第26話 真珠、冬至の夜に。その5。
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冬至の夜に、二人はダンスを踊った。
「僕の誕生パーティーでは踊りませんでしたが、貴女の誕生日には踊れました。お誕生日おめでとうアンリエットさん。」
(キュンッって、胸が言ってる。)
「あ、…ありがとぉ…、ございます。アンリは嬉しいです…。」
曲がゆったりと流れ、小さなアンリエットの手が優しく握られ、エミールに背中を抱かれて居るのだ。
(ああ、大きく暖かい手、優しく包む先生の手)
曲調が早くなり、そして終わった。二人は互いに礼を取り別れる筈だったが、アンリエットは呼び止められた。
「今日、アンリエットさんの御父上が御出と聞いてます。案内頼めますか?」
一瞬、躊躇する必要も無いのだが、躊躇した。そのウチ次の曲が始まった。
近くで立って居た二人は、またダンスを踊り出すのだった。
「兄上方、あのシスコンが妹以外で二曲も踊ってるよー!」
マティスが言うと、二人の皇子ルイとオーギュストは「おおおー!」と感嘆の声を上げた。
「この国をどの様に感じました?隣国の姫君」
初めて…。厳密には初めてでは無いが、初めてお姫様扱いを先生に受けたアンリエットは、幼き日より課業を受けたダンスを只、身体が覚えているまま踊り、思考した。
「識字率は高い…と思います。幼年学舎に通う子どもは多いですよね…」
「そう、だね。続けて…」
曲調は平坦な調で流れて行く………。
「町は大きく、おそらく移動する商隊、個人の旅人には他の国と比べ、良い所だと…。」
「続けて下さい。姫様の貴女が言いたいのはその後なのでしょう?」
徐々にテンポが上がる。ダンスも合わせて激しいものになる。アンリエットは皇子に合わせ激しく雄々しく。
「大きな町には貧困があり、小さな村は労働力が少ない。だから、幼い頃から労働力と、扱われている。」
「続けて…。。。」
「どちらも詐取される事に慣れている。そして気付く事に目を瞑るっている。」
「…そう。でも、それな姫の故国と変わらないのでは?可愛い姫。。。」
曲は終盤に向かい更に激しさを増す。
「…。そうです。ですが、違いが有ります。規模です。帝国は貧富の差が…。」
「アンリエットさん。そろそろ中盤の休憩です。移動しますね。」
と、アンリエットを二階へと誘導するのだった。
「おお。我が愛しき愚弟よ姫を手込めにし乳、、、父上に婚儀の相談か?」
「兄上、怒りますよ僕でも。冗談は止めて下さい!」
「しかし冗談では無く、そなたの後ろの御仁は真っ赤だぞ?」
からかうルイに、益々真っ赤に成るアンリエットであった。
◇◇◇
「アンリエット、待ちかねたぞ。そちらは?」
ダンス会場の上。大人達のパーティー会場にアンリエットの父は居た。
「我が愚息、エミールだ。」
なんと、皇帝陛下とアンリの父は歓談していたのだ。
「初めまして、アデリーヌ学園で教職に就いていますエミールと申します。」
「おお、すると殿下がアンリエットの先生、と言う事ですか!これは大変お世話に成っております。私がこの子の父、ライアンと言う者です。お見知りおきを!」
と手を出し握手した。
「はっはっ、まだまだ頼り無い我が愚息だ。だが、我は期待しておるのだ。今丁度、そのアンリエット嬢の話しをライアン殿と話していたのだ。学園ではどうなのだエミールよ?」
「そうですね。彼女アンリエットさんは、非常に優秀な生徒です。期末試験も首位でしたし…。それに、気遣いや細かい配慮も行える子です。例えば、混雑する食堂で、皆の手本に成る様な席の座り方を行ったり。そして率先したのでは無いと思いますが、農村や商家の子、他種族や貴族の子女とも仲良くしてますね 。毎年新入生は二から三ヶ月位ですが、特権階級や大商人の子女が平民の子女を見下し、隅に追いやる。と言う風潮が続くものです。
が、彼女のお陰で、早くにそんな風潮は消えていましたね。」
「おお、それは相当な御子であるなライアン殿よ。あの混乱時の即断な采配と言い、我は益々気に入った。」
「あの内乱の鎮圧、ですね父上。」
「その、如何な事で?」
「それがな…。」
と皇帝は経緯を話した。
北ミュロの帝都侵攻。学友の家族の救出、それに伴う事件の解決への協力。
