第9話 真珠の新しい友達。
◇◇◇
9月27日の早朝。帝都中に【御触れ書き】が貼りされた。
『本日午前10時より。
9月14日早朝に起こった。北ミュロ領領軍の帝都襲撃を未然に防ぎ、我が国の兵士及び、敵軍に殆んど死傷者を出さず、内乱を納めた最大の功労者であるアデリーヌ学園生徒であり隣国ファテノーク王国国王息女アンリエット王女。
その者の【凱旋パレード】を執り行う』
と言う内容である。
住人達は、誰があの事件を事前に防いだのかも知っていた。
漏れ伝わった「ミュロ軍を発見した後、早馬での近隣の駐屯地にいる国軍領軍への召集と市壁の外での軍の配置等の采配を行った」のも、彼女の働きであったと言う事実を知る者は、かなりいる様であった。
実際、数日街を廻って残党探しをする貴族っぽい嬢ちゃん達を見た住人も数多くいたし、励ました人達も居たのだ。
街中が、住人達の言う『理不尽姫』を知っていた。
パレードの始まる数時間前に御触れは、自分の所轄を警吏達が触れ回ったのである。
◇◇◇
こうして、凱旋パレードが始まったのである。
右列に大きな帝国国旗を掲げた儀礼兵を先頭に槍を持つ都軍兵が正装姿で行進する。国旗の差ほど遅れて左列が行進する。
左の先頭の儀礼兵が持つのは、真ファテノーク王国の国旗だ。続く国軍も正装をしている。
左右の兵士の列の先頭は各々の軍旗を掲げ国旗を持つ儀礼兵に遅れて歩き出す。
そして、左右の列に続き帝国皇家の意匠の旗を持つ儀礼兵とファテノーク王家の意匠の旗を持つ儀礼兵が左右の馬に各々乗っている。
最後にアンリエット達の乗る馬車が馬上の儀礼兵二人を引き連れ南門から入場するのであった。
――――――うわああああああぁぁぁーーー。
と言う歓声が波の様に拡がり、民衆は口々に「皇子さまーーー!」「双子姫えーーー!」と呼び叫んだ。
勿論、一番大きな呼び声は、「アンリエット」や「アンリエット姫」であったのなら、アンリエットも然程、動揺しなかった。かもしれない。
「殲滅姫さまーー!」
と言う声が一番大きな叫び声だったのだ。
因みに次点は「理不尽姫」であったりした。
淡い空色のドレスの所々に然り気無い翠玉をあしらい少し大きめの翠玉を付けた首飾りを着たアンリエット。
殆んど白と言っていい灰色のドレスは銀色の飾り糸が入り碧玉が散り嵌められ少し大きめの碧玉の首飾りを着たフェリシエンヌ。
アンリエットを挟んで皇子様みたいなエミール先生が並んで馬車に座っている。
大通りの右も左も沢山の民衆が小さい旗を両手に持ち、振っている。
旗は帝国と王国の物だ。
大通り建物の二階や三階の窓々から色とりどり、では無い『白銀』と『灰銀』の紙吹雪が蒔かれまくる。
皇子様っぽい格好のエミール先生が「ほら、僕のやる様に民に手を振って」とアンリエット達を促す。
そのうちに「あいつが邪魔で姫嬢ちゃんが見えねー」「第四皇子、どけ!見えないだろう」と言う、不敬な言葉がちらほら聞かれた。
一段下がった御者台に座る御者が「アンリエット様、只手を振るのではなく、ちょっと立って振ってみて下さいませ」と言う。われるままに
アンリエットは言立ち上がった。
――――――うわああああああああああああああああああああ!!!
