第16話 真珠、港の町へ。その3。解決。
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駐屯地を直ぐ後にして領境を越える。騎乗の衛士が護衛の冒険者然とした格好をして、馬車の前と後ろに二騎ずつ計四騎。
御者台に『商人の息子』であった二人の国軍兵が付いた。
一人は御者、もう一人は『ジェイロック商会』の商人の役としてだ。
アンリエット達三人は商品として一人一人、大樽に入る事に成っていた。
成る程、門兵の目を欺く為、大樽を使っていた訳だ。
だが、大樽が商品だとは思わ無いだろうか?まあ、そこは、多少の金品を門兵に渡したり。ってところであろう。
四人の12歳の美少女。
そして、ジーンとマリエも商品役だ。何を隠そう、二人は17歳に成ったばかりの花も恥じらう乙女なのだ。
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こうして港町バルサザー、領都に二日掛けてたどり着いた一行であったのだが、ここに至る行程で盗賊に二度遭遇していた。
何故、無事だったのか。それは『ジェイロック商会』の小飼いの盗賊達だったと言う訳だ。
それは、既に帝都で知れていた。家宅捜索の中でも知れたし、番頭や他の幹部従業員からも同等な事を聞いていたのであった。
『ジェイロック商会』の印の意匠を見た盗賊は何もせず馬車を見送ったのだ。
バルサザーの町に入る前にアンリエット達は汚れた一枚布の麻布に着替え、押収した奴隷の金属首輪を付け各々大樽に入った。蓋は衛士が木槌で閉めた。
町は城郭都市の様な市壁は無く町の入り口に検問所があるのみだ。
門兵に商会の手形を見せ小金貨を渡す商人役。
「何時も有り難うごぜいヤす」
と門兵が言うのを聞き、町へと入った。
『オークション会場』である建物は、なんと領役場と町役場の並ぶ町の中心部に在る劇場であった。
そして『商品』として運ばれるアンリエット達は会場ホール。演劇場の舞台に出入りする袖の下、舞台の下の木で出来た牢に入れられたのである。
大捕物の決行は夕方5時。その十分前に国軍の騎兵百騎が町の入り口に待機し、その後を歩兵やその他の騎兵六千。約二万の国軍で町を包囲する手筈に成っている。
舞台下の牢には自分達6人の他に少年や『長命種』の女性、少年少女数名。他の牢には、おそらく労働力としてだろうかそれとも好事家の婦人の楽しむ為なのか屈強な『強化種』の男性も数名居た。
午後4時30分、『オークション』は始まった。
客の中に仕込みも二人入っている。
そして、司会の『ジェイロック商会』バルサザー支店の店主が長い口上の後、アンリエット達6人を紐で一括りにした係が紐を引き舞台へ上げるのだった。
フェリシエンヌから競りが始まった。
「この少女は、帝都の産出で、とある伯爵の妾の娘。と言う事で…、勿論処女です。
えー、ではぁ金貨10枚から。お!早いですねぇ、では11番札の方。」
「金貨20枚。」
「もういませんか?この娘、読み書き算術等々出来ますよ。
はい、3番札の方!」
「金貨25枚!」
「またまた11番!」「30!」
「35枚。」「いや40だ!」「45!」
「金貨100だ。。。」
会場に、「オオオオオオオ!」っと言うため息なのか?そんなどよめきが響いた。
店主が木槌で、カンカンカンと叩いた。
「金貨100枚。11番札の方に……「200枚だ。金貨200だ!」
会場は更にどよめいたのである。
完全仕込みの役処で、ちょっと調子に乗ってる国軍士官様達だったりする。
「そちら、後ろの黒髪っぽい少女の二人合わせ金貨500枚を出そう!」
―――――ウオオオオオオオオオオオオオーーー!!!
