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天国へ行ったロックスター

作者: George

私は大学時代、友人とロックバンドの真似事のようなことをしていた。小さなライブハウスでギターをかき鳴らし、ライブが終われば皆で朝まで飲み明かした。大学が夏休みになると友人の小さな下宿屋に皆で集まって大騒ぎをし、しょっちゅう大家のオヤジに怒鳴り込まれたものだ。今では当時の友人たちとは疎遠になってしまって、皆どこで何をしているのか知らない。それゆえに先日の急な友人の訃報を告げる電話に、私はひどく動揺してしまった。

「あいつ、1週間前に死んだらしいぞ。自殺だって」

彼はバンドのメンバーの一人だった。長身の彼は往年のジミー・ペイジのように髪を長く伸ばし、ステージ上でも平気で酒を飲み、物言いもぶっきらぼうな、いかにもロックンロール然とした男だった。最後に会ったのは大学を卒業して3年後、記者としてたまたま下北沢に取材に行ったときに会った以来だ。その時の彼は、長髪に派手な刺繍の入ったジャケットを着た、私の知っていた大学時代の彼のままだった。今でもギターを弾いて生活をしている、今度ライブがあるから来てくれ、と言っていた。

せめて線香だけでもあげにいこうと、私と電話をくれた友人は急ぎ彼の実家に向かった。家の中で彼は黒縁の写真に納まっていた。何かの宣材写真を引き伸ばしたのだろうか、着飾った服を着て、少し、疲れたような目をした彼の遺影を見て、私と友人は彼がもうこの世にいないことをようやく実感した。

線香だけをあげて、そそくさと彼の家を去ろうとする私たちに「少し待て」と彼の兄が言うと、タクシーに乗り込む私のポケットに小さく折りたたんだ紙を突っ込んできた。

「これ、お前らになら……。ちょっと家に置いておくには辛くて……」

「これは?」

最初は恥ずかしくも帰りのタクシー代を渡されたのかと思ったが、紙はノートの切れ端のようなものに何かが書かれたメモ紙のようだった。

「あいつのポケットから出てきた。たぶん、歌詞、なんだと思う」




 頭をかきむしるほど欲しかった夢は / 僕にはもうない

 いろんなことに折り合いをつけて / 生きてるだけなんだ 

 これを"大人になった"なんて格好つけた / 言い方はしたくない

 とても惨めで信じられないくらい / 悲惨な生き方なんだ


*でもそんな自分も許せてしまう / 自分もいるんだ

 もう僕自身が以前のように / 真っすぐじゃないから

 きっと許せてしまっている / だけなんだろうけど


 ヒーローはいつでもヒロインと / 一緒になるなんて

 夢はがんばればいつか叶うなんて

 そんなことはないんだって / いつかわかった

 でも本当は、それは僕がヒーローじゃ / ないっていうだけだったんだ


 *refrain


 明日はきっと明るい日だなんて / 思って生きてるわけじゃない

 明日が素晴らしいから僕らは生きてるんじゃない

 重い身体をずるずる引きずって

 どうしようもない毎日を這っているだけなんだ

 そうじゃないって言う人もいるんだろうけど

 僕にはその気持ちはもうわからない

 だからお願いだから

 そんな人たちは僕の前からいなくなってくれないか

 僕は自分で自分を許せて / ずるずる生きてるだけなんだ


 だから希望なんて見せないでくれよ

 僕の身の丈に合わない希望なんて

 僕自身を焼いてしまうだけなんだから




天国へ行ったロックスターよ、一体お前になにがあったかは聞かない。

ただ、あんなに、俺たちの中で一番ロックだったお前が、こんな風になってしまってたなんて知りたくなかったよ。

窓の外は雪がちらつく寒々とした井の頭通り。私と友人の嗚咽だけがタクシーの中に響いた。


(了)

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