第23話 真珠、冬至の夜に。その2。
◇◇◇
12月24日。厨房へ戻りフルールは母マリーに相談、…この場合、報告なのだが………。
厨房に入る扉の前に行ったフルールだったが、何やら建材が運び込まれている。人足に交じり寮生も居た。
平民男子の寮生は放課後、食材の運搬等の仕事に従事する者も少なく無い。女子もだ。
まあ学業を行う平民の殆んどは商人の子女ではあるが、農民の優秀な子どもも多いのだ。
そんな生徒も建材運搬を行っているのだった。
もう既に、北側の食堂の壁は取っ払われていた。
厨房に入ったフルールは、早速母を捕まえた。
「お母さん。寒く無い?」
「ああ、それな。今日から工事なンってさー。なンでも姫さん、ほら葬式に来た…」
「ルシール殿下?」
「そう、その殿下様が、『手狭に成った学食の拡張工事を…』って言ったワケさー。あンたの所為?」
いやもう私の所為で良いから取り敢えず伝える事を伝えよう。
「でね、お母さんに言わないといけない事があるの。私ね、明日パーティーに出る。」
「…はぁ?おまえの妹が死ンで、お前の頭も死ンだらお母さん、どうしたら…。ルカ、ルカが居た!」
「私、頭、変じゃ無いっ。ルカが居れば私いらないの!?」
「いやいや、そうじゃ無いよ。ルカ、可愛いだろ?」
「うん、ルカ可愛いー!」
「ウンウンそうだろうさー、ルカ可愛いよぉ。」
「そう言う話しじゃ無いでしょう?私から言いますよフルールさん。」
厨房の外、カウンター越しにナデージュが言った。話が一向に進まないのだ。
「あんた、養命しゅの…ン?養命種…?長命酒?」
「そんな酒だか薬だか分かんない物と一緒にしないで下さい。それに長命種ってのは種族の名前であって私の名じゃあありませんし…」
「スマンスマン。で?お昼は、もう終わったよ?」
「いや、そうじゃ無く……。今日の『日替り』何だったんですか?」
「今日は山羊乳仕込みのスープパスタ山羊肉入り。」
「うわあー食べたかったー!」
「そうだろ?美味かったぞ…は、良いンだ。それがさ、今日、…何て国だったか?まぁいっいかー、ちょっと変わった香辛料が手に入ってさ、何て名…サンシャイン?…あっ『サンショウ』だ。それ使ったんだよ山羊の臭みが消えて良い案配の味でさー。」
「サンショウ?知ってる気が…?」
「って、ねーさん、かーさんナディーさん!話しがズレて進まない!『ねーさんがパーティーに出る』って事言いに来たんでしょう?文字数稼いで誰が得するのー。いい加減にしてよぅもおー。」
「ね?可愛いだろ?ウチのルカ。」
◇◇◇
「――――でね、ルカくんって子が居てぇその子、女の子だと思ってたら男の子だったのぉ。」
父親に話すフェリシエンヌだったが、話しの本筋から外れ出す。
「…フェー、ルカくんの可愛さは、後にして、事件の報告しようよ?」
ここは、帝都の西地区に有る『ファテノーク邸』在外公館も兼ねている。
その居間でノォーミク公爵夫妻とその第一子であり、実は王位継承権三位のフェリシエンヌが、話し…報告と言う世間話をしている。
因みに、継承権第二位は公爵婦人エレオノールである。
先の女王エステル三世の妹君なのだ。つまり王妹殿下である。
フェリシエンヌは自分に正直だ。自分の感情を全面に押し出す、何時も自由だ。
だが、フェリシエンヌはアンリエットの為なら命も惜しく無いと言う。
アンリエットは、そんなフェーが好きなのだ。
だが時々怖いと感じる。『目が変わる』とでも言うのであろうか。アンリの敵を見据えた時のフェーの目は……。冷たく、冷めた目に成るのだ。
そんな目をするのは何時でもアンリエットの為である。アンリと共に在りたい。と願うフェーの気持ちの一つなのだろうと思うのだ。
その事が心苦しくもあった。
「…でね、アンリちゃんが、お城の謁見の間でヤらかしたの!文官首にしたのぉカッコイイのぉ…。」
「あとあと、お城の跳ね橋の上でぇ兵隊さん叱ったのぉ、カッコイイのぉ。」
「何処に行っても、みーんな、みぃんな、アンリちゃんの前だとひれ伏すのぉー。前に『平伏せよ』って言った時もだけど、言わないのにひれ伏すのよ?」
「そう言えばアンリちゃん。港の町に行った時『あれが噂の黒銀の殲滅姫』とか『理不尽姫』って!」
「止ーめーてー、もーうー止ーめーてーおーねーがーいー」
ちょっと聞いていた以上の異常な事態に成って居るのを理解する公爵夫妻と御付きのマリエ父だった。
そして、フェーは交友関係も言っちゃうモンだから、公爵は先触れを出したのだった。
◇◇◇
「ファテノーク王国ノォーミク公爵閣下、前へーっ!」
「はっ!」
(なっ、何故こう成った?何が、どうしてこんな事に…。何故に帝国皇帝陛下の御膳に私は居る。の、だ?)
