族令嬢だろうか。

蹴られた男性が話し始めた。


「えーと、今日は初日なので皆さん各々、名前を覚える意味でも自己紹介を行います。私達も覚えたいですし…。では御願いしますサラサ先生…」

「―――オマエからやれ!」

「あ、はい。」

 男性教師が自己紹介を始めた途端、皆驚いて騒然となってしまったのは、無理はなかった。


 「まぁ、何時もの事だし…」と言う顔をして自己紹介を続けた。

男性教師は『エミール』と名乗った。


 あの第四皇子だったのだ。

アンリエットとフェリシエンヌはここで初めて顔を上げた。皆が驚きの声を上げた数秒後である。

 そして数秒遅れで驚いたのだった。


 『エミール皇子』はクラスの副担任で歴史と地理、政治の教師だと言った。次にサラサ先生は「始業式でも言ったが」と前置きしてクラス担任であり算学、理学が担当科目である事を言ってこう続けた。


「もう何人かの生徒が知っている事と思うが、学年ごとに優秀クラスがある。2年生以上は学年末の試験で振り分けている。オマエ等1年生は入試の結果で振り分けられた。

 つまり入学式で『答辞』をやったそこのアンリエットは……「サラサ先輩、敬称を敬称…」…さんが居ると言う事でも分かる通り、我が1組が『優秀クラス』って事だ。ついでに言うと隣の2組は次点のクラスだ。以下3組から5組は学力的にバラバラにバラけたクラスだ。んで、この1組だが…、他のクラスより平民が多い。1組2組の『優秀クラス』には当然、特待生が全て入っているからだ。

と言う訳で、皆同じ学友として接しろ。将来1組の平民が2組出身の貴族の子女に仕える事や、その逆もあるんだ。身分で差別したり見下してンと足元を掬われるぞ?

 あと、基本、四年間クラス担任と副担任は変わらない。が、何名かの生徒は他のクラスと入れ替わる。6月の後期期末試験の結果が来年度…、つまり2年時のクラス分け試験。と言う事だ。次年度以降も1組でいたいのなら頑張る事を奨める。

 以上だ。質問は後で受ける。ますはオマエ等の自己紹介だ。廊下側、前からだ。。。」


 半数の生徒が自己紹介を終え、教室の真ん中のアンリエットの番になった。

 緊張はしていたが、それでも生まれついての『王女』である。立ち上がると同時に緊張の無い威風堂々…と、そこまででは無いが,何気に王者の風格が漂うのだ。


 そう幾人かの生徒とフェリシエンヌは感じるのだ。

 そして、何人もの生徒が「ハッ」と息を飲むのであった。


 美しい。等と一言で表す様な美しさでは無いのだ。

 どうしてこの様な少女がこの世に存在するのであろうか。

 思わず見とれる生徒達であった。


「初めまして、ワタクシは、ここ帝都より東に位置する『ファテノーク王国』から参りました『アンリエット』と申します。四年間、宜しく御願い致します。特に得意な事はありません。好きな事は食べる事です。特に、特に新鮮な海のお魚が食べられるのが楽しみです。あたしの国には海が無いので、凄い楽しみです。

 だから帝都に来るのを楽しみにしていました。」


「帝都も海から遠いゼ、せいぜい塩漬けとか干し魚位…」

「発言は手を挙げてから、って言ったよな?」

「は、はいっスイマセン…」

サラサ先生に注意されて、前を向くロイクくん。彼はアンリエットの前の席なのである。


「お魚…無い、のですか…、以上で終わりです」

と、座りかけるアンリエット。

「はいっ」「ほいっ窓際後ろの金髪ロールさん」


「…、質問、宜しいかしら?…。アンリエット殿下、確か『プラティーヌ』が、殿下のセカンドネームだったとわたくし、記憶しておりますの。お国の王都若しくは、大公領と同じ名前なのには言われが御座いますのかしら?」

「あたしの国の王都の名称をよく御存じですね。金髪ロール?さん。あたしの一族で何代かに時々、見事な銀の御髪の御子が生まれるのだそうで、で、始祖様…あ、最初の女王様です。がそう言う御色で『プラティーヌ』って御名前だったので…。で、そう言った御髪で生まれた御子に『プラティーヌ』と名前の何処かに…ってセカンドネームに付ける慣わしなんです。でも、あたし何かが名乗って良い名じゃ無いです。鈍色でぇ、鼠色か濡れカラスの様って言われたり……」


「黒銀で良いと思うよー」

「綺麗よ」

「日に当たった所、虹色になってる!」「かわいいじゃん「それ俺が言おうと「素敵だ」「イイ!」


「うッサーーーーーーーイ!静かにせんとアンリエット私が持ち帰るぞ。イイか?」

「「「「えええーーーッ」」」」


「はいー、静かにするぅ、質問無けりゃ…」

「はいっ」

「おぅまたか金髪ロール」

「先生。その『金髪ロール』は止めて頂きませんかしら?」

「仕方無かろう。オマエ、まだ自己紹介して無ぇし……」

「……。まあ先生の仰る通り、かもしれません、わね。では、あの、質問ってのでは無いのですが、お魚でしたら、海のある町から早馬で2~3日で届くと聞いておりますの『亜法』で冷やしながらの配送なら可能だと。アンリエット殿下の御用を御訊きになられる商人ならいらっしゃるのではないかしら?」


「ちょっ待て、金髪ロール。ここは『何処』でここでのオマエの『立場』はなんだ?オマエの『回り』に居るのは誰だ?」

「はい?はい、ここはアデリーヌ学園の1年1組の教室ですわ。わたくしは、生徒ですわね。で、わたくしの回りに学友………。

 も、申し訳御座いませんでしたっ。わ、わたくしが勘違い、間違っておりました。共に学ぶ学友でしたわ。学友に上も下もありませんのでしたわ。。。誠に、誠に申し訳ありませんでしたっ!」


「まあ、初日だし……、だからと言って良いワケじゃねぇぞ。この学園に於いて、身分や立場の上下は無え。そりゃー学業卒えて各々が仕事に就いたら身分とか立ち位置があるがよー。だが、学生なんだ。学業上の上下はあるが、共に切磋琢磨する友達だ。気兼ねする関係じゃ息が詰まるし、何より、皆で同じ立場で過ごさねーと楽しくねーだろう。それに、な。交友関係は大人に成っても便利だぞ?

 アタシの横に立ってンのが『殿下』じゃなくてアタシの同僚で後輩だ。と言う事実もあるのだ。」


――――アッハッハッ!と笑う担任先生の横に立っている皇子先生は、両の眉をハの字に曲げて苦笑いしている。


「ま、と言うワケだ。次、白…「ハイッハイッ!」えーと、ルカちゃん…くん?」

「えぇっと、お休みの日は何をして過ごしていますか?僕は魚釣りしたりですけど、アンリエットさんは?」

「お休みの日は、本を読んだりしています。最近はフェーと、あ、フェーって後ろの子…と、最近頂いた『オセロ』ってゲームしたり…」


―――――ぶふおぉぉぉーーーーーっ!

 何人もの学友達と教壇にいる先生二人が盛大に吹き出したのだった。


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