最近では、学園内犯罪摘発の切っ掛けに成った行動。等々…。事細かく話した。
「…。マジで?」
ライアン国王代行は、見事に放心した。
「と、そうとうな功績を上げておるのだ。誇って良いと考える…?ライ、アン、殿?」
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「…。はっ、ここ、は、おお、皇帝陛下。これは、飛んだ意識。とんだ失礼を…。アンリエットの話し、でしたね?」
「して、ライアン殿は、そう言った話しを聞いておらなんだか?」
「いいえ只、詳細は聞いておりませんでして…、ちょっと、かなり驚愕しまして。いやはや、他所様のお国で色々とヤらかしたものだなぁと…。大変な事で申し訳無く…。」
「いやいや、その様な事は、寧ろこの逸材、我が帝国で娶らせたい。と思ってしまう程であるぞ。なあ我が愚息よ。」
「父上、お戯れが過ぎます。またアンリエットさんは12の少女なのですよ。」
「そうです陛下、娘はまだ12ですし……、それにアンリは渡さんっ!」
と真顔に成る父ライアンであった。それに気付かず話しをする皇帝陛下。
「時にライアン殿、アンリエット嬢に婚約している者はおるか?」
「いいえ、『自ら見極めよ』とエステル…、亡くなった妻の意向で、、、決まってなどいません。しません。やりません!」
「エミールよ。どうだ?」
「どうと言われても父上…。少女に、それに生徒ですし…………。」
そして、沈黙する皇子。アンリエットは未だ起動しない。そこに他の皇子達が加わっった。
「我が愚弟よ。先程、良いナイト役であったなー」
「ああ、ルイ兄上。シスコン弟がまさか自身から他の女性をダンスに誘うとは、驚いた」
「しかも2曲も連続ですよ。驚くべき事だ」
1、2、3皇子は言った。
「ほおー」と言う横で、エミールを睨むライアン。
「突然、何ですか兄上達はっ」
「これは失敬失敬。名も名乗らず申し訳無い。私は第一皇子ルイと申す。お見知り置きを。で…」
「第二皇子オーギュストです。同じくお見知り置きを。」
「第三皇子のマティス。お見知り置きを。」
「これはこれは、私はライアンと言う者です。この子の父親です。どうぞよろしくお願い致します。………しかし、立派な皇子様達ですなー陛下。」
「いや、まだまだ若輩よ。ライアン殿の息女には敵うまいよ。」
「御謙遜ですなー!」
そんな会話が続いていた。
父ライアンは、ふと自分の娘を窺うと、エミールの少し後ろに「ピタッ」っと寄り添う様に立っている。真っ赤な顔に成って…。
「先程から、静かだが、とうしたのだアンリ?」
ライアンが話し掛けるが、無反応のアンリエット。
「伯父様ぁ、恋、なのぉ。アンリちゃんは恋をしているの!」
「ななな、なな、なんだ、とうー!」
――――ドタッ、ガチャンッ!
我が愛娘が恋をしたと言うのだ。娘至上主義者のライアンは超ド級に驚愕したのだった。
因みに、「ドタッ、ガチャンッ」はライアンが立った際、ぶつかったテーブルの音と落としたコップの割れた音である。
「そ、それは本当かっ事実なの誠なの?教えてフェーちゃんっ!?」
「伯父様ぁもう私達、もう12の乙女よぉ?恋だってするわぁ。」
ガチャン。近くで歓談していたフェーの父ユーゴも持ったコップを落とした。
「フェー。まさかおまえ…」
「あらあらまあまあ」
と、ノォーミク公爵夫妻。
「で、好きな子って、誰だい」
第二皇子オーギュストが尋ねた。何かワクワク顔の皇子達、の後ろ、だけでは無く周りに他の貴族も好奇心盛り盛りてんこ盛りで集まって来た。
それもその筈、今話題の『黒銀の姫』の恋の話しなのだ。
あの美しき『理不尽姫』が殿方に恋慕していると言うのだ。好奇心はマックス(千葉茨城の戦争原因になった清涼飲料水の事ではありません)だ。アンリエットの告白を待つ皆様は固唾を飲む。
「………ない。」
んん?
「……し…ない。。。」
んんん?
「…してない…アンリ、恋なんてして無いいいいい!」
―――――ダダダダダダダダダダダダーーーーーー。。。
周りの貴族共をジーン仕込みの体術で凪ぎ払い、階段を駆け降りダンス中の生徒を蹴散らし、外へと走り去ったのであった。
アンリエットは帝国図書館前の庭の隅で見つかった。
『冬至パーティー』は既に終わった後の事だった。




