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黒銀の王女の物語。  作者: 潤ナナ
第一章。
29/89

第28話 白亜の町の真珠。その1。


◇◇◇


「アンリちゃん、出番だよぉ」

「うん。さぁ行こうフェー」


1月1日の午前8時、アンリエットはお城のバルコニーに立っていた。中央広場に集まった国民に、新年の挨拶をする為だ。

王都の住民が大勢集まっているが、中にはわざわざ遠い町村から「一目」見たいが為に王都に来る人もいる。


「皆、寒い中集まってくれた事に感謝する。今年も、昨年よりより良い良い年に成る様、私ライアンは、皆を助け努力する事を約束しようぅ!新年おめでとう!」

――――――わあああああああああああーーー!

国王代行のライアンが挨拶をすると、集まった市民が歓声を上げた。

「皆さん。明けまして、おめだとうございまーす!今年もよ…」

―――――わああああああああああああああーーーー!!

姫様だあああああああ!「姫様ああああっ」「姫さぁまあぁ!」

「アンリエットさまあああ」「ひーめーさーまあああ!」「お帰りなさあーーーい」「お戻りになられたのですね」「アンリエットひめええええ!」「勉強大丈夫ですかあああ」

 大衆の歓声は遠く迄響き渡るのだった。



◇◇◇


「お!早速、姫様挨拶したようですね」

 宿の主人はそう言って、壁の絵をみた。

 幼いアンリエットの姿絵だ。


「この歓声ですか?…ここ迄聞こえるモンなんだ」

 宿の食堂で、彼女にとっては遅い朝食を取っていた。そして、彼女はアンリエットの人気を良く知っている。


 ここは、サトウの町。急勾配の山途中にある町だ。

 東方向の道を登れば、夕方には王都なのだが…。


「どうします学園長先生」

「馬車を置いて行くのは勿体無いので、馬車で行きますよ」

「ひょっとして、出来る限りゆっくり行きたい、とか考えて…」

「私はもう覚悟は出来ています。森に戻るのを恐れていないです」

 学園長は『ヨルドの森』に帰る予定なのだ。


 現在、ヨルドの森は、長老会が自治を行っている。と言うのも、森の長、族長が亡くなったのだ。

 数十年も前だが…。



 12月のある日、手紙が届いた。ナデージュ宛の手紙だ。


『冬期休暇、族長の子息を連れ、森に帰って来なさい。(フェルディナン)』

 父からだった。

 心当たりの無いナデージュであったが、同じ『長命種』の学園長を訪ねた。そして尋ねた。


「え?それ私ですけど。」

 と言う訳で、ヨルドの森に帰る途中なのだ。


「とっくに族長決まっていると思っていましたよ。だって、ずっと私、帰って無いですから…」

「どうして帰らなかったんです?」

「それは…」

 と学園長は続けた…。


 前は王都シルヴァーヌで学師兼講師をしていた学園長。

 休暇を利用し、たまたまヴェレリー王国の王都へ物見遊山。

 そんな時、昔馴染みの学師に会った。


 その学師に「ここに高等学舎を立ち上げる予定がある。手伝って貰えまいか?」と言われ、手伝った。

 そして『ヴァレリー高等学舎』が設立された。

 初代学舎長がは若い皇女アデリーヌ。馴染みの学師と一緒に教鞭を取っていた学長。アデリーヌは結婚退職。次に学舎長に成ったのが学園長だった。

 それから三年後、専門分野毎に特化した『上級学舎』の設立に合わせ、名称を『アデリーヌ学園』に改めた。


「じゃあ学園長先生、百年以上学園長なんですね。」

「当時は忙しくてね。講師も少なくて私も掛け持ちで講師をしてたんだよね。」

「当時は忙しかったのかも知れませんが、それでも『ヨルドの森』に帰ら無い言い訳に、全く成っていませんよ?学園長。」



◇◇◇


『黒薔薇』。下賜ったお印、アンリエットは、黒いバラをあしらった意匠のメダル。

一方のフェルシエンヌは、『薄雪草』。

白雪のフェーによく似合う白い『薄雪草』を模した、ペンダントヘッドであった。


「フェー、可愛いね。よく似合うわ。真っ白な薄雪草だなんて、…………あたしってば、泥んこの髪だから、『黒薔薇』なのね?」

「花言葉、………『決して滅びる事の無い愛』と『貴方は私だけのもの』である。そして、『憎しみ』。………どうだ?なんか、カッコいいであろうアンリよ!?」

 なんだ、この厨二っぽい発想はっ!?

―――――我が国王代理閣下、王配ライアン、アンリエットの父であった。


「お父様、冗談は、程々にして頂きたい。」

「なにおう。冗談など父が言うものかっ!『黒薔薇』!良いではないかっ!カッケーではないかっ!」

(ああー、お父様のやる事成す事。いちいち咎めても仕方の無い事と知ってはいますが、………『お(しるし)』に関しては、些か、…………。)



◇◇◇


「…とても有難いお話しではありますが、今は勉励する身ですので…」

 息子と婚約を決めて欲しい。と、直接的な言葉は使わ無いのだが、そう言っているっぽいのが多い。

 と、言うか、直接的な物言いであった。


「アンリエット姫の借金も肩代わり、出来るのですよ?」

 っと、…………。


「我が娘、王女アンリエットに、借金の問題は無い。第一、ミュロの難民問題は、このファテノーク王国の抱えた問題。救済事業に関しても同様であった筈。貴卿の物言いは、些か、不敬が過ぎるのでは、」