割れんばかりの民衆の声が帝都中に響き渡った。
大通りをゆっくり進む行列は帝城に至る中央公園に入った。
その公園の中、と言うより城の前を左右に通る東と西の門を直線に繋ぐ大通りの手前に少し大きめな丸い池がある。
真ん中には『噴水』と呼ばれる物から水が上に向かって出ていた。
アンリエットは「どうやって水が吹き出るんだろう」と何時も見掛けると考えている物だ。
そこに向かって行進は続き、池の前で行列が左右に割れ右と左に整列した。
馬車は整列し終えた兵隊の真ん中池の前で止まった。
エミール先生は立ち上がり反対側を向き、つまり南を向いて拡声具と言う物を口に当てた。アンリエット達を立つよう言ってから。
「ここに集まった臣民よ!私は帝国、第四皇子エミールである!」
フェリシエンヌは勿論、アンリエットもびっくりした。
こんなに大きい声を出せる仕掛けがある事に!
先生は続ける。
「…この国難に際し隣国からの客人がそれを救ったのである!街の英雄である!」
――――――わあああああああああああああさあああああ!
先生は手で民衆の歓声を静めた。皇子っぽい。で、続けた。
「…この者は皇家に弓引く者共を発見した後、迅速に我が兵を采配。そして、自らの持つ力により五千に及ぶ敵を摘み取ったのである。帝都を救った。即ちおまえ達民を救ったのがここにいる少女、ファテノーク王国のアンリエット姫殿下である!!!」
―――――うわああああああああああああああああああああああああ!!!
中央公園が壊れる程、歓声は続いたのであった。
そして、アンリエットは見た。前に見たあの横断幕を……。
『祝!白黒真珠姫』
『祝!黒銀の姫と月白乙女』
『祝!一撃必中瞬殺翠珠の黒銀姫』
今度は『祝』が付いていた。
◇◇◇
帝都の大騒ぎも納まりつつあった。
なので、徒歩通学を再開しているアンリエットとフェリシエンヌである。
そんな日常に戻りつつある1年1組の教室で後ろの席で雑談しているロイク達。
何故、後ろの席にロイクが居るのかと言うと、アンリエット達とお話ししているジュリエットに席を占領されているから、なのである。
授業の始まる前は、教室の後ろがロイクの定位置となっていた。
「ンでさぁ、話し変わるけど、おまえんチ、かなり儲けたって聞いたぞ?」
「え、何々、何の話し?」
「ほら、おまえも持って振ったろ。旗をさー。」
「あぁ、大銅貨2枚で買わされたやつ?」
「「買った買った」」
「どう言う事?」
そんな友達の追求に得意気なロイクは言う。
「それなー、ほら遠足中止になったって学園の職員が知らせに来たろ?俺んチにはサラサ先生が来たのさ。
で、中止言って、先生帰りがけに呟いてるんだ『ヤロゥと黒いのが巻き込まれた』って…」
「ん?そんだけ?」
「いやいや。先生帰った後、俺んチの前の通りをさ、銀姫先頭に皇子先生と騎兵二人が凄い速さでお城の方にいっちゃって…………。」
「って、何?銀姫ちゃん先頭って、姫ちゃん馬に乗れんの?」
「そーなんだよ!俺、馬車運転出来っけど、普通に驚いたゼ、なんか皇子先生よか速えーの!あ、閑話休題。でなぁ、昼前にウチにタバコ買いに着た馴染みの門兵が『他所の国の姫様が千人以上の敵を剣も槍も鎧も何もかも奪って無力化した』って言うんだ………。」
「結局五千人だったもんなぁ」
「そう、五千!敵全滅。仕入れ出来ないって外に様子見に行ってた親父がそう言ったんだ。んで、俺こりゃあ『パレード』有るなって思ってよ。親父にさ、やっつけたお姫様の事と見た目を言ったのさー。だから、あの『紙吹雪』と『国旗の小旗』ってな訳。」
「旗とか紙吹雪の用意が早かったのはそう言う訳だったんだぁ」
「「スッゲーーーー!」」
「おまえ商才あんな…」「バカだと思ってた」「僕も」
明日から10月。今日は月末の9月35日です。
+++
なぜなら、この皆の住む所の一年は421日なのです。
一ヶ月35日。6月だけ36日あります。
