第28話 白亜の町の真珠。その1。
◇◇◇
「アンリちゃん、出番だよぉ」
「うん。さぁ行こうフェー」
1月1日の午前8時、アンリエットはお城のバルコニーに立っていた。中央広場に集まった国民に、新年の挨拶をする為だ。
王都の住民が大勢集まっているが、中にはわざわざ遠い町村から「一目」見たいが為に王都に来る人もいる。
「皆、寒い中集まってくれた事に感謝する。今年も、昨年よりより良い良い年に成る様、私ライアンは、皆を助け努力する事を約束しようぅ!新年おめでとう!」
――――――わあああああああああああーーー!
国王代行のライアンが挨拶をすると、集まった市民が歓声を上げた。
「皆さん。明けまして、おめだとうございまーす!今年もよ…」
―――――わああああああああああああああーーーー!!
姫様だあああああああ!「姫様ああああっ」「姫さぁまあぁ!」
「アンリエットさまあああ」「ひーめーさーまあああ!」「お帰りなさあーーーい」「お戻りになられたのですね」「アンリエットひめええええ!」「勉強大丈夫ですかあああ」
大衆の歓声は遠く迄響き渡るのだった。
◇◇◇
「お!早速、姫様挨拶したようですね」
宿の主人はそう言って、壁の絵をみた。
幼いアンリエットの姿絵だ。
「この歓声ですか?…ここ迄聞こえるモンなんだ」
宿の食堂で、彼女にとっては遅い朝食を取っていた。そして、彼女はアンリエットの人気を良く知っている。
ここは、サトウの町。急勾配の山途中にある町だ。
東方向の道を登れば、夕方には王都なのだが…。
「どうします学園長先生」
「馬車を置いて行くのは勿体無いので、馬車で行きますよ」
「ひょっとして、出来る限りゆっくり行きたい、とか考えて…」
「私はもう覚悟は出来ています。森に戻るのを恐れていないです」
学園長は『ヨルドの森』に帰る予定なのだ。
現在、ヨルドの森は、長老会が自治を行っている。と言うのも、森の長、族長が亡くなったのだ。
数十年も前だが…。
12月のある日、手紙が届いた。ナデージュ宛の手紙だ。
『冬期休暇、族長の子息を連れ、森に帰って来なさい。(フェルディナン)』
父からだった。
心当たりの無いナデージュであったが、同じ『長命種』の学園長を訪ねた。そして尋ねた。
「え?それ私ですけど。」
と言う訳で、ヨルドの森に帰る途中なのだ。
「とっくに族長決まっていると思っていましたよ。だって、ずっと私、帰って無いですから…」
「どうして帰らなかったんです?」
「それは…」
と学園長は続けた…。
前は王都シルヴァーヌで学師兼講師をしていた学園長。
休暇を利用し、たまたまヴェレリー王国の王都へ物見遊山。
そんな時、昔馴染みの学師に会った。
その学師に「ここに高等学舎を立ち上げる予定がある。手伝って貰えまいか?」と言われ、手伝った。
そして『ヴァレリー高等学舎』が設立された。
初代学舎長がは若い皇女アデリーヌ。馴染みの学師と一緒に教鞭を取っていた学長。アデリーヌは結婚退職。次に学舎長に成ったのが学園長だった。
それから三年後、専門分野毎に特化した『上級学舎』の設立に合わせ、名称を『アデリーヌ学園』に改めた。
「じゃあ学園長先生、百年以上学園長なんですね。」
「当時は忙しくてね。講師も少なくて私も掛け持ちで講師をしてたんだよね。」
「当時は忙しかったのかも知れませんが、それでも『ヨルドの森』に帰ら無い言い訳に、全く成っていませんよ?学園長。」
◇◇◇
『黒薔薇』。下賜ったお印、アンリエットは、黒いバラをあしらった意匠のメダル。
一方のフェルシエンヌは、『薄雪草』。
白雪のフェーによく似合う白い『薄雪草』を模した、ペンダントヘッドであった。
「フェー、可愛いね。よく似合うわ。真っ白な薄雪草だなんて、…………あたしってば、泥んこの髪だから、『黒薔薇』なのね?」
「花言葉、………『決して滅びる事の無い愛』と『貴方は私だけのもの』である。そして、『憎しみ』。………どうだ?なんか、カッコいいであろうアンリよ!?」
なんだ、この厨二っぽい発想はっ!?