 絶対の信頼と、絶大な臣民の人気のあるアンリエットで、ある。だが、一部、…………貴族にとってアンリエットは、『借金公女』と侮られる存在でもあった。

 特に、年若い貴族の子女に、…………で、ある。

 実はそれが嫌でヴァレリー帝国の学園に行った。と言うのも理由の一つだった。

 ここに、ファテノーク王国に帝都にある『アデリーヌ学園』の様な学舎が出来たのは僅か15年前。それまで幼年学舎は有った。ヴァレリー帝国がまだ、王国だった時から有ったのだ。


 辟易していたアンリエットの横には、もっと辟易したライアン国王代行が座っている。


「もう私は嫌に成ったよ。もっとこう意義のある話しは無いのか?言葉の節々に弱みとみて婚約を匂わせる様な事ばかりだ。」

「旦那様、少し休暇と致しましょう。」

 侍従長アレクセイは言うが速く応接室を出、少し離れた控えの間に入り「まだお時間が掛かります。今暫くお待ち下さい」と言って、舞い戻る頃には、ティーワゴンを押して入室していた。


「アンリ、ちょっと一息つこう。アっくんもジーンちゃんも一緒に」

 暫し寛ぐのだった。



◇◇◇


 1日は新年の挨拶とそれに付随した式典。まあ平たく言えば、集まった民衆に扇の広場で挨拶をしたのだ。

 午後は南東区の貧民街の慰問。

 今日2日は、貴族等々の挨拶と新年パーティー。

 フェリシエンヌも辟易中だった。

 今彼女はパーティー会場にいる。


 よく知らない貴族の子息がダンスに誘うのだ。

 何人かお相手したが、必ず「今度、お食事でも…」と言われる。

 「食事なら今してんだろぉ」と呟くのだった。


「アンリちゃん、早く来ないかなぁ」

 そんな時、お城の侍従がやって来た。

アンリエットとフェリシエンヌに来客だと言う。

 「少しお暇いたします」と言い大広間を退出し通された部屋に入って行った。


「やあ、九日ぶり!」

「どうしたのぉナディちゃん!学園長さんもぉ。」

 事の経緯を話す学園長。


「へぇー、そぉんなんだぁ。そぉだ。今日は泊まっていかないぃ?」

「もう泊まる所は決めて来たんです。なかなか良い所ですよ。只ですしね。」

 と学園長は言った。フェリシエンヌは首を傾げた。

 が、良い事思いついたのか、…フェリシエンヌは悪い笑顔に成って居た。



◇◇◇


 個別の訪問客を捌いたファテノーク父子。夕方にパーティー会場へ入った。

 壇上で紹介を受け、会場を見渡すと一角に人集りが出来ている。

 フェーも大変だな。と一瞬考えたが、どうやら違っていた。

 女性が集まって居るのだが、中心付近にだがやはりフェリシエンヌもいる。


「私のぉ婚約者ですぅ!」

「名を、ロイクと言います」

 どう見ても男装の麗人、ナデージュだった。

 学園長もキチンした服装だ。本当の親子に見える。美しい容姿で有名な長命種ならでは、だ。


(お腹のお肉はアレだけど、学園長先生もカッコいい。)

 アンリエットはそう思った。


 驚愕し、ワナワナ震える男がいる。

 ユーゴ・ド・ノォーミク公爵閣下だ。


(誰だアイツ、何処の馬のクソだ。いや、骨だった。じゃ無い。聞いて無い。尋ねて無いし、いやいやいや、そうじゃ無い。どうしよう妻に聞こう…)

 そう、愛しのエレオノールに尋ねる閣下。


「あらあらまあまあ!」

 妻は微笑んで居た。


 ナデージュとフェリシエンヌが踊る。ため息とぐぬぬと言う音が聞こえた。

 侯爵は放心中。


「なかなか絵になりますねぇ。」

「学園長様、お久しゅうご座いますぅ。」

「会うとは思っていましたが、相変わらず気配がしませんね。エレオノールさん。」

 学園長とエレオノールは旧知だ。と言ってもエレオノールとエステルの幼い子どもの頃の話しだが…。


「良い子を育てましたね。君も随分大人に成った。」

「もうおばさんです。学園長は老けましたわね?」

「はっはっ。私達に取って誉め言葉です。私もやっと老成出来そうですよ!……。話しは変わりますが、君の子もだが、特にアンリエットさん、かなり色濃く混じっていそうですね。」

「やはりそう思われます?姉様が、まさかアンリちゃんの成人を待たず亡くなると思いませんでした。ですが、予備の私があの二人を導きますわ。偶然なのか、私も予備を生めましたし…」

「…そうですか、まあ、そうでしょう。私も後継を見つけたのでね。これは必然でしょう。」

 そしてここに復活した閣下が来た。


「エレオノール!その男は誰だあああっ!」

「ユゴちゃん、学園長さんよぉ?」

「あ、お久しぶりです学園長殿。娘がお世話に成っております!」

「君は変わらないねえ。」

 二人共にアデリーヌ学園の卒業生だったりするのだ。

 そして、同級生。

―――――あああああああああああああああ!!!


 アンリエットに虫の様に群がる男子男性に衝撃的光景が!あの男が抱きついたのだ。

 しかもアンリエットからも抱きついているのだ。


「わあー本当にお姫様みたいだね!久しぶりアンリさん!」

「うん、久しぶり。あ、新年おめでとう!」

「忘れてた。おめでとう新年。…無いね。」

「…うん。ナディーもね!」

「「……………。」」



 何が無いのかは兎も角、同級生三人が集まったのである。


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