因みに、一日は24時間ですが、地球の時間に換算すると22時間位…と言う設定です。
+++
設定って言っちゃった。。。
◇◇◇
9時です。
今日の一時間目は算学です。
サラサ先生の授業ですが、一緒にエミール先生が教室に入って来ました。
「えー、授業の前に、だ、編入生がこの組に入る。1組ってこたぁ、それなりに優秀だ。本人の強い希望もありー…。まあ、入れぇーーー!」
教室中、「転入生?」「また中途半端な時期に」「お家の事情ってヤツ?」「女の子かな」「美少女がいいな」と勝手に騒ぐ生徒達。
そして入って来たのは、少女だった。
口には出さないが、フェリシエンヌは思い出す。
(あの子ぉ、お城のパーティーでも、後ぉ、何故か謁見の間に居たよねぇ。確か)
そして、アンリエットはびっくりした。
通学時必ず見る人にそっくりだったのだ。
跳ね橋の貴婦人。あま色の髪、海色の瞳。皇帝の第二皇妃に似た感じの少女だった。
思わずアンリエットは声に出してしまったのである。
「リュシー皇妃!?」
「え?」
転入生も驚いた。
「はーい、静かにするー!自己紹介よろしくぅ」
「はいサラサ先生。私、名を『ルシール・エリアーヌ・ド・ヴァレリー』と申します。名前の『エリアーヌ』は、東の丘の名で、そして私の何代か前のお方のお名前を頂いたモノです。皆様、宜しく御願いします」
「えぇ終わり、か?じゃ席は…」
「「「「ハイハイ!」」」」
「あのな授業がな…、まぁいっか、はいじゃナタンさん」
「えー。『ヴァレリー』って家名は二つしか無いですから西の『ヴァレリー公爵領』の出身ですか?」
「いいえ。」
「…じゃ、じゃあ皇家……?」
ザワザワざわめく1組である。
「どうせバレるのだし、こう言う事は先が良いので言います。私はこの国の第二皇女です。継承順位は…、8位です。第二皇妃の娘。同胞の兄がエミール。先生です。こんな所ね。あ、サラサ先生、私から質問良いですか?」「イーよー」
「では、あなた、何故、母の名を?…………私が名乗る前に言いましたよね?」
と、アンリエットを指差し、言ったのである。
「…………。」
「聞いていますか?」
「黒ぉ…、アンリエットさん答えたげてー!」
「あ、あぁス、スイマセン。えぇと、あたし何時も見てる………。じゃなく。。。あ、ほら、お城に姿絵が、第二皇妃様の大きい姿絵も陛下のお部屋にも有ったもので……」
「えぇ!お父上の部屋って仰いました?私、入った事ありません。兄様も…ですよね。あ、一の兄上は『立太子』の儀の時入ってますが…。ああ、冷静になります。成りました。まあぁ、そんな事もあるでしょう。何せあなたの一言で高官の首が飛びましたものね」
――――――うわあああああああああ!マジかああああああーーー!!
「マジ殲滅姫」「っつか、敵五千屠ってンだぜ?」「何て一言だろう」「益々好きになっちゃうぅ」「勃ちゃった僕ぅ。」「我がライバルと……「お前ちっとも近づいてもないし」」「銀河の歴史がまた一ページ…」
何時もと違い、目をキラッキラとさせ「ンで、ンで?」とサラサ学年主任は、「ルシールさん、内容は完結にお願いします」と言ったのだった。
「はい…。」
「そーうー言ーうーのー止ーめーてーーー!」
「確か―――――――『私を大量殺人の道具とするかー、他国とは言え一国の王女を愚弄するか、其方等の国であろう。其処な者、名を名乗れーーー!』………こんな感じの事を言ってました。それで、高官が『小娘がー』、みたいな事を言ったら『敵対行為だ』って言って『国に戻ってこのような愚行を行う者を取り立てている国があるのを周辺諸国に知らせるぞー』って感じ?すんごく凛々しくって、私濡れ…………、感動の涙で濡れましたの。」
―――――おおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!
一時間目は授業にならなかった。
そして、瞬く間にアンリエットの謁見の間の事件の詳細は拡がったのだった。