混乱していた。困惑していた。公爵は、本当にワケワカランと思考も混迷だ。
(元々私は伯爵だったのだ。エレオノールを娶ったばっかりに…。ってエレオノール好きだし、あれぇ?って思ってるウチに陞爵しちゃって侯爵に成って公爵になっちゃって…、
侯爵様だよぉ、ああ!今公爵だった。何を言えば良いのだ。そうだぁ、名乗れば良いンだぁー!)
「は、私は、ファテノーク王国ノォーミク領を預かるユーゴ・ド・ノォーミクで御座います。此度はお招きに預り恐悦至極に存じます…」
「…え?先触れ出したの其方であろう…。あれぇ?」
(先触れ?そおだったああっヤっちまったよおおおー!どう切り返す。どうするどうするどーしよーーーー)
「ユゴちゃん!頑張ってぇ。」
と少し後ろに控える公爵婦人が応援しているのも耳に入らない。いや、公爵だった!
「…ぅいません…。すいまっすぇん!もう降参ですぅー!」
勝手に敗北宣言の公爵閣下。
「おとぉ様ぁ、お友達のおとぉ様に御挨拶に来たのよ?」
「はっ!そーおだったぁー!」
(気を取り直して……。よし!直したっ。)
「こんにちわあ!ウチの娘フェリシエンヌがお世話になってます!ルシールちゃんとも仲良くさせて頂いて………。すいません。言い直します皇女殿下と…」
「ああ、良い良い。此方が世話に成っていて、還って申し訳無く思っておる。最近は『お泊まり会』?とか城の修練場で乗馬や体術を習わせて貰っておる。其方のお国の王女も一緒にだ」
「ええ、フェーそんな事してんの?おとーさまびっくりだ。お怪我とか、どこか痛めたりとかさせて無ければ良いが…。
するとフェリシエンヌは言ったのだ。
「最初ね、ルシーちゃんの『お股』痛くさせちゃった……」
「そぉれぇはぁ怪我じゃあぁぁ無ああぁーいぃぃ嫌あああぁー!」
謁見の間に皇女殿下の叫び声が響き渡った。
◇◇◇
遡る12月22日の朝。学園の昇降口の廊下には一年生から四年生迄、全員の学期末試験の順位表が貼り出されていた。
一年生の一番にはアンリエット。二番はフェリシエンヌだ。
因みに、色々大変だったルカくんはどうやら順位を少し落ちしたらしいがそれでも10位だ。
そしてジュリエットは頑張り屋さん、5位なのだ。
「侯爵様にお世話に成りっぱなしで、それでもこの成果!ご報告しなければ」
とお喜びの様子。
だが、その横で暗いお顔の皇女が立っていた。
どうやら思った以上に悪かったらしい。
実は、他の学園からの『転校生』では無いルシール皇女。
本当に特別に入学したのだ。つまり『中途入学』だ。そんな事、学園始まって以来かもしれない。
あの『北ミュロ領軍の反乱』を防いだ英雄。灰銀髪の姫とそれに付き従う白雪の姫の話し……。
兄達の語る美しい少女達『双子の真珠』。
自分と同い年だと言うではないか。
しかも優秀な成績で、『新入生総代』も務めたと言う。
エミール兄上の誕生パーティーで見掛けた朝の妖精の様なドレスを着た子達なのは、直ぐに分かった。
そんな彼女達と話しがしたかった。
だから無理を言って、『編入』では無く『入学試験』を受けさせて貰ったのだ。
結果、同じ1組に入れたのは良いが、二年生に成ったらクラスが変わってしまうかもしれないにだ。
成績如何では…。
順位は『23』位。微妙だ。
編入と言う名の入学した日、教職員室でサラサ先生は言った。
「1組ってのは一番の組だ。で、おまえの希望通り1組に入れた。が、ギリギリだ。例年1組は20名、2組から5組は25名だがー今年は豊作でなー、黒い…。新入生総代を行った女子もだが、全体的に優秀な子女が集まった。定員より6人多い。
で、おまえの順位は24位。今年の1組は23名。おまえ入れたら24人のクラスになる。おまえは実質次点の2組だ。ケツに火ぃ点いてンぞ?来年の2年1組の数は減るかもしれんし、増えるかも。だ。つーワケだ。頑張れよぉ。」
(ヤバい。このままじゃ、来年2組かも。危機感持って頑張らないと…。あ、イイコト思い付いた。冬期休暇、あの子達とお勉強しよう。中々私、賢いわ)
何やら順位表の真ん前が、騒がしく成った。
「って、何でおまえこの順位なんだよー」「おかしいじゃん」「採点おかしいんじゃない?」「これじゃまるで特待生みてーだー!」「ってロイクくん1組だっけ?」
「ウン。俺、1組、特待生だけど…」
「…特待生。あ、1組」「おまっ、自宅から通ってなかった?一時間掛けて…」「何で寄宿舎じゃねーの?ただじゃん!」
「ウチんチ商人だぜ、帰ってから仕事してんしぃ」
「ロイクが『3』位…だと…。」
これは帝国の威信に掛けて…!と改めて勉学に励むと心に誓う皇女であった。