―――――我が国王代理閣下、王配ライアン、アンリエットの父であった。
「お父様、冗談は、程々にして頂きたい。」
「なにおう。冗談など父が言うものかっ!『黒薔薇』!良いではないかっ!カッケーではないかっ!」
(ああー、お父様のやる事成す事。いちいち咎めても仕方の無い事と知ってはいますが、………『お印』に関しては、些か、…………。)
◇◇◇
「…とても有難いお話しではありますが、今は勉励する身ですので…」
息子と婚約を決めて欲しい。と、直接的な言葉は使わ無いのだが、そう言っているっぽいのが多い。
と、言うか、直接的な物言いであった。
「アンリエット姫の借金も肩代わり、出来るのですよ?」
っと、…………。
「我が娘、王女アンリエットに、借金の問題は無い。第一、ミュロの難民問題は、このファテノーク王国の抱えた問題。救済事業に関しても同様であった筈。貴卿の物言いは、些か、不敬が過ぎるのでは、」
絶対の信頼と、絶大な臣民の人気のあるアンリエットで、ある。だが、一部、…………貴族にとってアンリエットは、『借金公女』と侮られる存在でもあった。
特に、年若い貴族の子女に、…………で、ある。
実はそれが嫌でヴァレリー帝国の学園に行った。と言うのも理由の一つだった。
ここに、ファテノーク王国に帝都にある『アデリーヌ学園』の様な学舎が出来たのは僅か15年前。それまで幼年学舎は有った。ヴァレリー帝国がまだ、王国だった時から有ったのだ。
辟易していたアンリエットの横には、もっと辟易したライアン国王代行が座っている。
「もう私は嫌に成ったよ。もっとこう意義のある話しは無いのか?言葉の節々に弱みとみて婚約を匂わせる様な事ばかりだ。」
「旦那様、少し休暇と致しましょう。」
侍従長アレクセイは言うが速く応接室を出、少し離れた控えの間に入り「まだお時間が掛かります。今暫くお待ち下さい」と言って、舞い戻る頃には、ティーワゴンを押して入室していた。
「アンリ、ちょっと一息つこう。アっくんもジーンちゃんも一緒に」
暫し寛ぐのだった。
◇◇◇
1日は新年の挨拶とそれに付随した式典。まあ平たく言えば、集まった民衆に扇の広場で挨拶をしたのだ。
午後は南東区の貧民街の慰問。
今日2日は、貴族等々の挨拶と新年パーティー。
フェリシエンヌも辟易中だった。
今彼女はパーティー会場にいる。
よく知らない貴族の子息がダンスに誘うのだ。
何人かお相手したが、必ず「今度、お食事でも…」と言われる。
「食事なら今してんだろぉ」と呟くのだった。
「アンリちゃん、早く来ないかなぁ」
そんな時、お城の侍従がやって来た。
アンリエットとフェリシエンヌに来客だと言う。
「少しお暇いたします」と言い大広間を退出し通された部屋に入って行った。
「やあ、九日ぶり!」
「どうしたのぉナディちゃん!学園長さんもぉ。」
事の経緯を話す学園長。
「へぇー、そぉんなんだぁ。そぉだ。今日は泊まっていかないぃ?」
「もう泊まる所は決めて来たんです。なかなか良い所ですよ。只ですしね。」
と学園長は言った。フェリシエンヌは首を傾げた。
が、良い事思いついたのか、…フェリシエンヌは悪い笑顔に成って居た。
◇◇◇
個別の訪問客を捌いたファテノーク父子。夕方にパーティー会場へ入った。
壇上で紹介を受け、会場を見渡すと一角に人集りが出来ている。
フェーも大変だな。と一瞬考えたが、どうやら違っていた。
女性が集まって居るのだが、中心付近にだがやはりフェリシエンヌもいる。
「私のぉ婚約者ですぅ!」
「名を、ロイクと言います」
どう見ても男装の麗人、ナデージュだった。
学園長もキチンした服装だ。本当の親子に見える。美しい容姿で有名な長命種ならでは、だ。
(お腹のお肉はアレだけど、学園長先生もカッコいい。)
アンリエットはそう思った。
驚愕し、ワナワナ震える男がいる。
ユーゴ・ド・ノォーミク公爵閣下だ。
(誰だアイツ、何処の馬のクソだ。いや、骨だった。じゃ無い。聞いて無い。尋ねて無いし、いやいやいや、そうじゃ無い。どうしよう妻に聞こう…)
そう、愛しのエレオノールに尋ねる閣下。
「あらあらまあまあ!」
妻は微笑んで居た。
ナデージュとフェリシエンヌが踊る。ため息とぐぬぬと言う音が聞こえた。
侯爵は放心中。
「なかなか絵になりますねぇ。」
「学園長様、お久しゅうご座いますぅ。」
「会うとは思っていましたが、相変わらず気配がしませんね。エレオノールさん。」
学園長とエレオノールは旧知だ。と言ってもエレオノールとエステルの幼い子どもの頃の話しだが…。
「良い子を育てましたね。君も随分大人に成った。」
「もうおばさんです。学園長は老けましたわね?」
「はっはっ。私達に取って誉め言葉です。私もやっと老成出来そうですよ!……。話しは変わりますが、君の子もだが、特にアンリエットさん、かなり色濃く混じっていそうですね。」
「やはりそう思われます?姉様が、まさかアンリちゃんの成人を待たず亡くなると思いませんでした。ですが、予備の私があの二人を導きますわ。偶然なのか、私も予備を生めましたし…」
「…そうですか、まあ、そうでしょう。私も後継を見つけたのでね。これは必然でしょう。」
そしてここに復活した閣下が来た。
「エレオノール!その男は誰だあああっ!」
「ユゴちゃん、学園長さんよぉ?」
「あ、お久しぶりです学園長殿。娘がお世話に成っております!」
「君は変わらないねえ。」
二人共にアデリーヌ学園の卒業生だったりするのだ。
そして、同級生。
―――――あああああああああああああああ!!!
アンリエットに虫の様に群がる男子男性に衝撃的光景が!あの男が抱きついたのだ。
しかもアンリエットからも抱きついているのだ。
「わあー本当にお姫様みたいだね!久しぶりアンリさん!」
「うん、久しぶり。あ、新年おめでとう!」
「忘れてた。おめでとう新年。…無いね。」
「…うん。ナディーもね!」
「「……………。」」
何が無いのかは兎も角、同級生三人が集まったのである。




