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作者: スーホ


雨が霧のように降る晩の事だった。

時間は夜半を超えていただろうか。


喉が渇いたので近所のコンビニエンスストアへジュースを買いに出た。

たまに横風にのって水滴がコンビニの袋を濡らすのを嫌って、傘をあまり高く上げず頭が半分隠れるほど深くさしていた。


買い物をすませ、家の近所の橋を渡ろうという時だった。


傘に上半分の視界を奪われた状態で少し俯き加減に歩いていると、視界に何かが入ってきた。


橋は中央部が一番高く、かすかなアーチを描いており、一番中央部に街灯がついている。

街灯の明かりはさほど強くもないためぼんやりと周辺を照らしている。


その街灯の下に通行人が見える。


正確には、通行人の足だけがぼんやりと浮かび上がって見えた。


傘が視界の上半分を遮っているため、人物の全体が見えない。


傘を少し持ち上げで前方の視界を確保する。


しかし、やはり足しか見えない。


ふくらはぎから上は闇に溶け込むように判然としない。


足は、こちらの歩行速度と同期しており、差は縮まらない。

足は明かりの届く範囲を過ぎてもぼんやりと見え続けている。


少し気味が悪いので上半身の存在を確認したくなり、少し早足にして追いつこうとした。


しかし、足は橋の緩いアーチの向こう側へと進み、視界から消えてしまった。


速足のまま進んで自分が橋の中央付近までたどり着き、橋の向こう側まで見通せる位置までやってきたが、そこには誰もいなかった。


橋の向こうにある街灯はむなしく無人の道路を照らしている。



あの雨の中を歩く足は何だったのだろうか。



そういえば、この橋で過去にもう一軒の怪異を経験している。



やはり深夜に歩いていると、橋の向こう側でカチャカチャと音がした。


その音は、犬などの動物がアスファルトの上を歩くときに立てる爪の足音に酷似していた。


きっと色の濃い犬が歩いているのだろう。

しかし昭和ならいざ知らず、令和の時代に野良犬がそんなにいるだろうか。


飼い犬が脱走しているのだとしたら保護して飼い主を探してあげた方が良い。


そう思って足早に橋を渡り、犬の姿を探した。


足音は聞こえるものの、その姿はどこにも見えない。

しばらくきょろきょろとしていたら、不意に近くで足音がした。


走っているのではなく、ゆっくり歩いているような音だ。


驚いて周囲を見回したが、動く影は無い。


その足音は、まるで私の足元を通り過ぎて後方に抜けるようにカチャカチャと音を響かせて橋の反対側へと進んでいった。


音を追いかけて橋を戻ってみたが、やはり何も発見できなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆったりとした調子で淡々と語るような文体が、夜の不気味さを感じさせてくれますね。 描写が丁寧で、作品世界に浸りながら読むことができました。
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