会場のどよめきは寧ろ大声に成っていた。
会場の客の幾人か、何かに気が付いた様に首を傾げる。
「白銀の娘?黒い…いやあれは銀髪…黒銀?」
「白と黒の双子…か?」
「いやーまさか噂噺など。はっはっはーー!」
「いいや、私は聞いたぞ、12歳で帝都の学園の学生で、それは見目麗しい良く似た姉妹の何と言った……。『双子の真珠姫』だ。」
「わ、わしも伝わり聞いておる。確か姉は、そう『黒銀の殲滅姫』…!」
「そ、それは反乱軍五千を一瞬で屠った。と言う話しの、か?」
「その話し、盛り過ぎでは……………。」
さっきの調子こいだ士官殿、大声で、
「それではお願いします。我が愛しの『黒銀の理不尽姫』!」
会場は一瞬グニャリと全ての景色が歪んだと皆が感じたのも束の間、暗転した。
舞台の上にはあの双子と支配人しかいなかった。
それ以外、何の変わりも無い様であった。
会場出入り口の扉から逃げ出そうとするオークション参加の客達。
「扉が。扉が開かない!」「開かない!」「どうなっているのだ。扉に触れもしないではないかー!」
そう『異層』は『表層』の生きた者達が干渉出来る所では無い。
そして、おそらく唯一干渉出来る者は『アンリエット』只一人なのだ。
アンリエットは客役の士官さん達が舞台上に来た時を見計らい。
「隊長さん、あたし達と戻ります。えいっ!」
隊長さんとアンリエットに呼ばれた調子こいだ士官さんは客席を見て驚いた。客が一人も居なかったのだ。
「こ、これは…。話しに聞いてはいたが………ムムゥ。。。」
「隊長さん。時間はぁ?」
「待て、もう少しで5時、だ。――――――――――よし5時!」
「生体だけ戻します!」
瞬間、客席が全裸で埋まったのであった。
出入り口の扉が一斉に開き、皇帝の令状の羊皮紙を高く掲げた衛士が口上を述べた。
「これは皇帝陛下の厳命である。この令状を見た貴様等は床に伏し拘束されるのを待て!これは陛下の命である。従わぬは死を覚悟せよ!」
帝国内外の商人、貴族やその子息。そしてなんと南ミュロ領を皇帝より預かる代官と側近迄客として居たのだ。
「後は国軍の仕事だ。」と言う隊長さん。
南ミュロの領軍も信用出来ないのでバルサザーの港町を囲む軍の半分一万を使い調査を続ける。とルシール皇女殿下に言うのだった。
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その日の夜に念願叶ったアンリエットとフェリシエンヌだった。
町の食堂で、恋い焦がれた『海の幸』を心行くまで食べさせて貰えたからだ。
翌日、帝都への帰路に着いたのである。
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帰路、アンリエットは憂鬱であった。
彼女だけでは無く、皆気分が沈んでいた。
助けた少年少女や『長命種』『強化種』の人達の何人かは家族を殺され連れて来られた。と、言うのだ。帰る場所が無いのだ。
ルシール皇女は言った。
「では、私がこの人達の面倒を…」
それを聞いた隊長さんは優しく言ったのだった。
「姫様。姫様の御気持ち、良く分かります。ですが、この国には同じ様に家族や恋人、大切な友人を失くした者が沢山居るのです。姫様は今後、幾人の面倒を見られるのですか?何十?何百?何千?切りが有りません。そう言う事を行う役目の者が行うのです。私は私の『国を守る兵士』として役目を全うしております。
姫様は今、学生です。自分の役目を見付ける時期はこれからなのですよ。」
そう言って、自分の部隊に戻る隊長だった。
数名、有名貴族の関係者もオークションの客に居た。貴族御用聞きの商人も居た。
これから帝都でも皇宮でも大掃除が始まるのだろう。
こうしてアンリエット達は帝都への帰路についたのである。
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そして、帝都迄後二日の町。川向こうの山裾の町に着いたのだった。
宿に着くと町の警吏が宿に来た。
「ルシール姫殿下御一行にエミール殿下より伝言を預かっております。」
ルカくんの父と姉の葬儀が二日後に決まった。と言う内容だったのだ。




